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忠誠と代償  作者: 羽秀
2/5

一章:朝と奇襲

「あいたたた…っ」


ベッドの上の男は呟いた。










背中につけられた爪痕がヒリヒリして朝の清清しい目覚めを邪魔する。昨夜、令嬢もなかなかの色情狂であった。いや、色情魔と呼ぶべきか。いやだいやだと言いつつ求めてきたのだから。

隣でスヤスヤ眠りながらたまに意味のわからない寝言をあげる令嬢の額に口付けをおとし、ごめんね、と言い残してスーツに着替え、寝室を去る。


「おはようございます、ニルグ様」


ジクラ・ヴァークス・ニルグ。ここニルゲア国の王であり、周りからはジクスと呼ばれている。見た目とは違う能天気なしゃべり方に、人々はくぎづけになる。


「やーおはよう、ルルちゃん」

「えぇ。おはよう……って、タメで話させないで下さい。仕事のときは敬語で話さなきゃ侍女長に叱られちゃうじゃないですか」

「あっは、ごめんごめん」

「ヘゼンで呼んでくださいとおっしゃっているのに…もぅ」


ぷうっと頬を膨らませた、この可愛らしい侍女はルルア。ルイルア・ヘゼン・シェイク。賢い侍女で、剣と術を使える頼もしい存在だ。以前手合わせを試みたが、あっさりと負けてしまった。おまけに何でもそつなくこなす天才肌で、過去に10人の男を弄んだらしい。侍従のミラル・トゥエク・シェイクの双子の妹でもある。

歩きながら「あぁ、そういえば」とルルアが口にした。


「昨夜捕まった方は女性だそうですよ。面会なされますか?」

「わ、いいの?」

「ただ、上の許可が必要になりますよ」

「えぇっ!??」


飢えの許可が必要ということは、凶悪な犯罪者が捕まったということ。女性でこのケースはあまり珍しいものだから、ジクスは驚いてしまった。大抵の女性は捕まるという恐怖で仕事を投げ出すものなのだが、有名になるまで仕事を続けるものは中々いない。そのため、女性の平均名声値は低い。


「…めんどくさいなあ」

「しょうがないことですよ。上の方々はニルグ様をご心配なさってるんですから」

「どーしよーかな…お?」

「?なんですか?」

「……。うっふふ、おれいいこと思いついちゃった」


ジクスが考えるいいこととは、大体は悪いことなのだが。


「ミラエク呼んで。今忙しいだろうからおれが呼んでも応えてくれない」

「はあ…わかりました。――ミラエク、ミラエク。ニルグ様がお呼びよ?早く来ないと…、うん」


ルルアは右耳に手を当て眼を閉じ、ミラエクの名を呼んだ。目の前が光に包まれ、そこからミラエクが現れた。これは、ミラエクがもつ空間移動の術である。


「相変わらずすぐ来るねぇ」

「おれの術は嵐属性ですからね」

「いいなぁ、わたし風だよ…」

「そうか?」


術にはそれぞれ属性があり、火、木、水、土、風などがある。他にも嵐、氷、雷、光、闇があるがそれらは珍しく、五万人に一人という少ない確立でもたされるという非常に貴重な属性である。そういうジクスも光属性なのだが。ミラエクは水と嵐、ルルアは火と風と水。

ジクスが見た目と違った能天気なしゃべり方をするのも、光属性の特徴である。


「あぁ、で?何ですかジクス。おれ忙しいんですよ」

「仕事投げ出しちゃえ」

「…それもありだなあ…」

「おい。…まあ、手短に話すよ。捕まってる彼女を出せ」


しばらく沈黙が流れた。


「み、短すぎないですか?」

「おれビックリしちゃったよ」

「許可取るの面倒くさい」

「わーかりましたよ。アンタのその眼は本気ですね。いつもの遊びの眼じゃない、なにか裏を見てる眼だ」


さすがはミラエクだ。子供のころからの親友だけあって、なんでも見透かしてくる。

ため息を吐いて「おれも協力しなきゃならないんでしょう」と言ってきたので、コクコクと二回頷く。


「言い訳はあとで思いつくからいいや」

「ルルアも参加してくれるよな」

「ニルグ様の”いいこと”とは毎回犯罪級ですね」

「まあ、いいじゃないか」


はあっと深くため息をつかれ、少し落ち込んだが、協力してくれるだけ有難いと思う。子供のころから親友でもあったから、こうして共犯者になってくれる。(ルルアよりもミラエクのほうが回数は多いような気がするが)


「っしゃぁ、早速いこうよ」

「プランは?」

「もぅ考えてあるよ」

「最近、城の警備が薄いので隣国の密偵がいるかもしれません。気をつけてくださいね」


はーい、と軽く返事をしてジクスは二人を連れて歩き出した。










牢の薄暗がりの中、ジーランドは眼が覚めた。眼をこすろうと思ったが手を縛られていたため動かせず、頬に床の冷たい感触があたるだけだった。

かすかな明かりの向こうから、見張りの兵士たちの笑い声が聞こえてくる。


「くっそ…。縛られる、とか」


気づけば、子供のころのことを思い出していた。

最愛の兄と父の裏切り、憧れだった母の死。

今でも鮮明に脳裏に焼きついている。感覚も、鮮明に覚えている。死にそうな母を抱きかかえたときの血で汚れた感覚、父に剣で切られた背中の痛み、泣きそうな顔で「ごめんね」と呟く兄に犯された恐怖。今でも向き合うことの出来ない、悲しい思い出。思い出すと、あの時の快楽にも似た痛みが押しかけてきて、嘔吐までしそうになる。

ジーランドはここで泣くまいと、歯を食いしばった。が。


「うう、っく…ひっ。あぁ……」


出てしまった涙はもう、戻しようがない。床に顔を押し付けて、声を殺して泣いた。





「…??」


どれくらい時間がたったのだろう。兵士たちの笑い声はとまり、静寂が響いている。

体を起こそうとした瞬間、すぐ横を何かが通った。めりっ、と音を立てて。


「ぅがあっ」

「は?」


壁に勢い良く突進して言ったのは兵士だった。ジーランドは眼をまんまるにして状況を把握しようと、頑張って頭を働かせた。


「ぇーと……」

「っ逃げて下さい…」

「は?」

「敵が、隣国の兵士が、っ…攻めてきたんです」


途切れ途切れになったものの、その声はしっかりと耳に届いていた。


「ニルグ様から…っ、貴女を出すように言われてました…。敵がきます、はや、っく……。………」

「な…、死んだし」


隣国にあるのは、たしかフィーリグザットだったはずだ。ニルゲアとは昔から敵対しており、いつ戦乱が起きてもおかしくない状況にあった。今奇襲をかけてきたということは、城の警備が薄かったからだ。密偵が入り込んでいたに違いない。

ジーランドは手を縛っていたものを力任せに引っ張った。


「ぃっ」


手首が少し切れていて、うっすらと血が滲んでいる。今日の風呂は痛いな。だが、自由になれた。

どこへ移動しようか。今は空腹であまり飛ぶ力がないため、城内への移動になる。城外へは屋上を使っていくしかない。

正直。面倒臭い。しょうがないので屋上までとぼうと思った。

思った。そのとき、肩に鋭い痛みがはしった。


「―――っ!?」


思わず力が抜けて、その場に座り込む。肩からは血が噴出し、服をわき腹辺りまで塗らしている。

痛みに顔を歪ませていると、目の前に男が近づいてきた。


「おや?人がいたのか」

「っ、誰だ」

「敵に名乗らせるならば、自分から名乗るのが礼儀というものではないのかね?」

「…ジーランド。術師なら知ってるだろ」


ああ、と男はうなずいた。そして「私はアエルドウィンだ」と丁寧に礼をして名乗ってきた。こういうタイプの男は好きじゃない。というか、苦手だ。


「君は、ココで私に殺されるのだよ」

「こ…の………ぇだ」

「?聞こえないなあ?」


ひゅんっと何かを切る音がした。男は気づくのに5秒もかかり、そして、悲鳴をあげた。


「っぎゃあああああああああああ!!!!」

「殺されるのはお前だ、と言った」

「はあっ!はぁっ!!」


両腕と右耳を切りおとされた男は、その場に跪いた。


「邪魔しないで。あたしはニルゲアの国に殺されに来たの。…あんたには殺されない」

「っぎゃははははははははははははははっはあ!!この城はもう囲まれている!お前はわれわれ兄殺される運命な


男の言葉は途絶えていた。なぜなら、ジーランドが男の頭を潰していたから。術ではなく、手で。闇属性のものは力加減の幅が広く、怪力である。そのため、人間の頭を破壊するなど容易いことなのだ。

転がって脚にぶつかった男の目玉を踏み、もう飛ぶのが面倒臭くなって歩き始める。この、むせかえるような血の匂いもなつかしい。


「さあて、屋上はどっちだ」


探し始めたとき、ジーランドはあることを思い出した。


”貴女を出すように言われてました”


誰に?いやそもそも、誰が?

考え込んでいると後ろから声をかけられた。


「あなた、ジーランドさん?」


振り返ると、20歳くらいの侍女がたっていた。短めの金色の髪、エメラルドグリーンの瞳。右手には、「代償」の刺青。


「…術師、か。なんのよう?」

「ああ良かった。あってた!あのですね、ニルグ様がお呼びなんですよ。今から会って頂けませんか?」

「……いいけど、条件がある」


条件、という言葉を聞くと侍女は顔つきを変えてこう言った。


「殺せ、ですか……」

「ダメ?」

「そんな可愛い顔で言ってもダメですよ」

「チッ」

「あのですねえ…」


まあ、いいとしよう。死に方はいくつも考えてある。


「いいよ、会ってあげる。どこにいるの?」

「あぁ、飛んでくるんで大丈夫ですよ」

「空間移動をつかえるの?珍しいなあ」

「あなたも使えるでしょう。…あ、呼びますよ?」

「うん」


侍女は右手の刺青を光らせ、ミラエク、と呟いた。


「……………ぁぁぁぁぁあああああ」

「……?」


どこからか、叫び声が聞こえてくるが、遠くてどこかわからない。だがそれはだんだんと近づいてきて、気づけば真上から声がしていた。

は?と思った。

思ったときにはもう遅く、空から降ってきた男に突撃された。


「ぅああああああああ!!!」

「ひぁ!?」


ずどーん、と。


「ジクス、ダサイですねぇ」

「~~っ」


侍従の格好をした男は綺麗に着地していたが、ジクスといわれた男は顔面を床に強打していた。











「あいたたた…っ」


彼女の上の男は呟いた。



日本語がおかしいですね(泣

すみません。


楽しんで読んでいただけたら幸いです。

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