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第8話 消えた子供たち

――――――――



 夜の農村は、いつもより静かだった。


 森の向こうから虫の声。北の牧草地で、牛が一頭、低く鳴いた。


 消えたのは、三人だった。


 八歳の男の子、十歳の女の子、七歳の男の子。夕暮れ時に遊んでいた。夜になっても帰らなかった。次の朝、村を総出で探した。見つからなかった。


 畦道に、一足だけ小さな靴が落ちていた。


 それだけだった。


――――――――



 ギルドの受付に、一枚の依頼書が貼り出されたのは朝早くだった。


「子供の失踪事案調査。依頼主:リュミエル近郊ヴェルド村・村長。報酬:金貨5枚。同一案件が複数村で発生、組織的犯行の疑いあり」


 リアンはその依頼書を見て、即座に視線を逸らした。


 (これは俺の依頼じゃない)


 Fランクの自分には、関係のない話だ。組織的犯行。複数村で発生。この二つのワードだけで、腕のいい冒険者が動く案件とわかる。


 顔を背けて、隣の依頼書——「薬草採取、コッパー3枚、危険なし」——に視線を移した。


 「リアン!」


 後ろからトムの声。


 (聞こえなかった振りをするか……)


 「リアン! そこにいるのわかってるぞ!」


 振り返ると、トムが受付カウンターの上に半身を乗り出していた。


「あの、俺、今日は薬草採取——」


「ヴィクトリア副長から話がある。ちょっと来い」


「ヴィクトリア? アリシアさんの上司の?」


「その組織的な子供の案件、騎士団も動き始めてる。でも追跡には地元の事情を知る冒険者が必要で……お前、どうもリアン指名で話が来てる」


「指名?俺を? なんで」


「お前の評判を聞いた村の人間が『あの人に頼みたい』って騎士団に直接言ったらしい」


 「あの人」というのが自分を指しているとは思わなかったが、トムの表情が真剣だった。


 リアンは一秒考えた。


 (断れる流れ、ある……?)


 「子供が三人消えた村の人間が、あの人に頼みたい」という話を聞いた後に「俺には無理です」と言える自分が、今日はどうも見つからなかった。


「……わかりました」


――――――――


 騎士団詰所の小さな会議室で、ヴィクトリア副長が書類を広げていた。


 四十代と思しき女性で、騎士団副長として年季の入った眼をしていた。アリシアが側に立っている。


「リアン・フォルテ。来てくれて助かる」


「あの……俺、Fランクなんですが」


「知っている。だからこそ頼みたい」


「それ、どういう意味ですか」


「組織的な犯行の場合、Aランク、Bランクの冒険者が動くと、相手が警戒して隠れる。目立たない存在の方が動きやすい場合がある」


「目立たない、はわかりますが……」


「加えて、あなたの直感は信頼できる。それは三ヶ月の共闘を通じてアリシアから聞いている」


 「聞いている」と言われても、アリシアの言う「直感」が何を指しているのか、リアンには今もわからない。


 横を見ると、ミレイユがいた。


 いつもの銀縁眼鏡、黒髪ショートカット、大きすぎるローブ。本を三冊抱えている。


 ただ、今日は——少し表情が違った。薄く、口が引き結ばれている。


「……ミレイユさんも?」


「魔力痕の解析は私の担当です」ミレイユが短く言った。「子供の移動に使われた魔道具があれば、製造者を特定できる可能性があります」


「なるほど」


「行きます」


 それ以上は言わなかった。


――――――――



 馬車でふた時間、リュミエルの南外れのヴェルド村に着いた。


 小さな農村だった。麦畑と牧草地が広がり、家が二十軒ほど固まっている。村人たちは馬車を見つけると、疲れた顔で出てきた。


 村長が白髪頭の老人で、深々と頭を下げた。


「騎士様……来てくださって。三日経ちました。もう……時間が」


「状況を教えてください」アリシアが静かに言った。「詳しく」


 聴取の場から少し外れて、リアンは畦道を歩いた。


 一足の靴が、まだそこにあった。小さい。かかとの部分が泥で汚れている。履いていた子供のことを、見知りもしないのに少し想像した。


 (……嫌だな)


 単純に、嫌だった。


 「リアン様」


 後ろからミレイユの声。振り返ると、靴から数歩離れたところで、彼女が地面を見ていた。手には鑑定用の小さなクリスタル。地面すれすれに翳している。


「魔力痕、あります」ミレイユが言った。「微量ですが……転移術式ではなく、鎮静系の魔道具。眠りに引き込むタイプ。子供向けに特殊調整されています」


「子供向けに、調整……」


「子供は大人より魔力感受性が高い。少量で効果が出るよう調整した道具ということです。製造に手間がかかる。つまり、この組織には腕のいい魔術師がいます」


 淡々とした説明だった。でも、クリスタルを持つ指先が、わずかに白くなっていた。


「……ミレイユさん」


「解析は続けます」


「それじゃなくて」


 少し間があった。


 ミレイユが、クリスタルをローブのポケットにしまった。


「昔」と、彼女は言った。視線は畦道の草の上にある。「……私が育った孤児院にも、こういう人たちが来たことがあります」


「孤児院に」


「8歳の時です。怪しい男たちが来て、院長先生が追い払いました。その夜、院長先生が外で誰かに襲われました。偶然通りかかった騎士団に助けられて、命に別状はなかったけれど」


 静かな声だった。


「院長先生は何も言いませんでした。次の日の朝、院のみんなに普通に接してくれた。でも、少し……手が震えていた」


 ミレイユが眼鏡を押し上げた。


「あの男たちが、誰かはわかりませんでした。でも、孤児院の子供を物として扱おうとした人間だということは、わかっていました」


 リアンは何も言えなかった。


「それだけです」ミレイユが続けた。「感情的になっているわけではありません。ただ、この案件は、私が解決すべき理由があると判断しています。それだけです」


 「それだけ」と二度言う時、ミレイユの声は少し低くなる。


 リアンはそれを黙って聞いた。


――――――――


 周辺の三つの村で同じ聴取をした後、アリシアがパターンを特定した。


「三村とも、夕暮れ時に子供たちが消えている。夜に移動させるとすれば、馬車か荷馬車。このあたりで夜に荷馬車を動かせる道は……南の旧街道しかない」


「旧街道の先は?」


「廃倉庫が複数ある。五年前に閉鎖された旧物流拠点です」


 アリシアが地図を指した。リアンには読めなかったが、聡そうな顔を作って頷いた。


「夜に確認する」アリシアが言った。「全員で動くと気付かれる。偵察を先行させる」


「俺ですか」


「あなたは物音を立てない。ドランの件で確認済みだ」


 リアンの記憶では、ドランの件でかなり物音を立てた気がする。ただ、確認済みと言われると、訂正しにくかった。


――――――――



 夜の旧倉庫群は、想像より広かった。


 廃材が積み重なった薄暗い路地。屋根の半分が崩れた建物。錆びた金属の臭い。闇の中、どこかで木材が軋む音がする。


 リアンは一人だった。


 本来の作戦では、偵察として建物の外観だけを確認して「人の気配があるかどうか」を報告するはずだった。


 でも、路地を進んでいたら、足元に穴が開いていた。


 落ちた。


(いって……)


 三メートルほど落下して、積み上げられた麻袋の上に着地した。全身に衝撃。口の中に砂の味。


 立ち上がろうとして——声が聞こえた。


「……眠い」


 子供の声だった。


 リアンは動かなかった。


 暗くて見えないが、麻袋の向こうに、何かがある。小さな気配。複数。


 目が慣れてくると、檻が見えた。


 木製の格子。鍵は金属製で、錠前がかかっている。中に、子供たちが三人いた。膝を抱えて、薄い布の上に固まって眠っている。


 (……子供だ)


 当たり前のことを確認するのに、数秒かかった。


 見張りがいるかどうか、音を立てて確かめる余裕はない。とにかく、出口を探すべきだ。そう思って振り返った瞬間——


 足が棚に当たった。


 棚から何かが落ちた。金属の筒。ガシャン、という音が地下室に響いた。


 (やばい!)


 子供の一人が目を覚ました。


「……だれ?」


「しっ」リアンは反射的に言った。「大丈夫。友達だから」


 子供が丸い目でリアンを見た。七歳か、八歳か。埃だらけの顔に、目だけが輝いている。


「お迎え?」


「……たぶん」


「鍵、开いてない」


「……見てみます」


 リアンは錠前に近づいた。ごく普通の錠前だった、ような気がした。でも、よく見ると——継ぎ目に何か挟まっている。鍵穴の近くに、細い金属片。


 (……仕掛け?)


 触ってみると、金属片がずれた。カチッ、という音がして、錠前が開いた。


 (え?)


 念のためもう一度押してみると、確かに開いている。わざわざ「開けやすく」してある作りだ。


 (……輸送中に素早く出せるようにしてある?)


 おぞましい理由を考えてしまって、胃がきゅっとした。


 でも、今は考えている場合じゃない。


「出られるよ」リアンが格子を開けた。「静かに、一人ずつ」


 子供が三人、音をほとんど立てずに這い出てきた。その動きが、慣れているように見えて——また胃が痛くなった。


「出口……どっちか、わかる?」


 子供のうち一人、十歳くらいの女の子が、迷わず指を差した。


「あっち。荷物が運ばれてきた扉」


「案内して」


――――――――


 建物の端に、外に繋がる扉があった。隙間から夜気が入ってきた。


 リアンは扉の前で一度立ち止まった。


「外に出たら、倉庫群の外まで走ってください。南の道に出たら、騎士の赤い制服を着た人たちがいると思うので……その人たちに声をかけて」


「お兄さんは?」


「俺は……もう少し中で様子を見ます」


 正直に言えば、今すぐ一緒に逃げたかった。でも、子供たちを案内しながら動くと、確実に物音を立てる。


 (三人が抜けたら、後は一人で逃げやすい……はず)


 扉を押した。外の夜気が流れ込んだ。子供たちが、一人ずつ外に出た。


 最後の七歳の男の子が振り返った。


「ありがとう」


 リアンは何も言えなかった。軽く手を振った。


 扉が閉まった。


――――――――



 建物の中を戻ろうとしたところで、背後に明かりが灯った。


 魔力光のランタン。柔らかい光の中に、人が立っていた。


 整った顔立ちだった。高級な服。白い手袋。年は五十前後。優雅な物腰で、ランタンを下げている。


「やあ」男が言った。「素晴らしい。本当に素晴らしい」


 リアンは動かなかった。


「子供たちを出したんですね。私の錠前、あの仕掛け、よく見つけましたよ。見つけた上で悪用しなかった……それも含めて、素晴らしい」


「……あなたが」


「ヴィクター・ブラックウェルと申します。高級商人を生業にしております」男が微笑んだ。「名前は聞いていますよ。リアン・フォルテ。Fランクの冒険者にしては、ずいぶんと噂の絶えない方だ」


 声が穏やかだった。それが、却って全身から血の気を引かせた。


「……子供たちを、なんのために」


「ビジネスですよ」ヴィクターが答えた。「感情的になる必要はありません。あなたも冒険者なら、世の中の仕組みはご存知でしょう。需要があるから供給がある。それだけのことです」


「それだけ、って」


「あなた、腕が立つ」ヴィクターが話題を変えた。「Fランクだというのが信じられない。今日の動き、見ていましたが……なかなかのものだった。私の組織に、ちょうどいい役割があります。どうですか、一緒に——」


「お断りします」


 言ったのは自分でも意外だった。怖くて足が震えていた。でも、口が先に動いた。


「ほう」ヴィクターが少し目を細めた。まだ笑っている。「断る理由は?」


「あなたが怖いです」リアンは言った。「目が、嫌いです」


 正直すぎたかもしれない。でも、他に言葉がなかった。


 ヴィクターがランタンを少し傾けた。


「面白い」と彼は呟いた。「Fランクの冒険者が、私の目を『嫌い』と言う。そんな人間、久しぶりに会いました。普通は怯えて何も言えないか、強がって虚勢を張るかのどちらかです」


 足音が近づいてきた。


 建物の外から。複数の、重い足音。


 ヴィクターが表情を変えた——ほんの一瞬、初めて笑顔が揺れた。


「……騎士団」


 それだけ言った。


 背後の扉が蹴破られた。赤い制服の騎士が三人、雪崩れ込んだ。


「動くな! 騎士団だ!」


 ヴィクターが動いた。素早い。ランタンを投げた。リアンは反射的に逃げた。


――――――――



 外の倉庫群の路地を走った。


 後ろでヴィクターの部下たちと騎士団が衝突する音が聞こえた。怒号。金属の音。


 リアンは出口を目指して走った。


 暗い路地。右、左、右。どっちが出口かわからなくなってきた。


 (どっちだ!)


 焦った拍子に、地面に置かれた何かを踏んだ。


 硬い。ずるっと滑った。転んだ。手と膝を打った。


「っ……」


 顔を上げると、厚い革張りの本が散乱していた。蹴り飛ばした拍子に、中が開いて目の前に広がっている。


 暗くて読めない。でも、字が並んでいることはわかった。名前と、数字の羅列。


 (帳簿……?)


 騎士団の足音が近づいてくる。


「そこの! 止まれ!」


「俺です! 俺! 冒険者!」


 騎士が駆け寄ってきた。明かりが当たって、足元の帳簿が照らされた。


「……これを踏んだのか」騎士が帳簿を拾い上げた。ページをめくって、「おい! これは!」と大声で叫んだ。「組長! 取引記録が! 人名と日付と金額が全部!」


「持ってこい!」


 遠くからアリシアの声がした。硬く、鋭かった。


――――――――


 ヴィクター・ブラックウェルとその部下十三名が逮捕されたのは、夜明け前だった。


 帳簿には、人身売買の取引記録が五年分記録されていた。買い手の貴族の名前、金額、日時。証拠として完璧すぎるほど完璧だった。


 「証拠が出た経緯」という報告書に、騎士団は書いた。「リアン・フォルテが組織の保管庫から証拠品を"持ち出し"、騎士団に引き渡した」と。


――――――――


 翌朝、騎士団詰所の廊下で、リアンとアリシアが話した。


「俺、ただ転んで踏んだだけです」


「知っている」


「だから、報告書の書き方が……」


「確認は終わった。帳簿は本物だ。五年分の記録が全部ある。子供たちは家族の元へ帰れる」


 アリシアが静かに言った。


 リアンはそれ以上の訂正をやめた。


 「確認は終わった」の声が、少しだけ震えていたから。


――――――――



 夜、ギルドの近くの食堂で、四人が飯を食った。


 セリアは急ぎの仕事で来られなかった。ノエルはリアンのギルドカード更新手続きで別行動していた。


 リアン、ミレイユ、アリシアの三人だった。


 食事が終わった後、アリシアが「少し外す」と立ち上がった。無言だったが、表情に「二人で話してください」と書いてあった。


 テーブルに沈黙が残った。


「ミレイユさん」


「何ですか」


「今日、ありがとうございました。俺一人じゃ、魔力痕の解析とかできなかったし……あと、帳簿が見つかったのも、ミレイユさんが移動経路を特定してくれたから、あそこにいたわけで」


「私はデータを解析しただけです」


「それが重要だったんです」


 ミレイユが湯気の立つカップを両手で持った。


 少し間があった。


「午前中に話したこと」ミレイユが言った。「孤児院のこと」


「はい」


「……あれは、あまり人に話したことがありませんでした」


 リアンは何も言わなかった。


「魔術師協会では、孤児院出身というだけで軽く見られます。それは仕方ない。事実、家名がない。後盾がない。だから、研究の実績で対抗するしかない。それは今も変わりません」


「……」


「でも」ミレイユがカップから目を上げた。「あの時の話を、今日ここで思い出したのは……理論的な判断ではなかった、と思います」


 「理論的ではなかった」とミレイユが言う時、それはかなり珍しいことだとリアンは感じた。


「あなたがいたから、話したんだと思います」


 ミレイユが言った。


 ごく静かな、事実の報告のような声で。


「……そうですか」


「はい」


 それ以上は言わなかった。でも、カップを持つ手が、少し緩んでいた。


「ミレイユさん」


「何ですか」


「孤児院の院長先生、元気ですか」


 ミレイユが目を上げた。少し意外そうな顔をした。


「……はい。今も、施設にいます。月に一度、手紙を出しています」


「それは、良かった」


「……あなた、そういうことを聞くんですね」


「孤児院の話に出てきたので、気になって」


 ミレイユが下を向いた。


 眼鏡の奥で、何かがふっと揺れた。


――――――――


 ミレイユ視点——


 「孤児院の院長先生、元気ですか」


 その質問が来るとは思わなかった。


 誰も聞かない。孤児院の話をすると、たいていの人間は「それで苦労したんですね」という結論に持っていくか、話題を変えようとする。


 リアン・フォルテは、「院長先生は元気ですか」と聞いた。


 (……なんで、それを)


 わかる気がした。孤児院の話で、私が一番大切にしている人の話をしたから。その人の無事を聞いてくれた。


 それだけの話だ。


 それだけの話なのに、どうして目の奥が熱いのか、私には今のところ説明できない。


 「感情は理論で説明できる」という信念が、今夜で二回、揺らいだ。


――――――――



 宿に戻った後、ミレイユはすぐには眠れなかった。


 窓の外に月が出ていた。


 ノートを開いた。今日の解析データを整理するつもりだった。


 一行書いたところで、ペンが止まった。


 (院長先生、元気ですか)


 また、声が来た。


 整然と並ぶはずのデータの前を、その声がゆっくり横切っていく。


 (……困った)


 これが何なのか、今の段階では名前をつけたくなかった。名前をつけた瞬間、取り消せなくなる気がした。


 でも、名前をつけなくても、胸の中にあるものは消えない。


 ミレイユは窓の外を見た。


 月が明るかった。


 (あなたは)


 声に出さずに続けた。


 (私の孤児院の院長先生の無事を気にした。私の過去を聞いた後で、最初にそれを聞いた)


 データを処理する頭が、静かに判定を出そうとしていた。


 (……これは、好意だ。あなたの、私への)


 でも、今夜は、その判定に乗れなかった。


 なぜなら——もしそれが正しければ、私の中にあるものも、もう名前を持ってしまうから。


 ミレイユはノートを閉じた。


 ペンを置いた。


 眼鏡を外して、枕に顔を伏せた。


 (……好きかもしれない)


 月明かりの中で、その言葉が静かに沈んでいった。


 図書館で隣に座って。森で命を助けてくれて。研究室で「逆にしたら?」と聞いてくれて。今夜、「院長先生は元気ですか」と聞いてくれた。


 全部の記憶が、一行の結論に向かっていた。


 (……困った)


 でも、今夜は困ったままでいいと思った。


 整理は、明日でいい。


――――――――


(第8話・終)


――――――――



 子供たちは帰った。


 アリシアは、ひとりで詰所に残った。


 父から手紙が来ていた。


 「次の依頼は完璧にこなすように」


 その一文が、今夜だけは——ひどく遠く聞こえた。


 第9話「アリシアの夜」


 ——強さを演じてきた人間が、初めて弱音を吐く夜。


第8話、お読みいただきありがとうございます。


今回は「消えた子供たち」。ギルドに届く依頼が、噂や学術の舞台とは違う“現実の重さ”を持っている回でした。

リアンは逃げたい。けれど、逃げた先に残るものがあると分かってしまう——この作品の主人公が一番苦手なタイプの案件です。


一方で、周囲は相変わらず「最適解を選んだ」とか「先読みだ」とか、勝手に意味を積み上げていきます。

本人の小さな選択が、大きな結果に見えてしまう。そのズレが、この物語のエンジンです。


次回、第9話「アリシアの夜」。

事件の“後”で、彼女が何を抱えているのか。少しだけ、騎士としてではない顔を覗かせます。


引き続きお付き合いいただければ幸いです。


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