吸血鬼
私達4人は夜の屋上に出た。
刑事さんとレイ君、お父さんと私の4人だ。お父さんが部屋を用意すると言ったが、刑事さんが、室内は人も多いので屋上の方が良いと言ったせいだ。春とはいえ夜の風はまだ冷たい。
「やはり部屋を用意しましょうか?」
「いいえ、こちらでよろしいですわ。邪魔も入りにくそうだしね」
刑事さんの瞳がその髪と同じように金色に輝く。
「?!」
思い出した、桜に絡みつく黒い影の瞳と同じ金色の瞳とその笑み。
「桜を襲ったのはあなたね」
「鋭いわね、お嬢さん。じゃあ、私がここへきた理由もわかるかしら? あなたよ、黄金律のお嬢さん」
「アルセクトさん、美月を連れて逃げて!」
レイ君が私と刑事、いやカミラの間に割り込んだ、そのレイの瞳も金色に輝いている。
「原種のヴァンパイアでも私の敵ではないわね。レイと言ったっけ? その娘の血をまだ吸っていないでしょう?」
カミラがさげすむように笑う。
「それがどうした?」
「本物の不死の一族になっていないあなた…… いいえ、原種としても完全に覚醒していない君では私に敵わない。そう言っているのよ。たとえばこんな事」
カミラが右腕を横に振ると同時に、弾かれたレイ君の身体は、フェンスにぶつかって止まった。カミラの腕は直接レイ君に触れていない。カミラの口調だと何らかの能力のようだ。
「できないでしょう?」
私はレイ君に駆け寄り、抱き起こす。
「大丈夫だ! 早く逃げろ」
「で、でも」
カミラがゆっくり近づいてくる。その前にお父さんが立ち塞がった。
「美しい愛情だけど、無駄ね」
カミラが両手を前に出し握る仕草をした。
「ぐわーっ」
とたんに、鈍いなにかが折れる音が響いて、お父さんが倒れた。
「お父さん!」
「まずは、両足。次はどこをお望み?」
カミラの履くピンヒールが、お父さんの右上腕部を踏みつける。次の瞬間、鈍い音がして折れた。
「ちくしょう」
レイ君がカミラに飛び掛る。
「あはは、おそい、おそい。これをあげる」
私の目には何が起こったのかわからなかった、気が付いたときにはレイ君の両腕に銀色に光るナイフが柄の部分まで埋まっていた。
「ぐっ」
「あはは、銀のナイフよ。ヴァンパイアの優れた回復力でも簡単に回復できないわよ。これもプレゼントするわ、遠慮しないで」
カミラが腰に下げた銃を抜きレイの両足を打ち抜く。レイ君は、うめき声ひとつ上げずにカミラを睨んだ。
「美月、逃げろ」
「美月、逃げなさい」
レイとお父さんが同時に叫んだ。
「逃げても良いわよ」
カミラが意外な事を言った。
「この二人が死ぬまでの間、逃げる時間をあげるわ」
私を見てカミラは嬉しそうに笑った。
カミラにまったく歯が立ちません。
レイ君も作中にあるように不完全な状態ですし、アルセクトさんはまだただの人間ですからねぇ。
そんな状況下、美月の出した答えは?
次回で美月編は終了です。
では来週の火曜日に…… いや明日の今ぐらいの時間に臨時で更新します。