選択肢
「ほら、水だ」
田坂さんが放り投げた500mlのペットボトルを受け取った。まだ冷たい。
「どうだった? って、その顔を見ればわかるわな……」
「ええ、上から命令が出たそうよ。6:00まで扉は開かない」
ペットボトルの水を直接飲む。体中に染み渡る感覚がたまらない。水がこんなに美味しいと思ったのは久しぶりだ。
「そうか」
ちょっと空気が重い。私は少し明るめに言ってみた。
「大ピン〜チ、よね」
「大ピンチって秋穂さん、他人事みたいに」
佐藤さんの言葉を聞きながら、私は倒れていたパイプイスを立てて座った。
「ここで質問。この後どのように行動しましょうか?」
私は選択肢を上げていく。
A、この場に留まり夜が明けるのを待つ。
「ただし、ここも安全でないのは見ての通り。」
B、はぐれた人達と合流を目指す。
「合流できたらいいけど、出来なかったら最悪よね。薮蛇にもなりかねない。」
C、当初の予定どおり、容疑者を追う。
「でも戦力的には不安よね。しかも相手の正体が私が考えているとおりなら、返り討ちにあうのがオチね」
「そのあたりを踏まえて皆さんの意見を聞きたいのだけど?」
「ところで、秋穂さんはどれが良いと思います?」
佐藤さん…… 聞いているのは、私なんですけど……
「俺達も、あんたの意見を聞きたいな」
と、舞奈さんと行動していた捜査員からもありがたい言葉をもらった。
それで意見を聞いたら、それにしようというつもりですか? 日本人らしいけど…… 本当に日本人らしいけど……
今の日本人って、ほとんどの人が外国人の血が入っているはずだけど、こういう所ってかわらないのよねぇ。
助けを求めるように田坂さんを見たが、なにやら考え込んでいる。
……駄目だ。私自身はBが良いと思うけど、さて……
「ええっと、私は皆との合流を目指す方が良いと思います。私1人ならここで夜が明けるのを待っても、いいのですけど……」
「……」
「……」
「……」
「……」
ちょっと、何か言ってよ。私、何か悪いこと言った?
「お嬢ちゃん、合流する人の当てはあるのか?」
田坂さんが沈黙を破った。しかし、いつまで人の事を「お嬢ちゃん」と呼ぶつもりなのかしら……
「舞奈、いえ月島さんを探そうかと思っています。無事であればここに向かっているはずですし、負傷していても最後に別れた場所の近くにいると思います」
「それじゃ、行こうか」
ちょっ、ちょっと、田坂さんまで、自分の命が掛かっているのよ。そんなのでいいの?
「どうかしたのか?お嬢ちゃん」
田坂さんが私の表情に気が付いたらしい。
「お前ら、他に意見あるか?」
残った3人に聞く。だが、あろう事か3人とも首を横に振った。
パニックになるよりはいいかもしれないけどさ…… つ、疲れた。体中から力が抜けていく。この人達、生存本能あるのかしら? 誰か助けて……
私は心の中で頭を抱えた。
今回もなにやら困っている秋穂でした。
今回もあまり動きがありませんでした。
次回は秋穂の師匠である月島舞奈さんのシーンをお送りします。
すっかり影の薄いレイ君も登場予定です(笑
ではまた水曜日に。