四章:血と名前1
「お願いします」
ジクスは頭を下げた。
「全く、お前は。犯罪者を生かしておくなど何事だ!!」
怒声が響いたのは、王座の間。王座には怖い顔をした白髪の男が一人座ってい、その横には黒服をまとった六人の術師が居た。以前、ルルアが言っていた「うえ」とは、ここにいる人たちの事だ。
全てを知り、全てを動かし、全てを罰することのできる究極の組織――マギラ。
マギラは全員で八名。もう一人は、今は不在らしい。
ジクスの前で王座に座っているその男の名は、カテリア・ウル・ニルグ。通称カテル。
マギラのリーダーであり、ジクスの父である。
「…………親父」
父親の前では、目つきと口調が悪くなるジクス。
「アイツは、そんなに汚い人間じゃない。ちゃんと更生すれば、戦力になるさ」
「ふん、そんなこと俺がきくと思うか」
「思わねえ。だから…。おれは、おれの好きなように動く」
その言葉に、カテルは眼を丸くした。
「なにをしようと…?お前ごときに、なにができる!」
「おれには、仲間が居る」
「……」
はあ、と思いため息をつく。二十三にもなる独身の男が、仲間だのどうのこうの言ってる暇があるのだろうか。
マギラは、まだジクスには任せられないとカテルは思った。
「婚約相手に、このことが知れたら…婚約破棄だぞ」
「破棄、か。いいじゃねぇか」
ニヒルに笑うジクスを観て、カテルはぞっとしたように肩をあげた。
「跡継ぎは、どうする。おろかな民に、ニルグ城を………国を任せるつもりか!?」
「…愚か、だと?」
愚かという言葉に反応するジクス。怒ってしまったら、もう手のつけようが無いことをカテルは知っている。しまった、と内心毒づいた。
「民は…、ルルアやジーランドは…。愚かじゃ、無い。お前よりは愚かじゃない!!」
大声を出したため、はあはあと肩で息をし、眼は見開かれている。数秒後、チッと舌打ちをして「胸糞悪ぃ」とドアを乱暴に閉めて出て行った。
はあ、とまたもや深いため息をついたカテルのもとに、小さな光が飛んできた。それは次第に人の形を成していき、やがては綺麗な女性に変わる。
「……ノア」
名前を呼ばれた女性は、優しく微笑んだ。
カテルに手招きされて膝の上に座ったあと、ノアは周りの六人に各自室に戻るように言い、王座の間は二人きりになった。
「カテル。ジクスの言うことも、わかってあげて…」
「ああ…努力はしている」
「でも、素直だからいいじゃない。捻くれていたら、今より厄介だったかもしれないのよ?」
ふふっ、と笑うノアが可愛らしくて、口付けを贈る。
「んっ…」
「お前に、似たのかもな」
そうね、と言い、カテルの首筋に顔を埋める。
「体質まで似てるから、少し大変だけどね?」
ノアは、精霊。そのノアから生まれたジクスは、半分人間で半分精霊なのだ。
精霊の体質は、無意識に光になることがあること。ジクスが小さい頃、かくれんぼした際に見つからなかったことがあった。無意識に光になっていて、誰にも気づかれなかったという。
そういった体質のせいか、動物や精霊がなつきやすい。下手をすれば、アミューズメントパークになるかもしれない。
「母親って、大変ね…カテル」
「だが、辛いことばかりではないだろう?」
「ええ。貴方が居るもの。私は、貴方の精霊なのよ?」
「知っているさ」
もう一度、ノアに口付けを贈る。ノアもそれに答え、口付けは次第に深いものへと変わっていく。
ジクスがこれからどう動くか、見ものだなとカテルは思った。
*
「くそ、」
イライラする。というか、している。
カテルにではなく、自分にだ。
どうしてあの時、ジーランドのことを戦力などといったのだろう。戦力でなく、もっと大事な存在のはずなのに。
「…大事?」
大事。
彼女が大事。
大切。
可愛い。
愛おしい。
欲しい。
欲しくてたまらない。
好きだ。
好きだ、好き。
大好きで大好きで仕方が無い。
「…そこまで、好きだったのか?おれ」
だから、婚約破棄と聞いて嬉しかったのだろうか。
自然と頬が緩み、イライラしていたのに気持ちが軽くなった。
よし、と。
ジクスは彼女の部屋に行くことを決意した。行動派なので、すぐに告白しようと思った。
結ばれるように。
おれと、彼女が。
「お願いします」
ジクスは静かに祈った。
あれ、最後のほうミラエクを出すつもりだったのに…。
出なかった?
ごめんよミラエク!!次、出すからああ!!!
というわけで、今後ともよろしくおねがいします!!




