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また試作品?


 月光の下、廃墟と化した町の車道でゾンビが蠢いている。先ほどまでまったく姿を見せなかったゾンビたちが、崩れかけたビルの分厚いドアに群がっている。

「佐藤さん、他の班に連絡つかないの?」

 通信機で連絡を取ろうとしていた佐藤さんは、手の平を上に向けて肩を竦めた、古臭いジェスチャーをする人だ。

「通信機も携帯電話も繋がりませんね。このあたりなら中継アンテナの範囲内なのですが」

 突然、主人クラスの吸血鬼ヴァンパイア人狼ワーウルフ達の襲撃を受けてから30分経っている。私にしても佐藤さんと田坂さんを守るだけで、いっぱいいっぱいだった。そんなわけで、他の班とは完全に分断されたようだ。

「完全にしてやられたな。お嬢ちゃんすまないな、足引っ張ってしまってよ」

 田坂さんが自嘲めいた笑みを浮かべた。

「充分予想できた事態ですし、そのためのP90ですよ。でも今は撤退の一手しかないですね」

 非統制区の出入りである東西南北の門にたどり着く事が出来れば田坂さんと佐藤さんの安全を計れる。

「私が血路を開きますので、西口に向かいましょう」

「西口ですか? ここからだと、北口の方が近くないですか?」

 確かに西口よりは北口の方が近いし、西口に行くには先ほど襲撃を受けたポイントを、通らなければならない。

「佐藤! 作戦前、お嬢ちゃんを信じると言ったとおりだ」

「田坂さん、気を使わなくてもいいわよ。佐藤さん、確かに北口の方が近いけど向こうには、なにもないのよ。武器弾薬の補給も出来ないし、他の班の情報も入らない。でも、西口には本部があるから、少しくらい危険を冒す価値はあると思うの」

 私は残弾をチェックしながら答えた。

「秋穂さん、西口に戻ってからまた引き返すつもりですか?」

「2人を送り届けてから、皆と合流を試みるわ。まさか1人で紅茶を飲んで高みの見物という訳にはいかないでしょ?」

 P90、シグP239の残弾もOK。バックアップのダブルデリンジャーもOK。日本刀とナイフに刃こぼれもなし。そして、『斬』の店長から貰った手榴弾が2個。 確か、試供品だと言っていたわね。どこのメーカーが手榴弾の試供品なんか……  とりあえず、ちゃんと使えるわよね?

「秋穂さん、考え直してくださいよ。1人で引き返すなんて無茶ですよ」

「佐藤さん、貴方が犯人を追っていて素人しろうとに「犯人が、拳銃を持っているから、追跡をやめなさい」と言われたら、犯人を追うのをやめる? それと一緒よ。この場では私がプロで佐藤さん達が素人なの。やらなきゃいけないことはやるわよ」

 正直に言うと、他のハンターたちのことは心配していない。私より経験も実力もある人たちだ。自分でどうにかするだろう。

 問題はそんな彼等が、捜査員の人たちを足手まといと切り捨てた場合だ。最悪の場合、置き去りにするだろう。でも私はそんなのは嫌だ。

 そんな考えは口にも表情にも出さず、私は田坂さんと佐藤さんに笑顔を向けながらビルの入り口に群がっているゾンビの群れにピンを抜いた手榴弾を2個、2階の窓から投げ入れた。

 数瞬後、思ったより大きな爆音が響いた。慌てて窓から階下をみるとゾンビのパーツがバラバラに散らばっていた。車道の反対側でも吹き飛ばされて上半身だけになったゾンビが這いずっている。

 ちょっと、いくらなんでも威力がありすぎない? 半分に減らせれば上出来と思っていたのだけど……

 私は内心の戸惑いが表情に出ないように、新たに笑顔を作ると田坂さんと佐藤さんに言った。

「さあ、爆音でいらない連中が集まる前に逃げましょう」

 ちょっと言葉が棒読みになっている私を、疑うような顔をして見ていた田坂さんと佐藤さんの背中を階段に向けて押す。これがマンガやアニメなら。私の顔には大きな汗が描かれているだろう。もしかしたら縦線かもしれない……

 てんちょ〜、本当に試供品よね? まさか、また試作品? 生きて帰ってとっちめてやるから。私は紅月の下、誓ったのだった。


やっと非統制地区内に舞台が移行しました。

と言いつつ戦闘シーンは無いです。


サブタイトルはもちろん手榴弾のことです(笑

設定では試供品でなく、店長の試作品です(笑

後で秋穂にとっちめられる店長の姿が目に浮かびます(笑


さて本日が今年最後の更新日ですが、本日はもう1話更新させていただきます。よければお付き合いください。


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