序章:潜入と逮捕
はじめまして。こんにちわ。
この小説内で使う用語などは、すべてオリジナルですので
そこらへんを理解のうえ、読むことをお勧めします。
「どうして」
一人の女は呟いた。
一人の兵士がいた。冷や汗をかき、今にも泣きそうな顔でこちらを見ては逃げる。ここの城の見張りはこの男一人だ。
馬鹿げてる。
「き、貴様、何者だ!」
「答える必要は、ない」
「な、なら…しねぇっ!!」
兵士は怯えながら剣をかまえ、こちらに突っ込んでくる。避けるまでもないと思い、右手で白刃取りにする。「ひっ!」という声が聞こえたがたが、あえて気にしない。
ざくり、と。兵士の右肩に刃をいれ、そのまま左脇腹まで振り下ろす。
「ぐぅあ…」
「そうだなぁ、アンタはどうせ死ぬ。なら、名前をおしえよう」
「私は闇を司り残酷な死を与える術師、ジーランドだ」というと、兵士の顔は一気に青ざめる。有名な犯罪者のか、と問われて、そうだ、と適当に返す。そしてまた、剣を振り下ろす。この、刃が肉を切り裂く感触がたまらない。自分が、ああ、生きている。と感じる、唯一の瞬間。
兵士の五体をバラバラに刻んだ後、目的の城へと潜り込む。
ここが、ニルゲア城。白と黒のシンプルカラーで作られた、古代民族独特のカタチ。自分の前に聳え立つ一本の長い廊下は、明かりを灯して輝いている。
「やっと潜入開始」
やっと死ねる。
「何?兵士が?」
「はい。五体不満足のまま、倒れていたそうです」
眉間にしわを寄せながら兵士に疑問を投げつける青年がいた。若い顔つきとは違って髪は白く、瞳は朱に染まっていて、背丈も高い。タキシードを着こなして姿勢を崩すことなく真っ直ぐ立ってるその青年は、誰もが見とれる”いい男”だ。
「ふぅん。まだ見つかってないんだ?強いねー楽しみだねー」
見た目との違いは、声の色と性格だと周りが以前言っていた。
「たっ楽しみ…ですか?」
「うん。手合わせして見たいな…」
この男に犯人を会わせるわけにはいわない。と兵士は思った。仮にも一国の主であるのだから、危険の中に飛び込んでいくのはやめてほしいものだ。
「おれ、その人探そうっと」
「ダメですよ。危険ですよ。なりませんよ。とにかく、ダメです」
「……。ぁれ?」
伝達員がバタバタと走ってきた。何事かと問えば、先ほどの犯人が自ら捕まったらしい。「殺せ」「死にたい」という言葉しか言わない状況というが、どうしようか。
「明日面接したいなあ、許可はおりる?」
「貴方様の命令であれば」
「おれって凄いんだ…うん、凄ぇ」
国主って便利だと思った瞬間。
「じゃぁ、予めその人の情報を隅々まで調べておいて。おれはデートがあるから、報告は明日」
「御意」
犯人の取調べ中に女性と遊ぶのはいかがなものか。本当にこの人が国主でいいのかと、たまに思う。
すると、一人の女性が駆け寄ってきた。綺麗な金髪の髪は縦巻きで横に結わえ、胸元を大胆に開けたドレスを着ている。
「兵士が倒れたと聞いたのだけれど…大丈夫?」
彼女はフュンフ伯爵のご令嬢で、今夜の相手でもある。下睫毛が異様に長く、眼はくりくりと琥珀色に輝いている。怖がりながらもまだかまだかと腕に抱きついてぐずってくる。
「っはは、大丈夫だよー。さ…おれと遊ぼうか?お嬢様」
「っもう、恥ずかしいです」
頬を赤らめ、下を向いて上目遣いで誘ってくる。行ってくる、と兵士に一言だけ言い残し、寝室に向かう。途中で冷ややかな眼を向けられたりしたが、あえて無視する。昔からこうだったから慣れてるが。
本気で女に恋したことなんてないし、本気で他人を信用したこともない。しかも五人兄弟の末っ子で、放ったらかしにされて育ってきた。侍従のミラル・トゥエク・シェイクは「王族なのに」と驚いていた。確かに、王族が放ったらかしにされて育つケースは珍しい。逆に、どうやったらそんな育ち方をするのか疑問だ。(とよく言われる)
寝室のドアを開け、令嬢をベッドに放り込む。軽くきゃ、という悲鳴を上げたあと、期待とほんの少しの恐怖が混じった眼でみつめてくる。残念ながら、おれはオチない。
「最近疲れてんだよねー…。エスコートしてもらっていいよね?」
「ふふっ、色情狂ね」
二人は闇へとおちた。
「どうして」
檻の中の女は呟いた。




