エピローグ3:「処理済み」
40代、人生の折り返し地点で私たちは何を守り、何を捨てるべきなのでしょうか。 本作は、SNSの片隅で育まれた10年の純愛が、冷徹な国際謀略に巻き込まれていく物語です。 愛する人を守るために「社会的な死」を選んだ男と、強欲なまでに日常を謳歌する女。 日常の裏側に潜む孤独と、すれ違う大人の生存戦略を、切なく、そして冷徹に描き出します。
2027年 某日
十三時。
私はもう時計を見ない。
薬局の業務は十二時五十分に区切りがつく。
処方箋の枚数、レジ締め、在庫確認。
やることは決まっている。
感情を挟む余地はない。
一年前、私は判断を誤らなかった。
カフェでの出来事は、事実として整理できる。
公共の場での異常な言動。
被害の可能性。
第三者の目撃。
警察介入の妥当性。
以上。
怖かったかと聞かれれば、怖かった。
だが、それは評価対象ではない。
重要なのは結果だ。
接近は禁止された。
連絡は途絶えた。
私の日常は保全された。
それだけで十分だった。
彼との関係は、十年前から歪んでいた。
始まりが匿名で、継続が密室で、出口が存在しない。
四十代で、それを「愛」と呼ぶほど、私は無防備ではない。
必要だったのは終わらせ方だ。
後腐れなく、説明可能で、責任がこちらに残らない形。
彼はそれを、完璧に提供した。
警察での手続きは淡々としていた。
質問には事実だけを答えた。
感情は不要だった。
「不安定だったようです」
「最近、家庭環境が変わったと聞いています」
それで通る。
通るように、社会はできている。
十三時。
私はコンビニのイートインで昼食をとる。
野菜ジュースに糖質オフ高タンパク質のパン。
食後はどこかのカフェでコーヒーブラック。
健康管理は自己責任だ。
スマートフォンに通知はない。
SNSは削除済み。
mixiも、再ログイン不可。
消したのではない。
使わないと決めただけ。
過去に縛られるほど、時間は余っていない。
彼が何を思っているかは知らない。
知る必要もない。
私の人生に、もう関係がない。
私は被害者で、
私は正しい選択をした。
それで話は終わりだ。
十三時は、ただの時刻になった。
意味は削除済み。
私は席を立つ。
午後の予定がある。
人生は、次の処理に進んでいる。
(完)
最後までお読みいただき、ありがとうございます。 自己犠牲を「究極の愛」と信じる男のロマンと、それを「コストパフォーマンス」で切り捨てる女のリアリズム。 40代という世代が直面する、キャリアの終焉や家庭の変容、そして拭えない孤独をテーマに綴りました。 誰にも言えない秘密を抱えながら、今日を懸命に生きるすべての女性に、この物語を捧げます。
もしよろしければ、今回の物語で最も印象に残ったシーンや、登場人物の豹変についてのご感想を詳しくお聞かせいただけますか?




