二章:空間転移と吸収
「ぷふっ」
ミラエクは笑った。ダサいと思いながら。
「痛いんだけど」
そう吐き捨てたのは、ジクスの下で苦しそうにうつ伏せになっているジーランド。
「いやあ、この状況なんておいしいんだろうっ。綺麗なこと密着できへぶっ!」
変体発言を連発した男が蹴られるのは当たり前だと思う。下敷きになっていた彼女は立ちながら「この人頭大丈夫?」とルルアに聞いていた。
いや、大丈夫ではないと思う。むしろ異(略
「この人、国主、でしょ」
「ええ、そうよ。ジクラ・ヴァークス・ニルグ。こっちはあたしの双子の兄、ミラエク。ミラル・トゥエク・シェイク」
どうも、好きに呼んで下さいね、と笑顔で言うと、彼女はそれまでしていた警戒をといた。
「ああ、忘れてた。あたしはルイルア・ヘゼン・シェイク。よろしくね?」
「ミラと、ルア」
よろしく、と彼女が漸く微笑んだ。だが、顔が青かった。原因は肩の傷にあるようだが、本人は気にした風もない。
「よっ」
ジクスが復活した。
「怪我、みせて?おれ、光属性だから治療は得意なんだ」
「…別にいいよ」
「?どうして」
「あたし、どうせココで死ぬんだ…。助けてくれたそうだけど、有難迷惑」
ココで死ぬ、とはどういうことだろうか。ルルアと顔をあわせた後、ジクスのほうに向き直る。と、ピリピリと怒気が伝わってきた。珍しくジクスが怒っている。おおーすごい、と感心してる場合ではないようだ。
「おれは、ココで死者を出したくはない。いや、出させない。お前はまわりに必要とされなかったみたいだな?…ただそれだけの理由で、終わろうとするな」
「終わろうとなんか」
「してるだろう。今。……二・三週間ここで過ごしてみろ。そのうちお前は絶対生きたいと、思うようになる」
そう言われた彼女は、とても吃驚していた。
ジクスは彼女がどういう人間か、はじめから解っていたのではないか。ミラエクがあの時”なにか考えがある”と感じ取ったのは、これだったようだ。
「餓鬼の癖に」
「なぁっ…」
彼女の眼に涙がたまる。意外と泣き虫なのかもしれない。嬉しいのか、悔しいのか。どちらの涙かはわからなかったが、彼女は泣いていた。
「がっ、餓鬼って言うけど…ッ。あたし、18だしい……」
ここニルゲアでは男女どちらとも16で成人なので確かに餓鬼ではない。がしかし、ジーランドの場合は背が低く童顔なので、やはり餓鬼にしか思えないのである。
「おれ23だけど?」
「!!!」
そこへ、ジクスが止めを刺した。5歳も年上と聞いて、彼女は口をパクパクさせている。
ちなみに、ミラエクとルルアも23である。
「ま、というわけだから…。とりあえずはこの奇襲をなんとかしよっか」
「な、なんで…そこまであたしに生きろというの」
「若いからよ」
黙っていたルルアが口を開いた。
もっと色んなものを見て、知って、覚えてほしい。人の優しさを、世界の広さを知ってほしい。…ただ、ジクスは表現がヘタクソだからああキツイ風にしか言えなかったのよ、と彼女に伝えた。
「ルアも、生きろというの?」
彼女は驚きながらもルルアの眼をまっすぐ見つめて問う。
「ええ。それに、仲良くなりたいしね?ふふ、悪くないでしょう。必要とされるのも」
「…ぇと、うん……」
恥ずかしいのか急に俯き顔を隠すジーランド。前髪が長いせいで、表情がうまく読み取れない。
ジクスとルルアが微笑み、ミラエクも自然と笑みがこぼれる。
だがそれも束の間、俯いていた彼女が急に顔を上げた。
「町が、」
「…町?」
ルルアが町がどうしたの、と聞く前にジーランドが空間転移で3人を屋上へ連れてきていた。
ドカン!!
「「「どかん?」」」
三人は音がしたほうに振り向く。そこは、ついさっきまで自分たちがいた場所だ。
「うわあ…」
「あっ、ジクス。後ろも見てください。……凄いことになってますよ」
なになに、と振り向いて視界に飛び込んできたのは炎だった。ジクスは数秒間固まり、ルルアは思考停止状態。ジーランドはぶつぶつとなにか独り言を呟きながら深く考え込んでいる。
「お嬢」
ミラエクはジーランドに話しかけるも、返事をしない。もう一回、お嬢、と呼んで漸く振り返った。
「…あたしのこと?」
「はい。なんか、お嬢って呼ぶに相応しいイメージなんですよ」
まあ好きに呼べばと返されたので、これからはお嬢と呼ぶことにした。
少し照れているところが可愛らしい。
「ミラは水属性、だよね?」
「あ、気配でわかりますか。凄いですねぇ」
「別に」
いやいや、たいしたものだ。18で気配だけで相手がなんの属性か当ててしまうなんて、凄いことである。普通なら30年かかるものなのだが。
「でも、フィールド魔法は無理ですよ。空気がカラカラに乾燥してますし、この地域は水源が少ない」
「…じゃあ、消せばいいじゃない。まるごと」
「え」
どうやってと聞こうと思ったが、彼女が闇属性なのを感じとってやめた。彼女がやろうとしていることは、あとの二人にもわかったようだ。
「この国の面積は、約850万平方kmだよ」
「…燃えてるのはどれくらい?」
「三分の一くらいかなぁ」
「そっか」
それなら良かった、と言い残して姿を消した。
屋上から見下ろした城下町のほぼ中心ともいえるところに、ジーランドはいた。
「…ィル」
呪文を唱えた瞬間、彼女が黒い闇に包まれる。次第に闇のカタマリは大きくなっていき、炎までも包み込んでいく。闇属性特有の技”吸収”である。吸収している間、彼女が宙に浮いていたのにも驚いた。だがそれよりも、発生した二酸化炭素ごと吸収してしまったことに驚いた。
「行きましょうか」
ミラエクは二人を連れてジーランドのもとへ跳んだ。こちらに気づいた彼女は、ニコッと微笑んだあと倒れてしまった。
ルルアが急いで駆け寄り、肩を揺するが起きない。気絶しているだけのようだが、服がボロボロだったので肌が露わになり、ルルアはそれだけで泣きそうだった。
「ねぇ、ミラエク」
「なんですか、ジクス」
ジクスは彼女の顔を見ていった。
「なんかさ、いかにも『やり遂げました』ってカンジの顔じゃない?」
どれ。
見てみると、本当にやり遂げた後のスッキリした顔をしていた。気絶しながらこの表情をするとは中々おもしろい。こういうところは、まだまだ子供だ。
「運びましょうか。ルルア、いつまでも泣かないでくださいよ」
「だっ、だってえ…」
「まあまあ。はやく治療しましょう」
この面白い顔をみながら。
「ぷふっ」
ミラエクは笑った。可愛いと思いながら。
なんだか、展開が速すぎますね。
自分でも吃驚です(笑)
そして、更新が遅い。
いつも、ぐだぐだですいません…orz
コンソメスープが飲みたい(今日飲んだだろ)




