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俺の恋人が悪魔の呪いで「コロシテ……コロシテ……」状態にされたけど、意外と愛し合っていけそう

 戦いは佳境を迎えていた。

 禍々しき悪魔バラムに挑むは、三人の若者。黒髪の剣士ナルガスとその恋人ヒーリア、魔法使いの青年エマル。

 だが、エマルはバラムの攻撃で戦闘不能となり、希望は残る二人に託された。

 ヒーリアは得物である鞭で、バラムの足を絡め取る。


「ぬうっ!?」


「今よ、ナルガス!」


「ああ!」


 ナルガスはその隙を逃さず、高く跳び上がって、バラムの頭にトドメの一撃を叩き込んだ。


「ぐはぁぁぁぁぁ……!」


 このコンビネーションを見て、エマルは笑顔でつぶやく。


「ハハ……二人には敵わないや」


 悪魔は倒れ、これで国に平和が戻る――と思いきや。


「うっ……!」


「どうした、ヒーリア?」


「私の体が……!」


 ヒーリアの肉体に異変が起こる。

 顔面はひしゃげ、皮膚は紫に変色し、全身が膨張する。


「なんだこれ……!?」エマルは目を丸くする。


 すると――


『その女には我が呪いをかけた……醜い魔物に変貌する呪いをな! 我を仕留めた憎き剣士よ……せいぜい苦しむがよい!』


 死体と化していたバラムが三人に語りかけ、そのまま朽ちていった。

 そうしている間にも、ヒーリアはみるみる変形し、角が生え、眼球が増殖し、ついには触手まで発生した。

 長い金髪をなびかせる美しい女戦士の面影はもはやない。

 やがて、変形が終わった頃には、ヒーリアは完全な化け物と化していた。


「ヒーリア……!」


 あまりに絶望的な光景に、エマルの声は震える。

 ヒーリアは無数の眼球から涙を流しつつ、牙の生えた口から、かろうじて言葉を発する。


「コ、コロシテ……」


 絞り出すような声だった。


「コロシテ……コロシテ……」


 ヒーリアも異形の姿でいるのは耐えられないのだろう。

 エマルはナルガスに顔を向ける。


(ナルガス……いったいどうするんだ……!?)


 ところが、ナルガスは意外な表情をしていた。

 いたって平然としている。

 そして――


「おい、ヒーリア」


「……?」


「“コロシテ”って言えるってことは、どうにか意思疎通はできるんだよな?」


「エエ、マア……」


「ならいいじゃん。今まで通りの仲でいこうぜ」


「エッ……デモ、コンナスガタニナッチャッタノニ……」


「俺はヒーリアの見た目だけを愛してたわけじゃないからな!」


「アリ……ガトウ……」


 ナルガスは自分の倍以上巨大になったヒーリアを抱き締める。ヒーリアは触手で抱き締め返す。これ以上、二人の間にやり取りはいらなかった。


「よし帰るぞ、エマル!」


「う、うん!」


 こうしてナルガスは何事もなかったかのように、恋人と仲間を連れて凱旋を果たした。



***



 人々を苦しめた悪魔バラムは倒れたものの、ヒーリアが魔物になってしまったことには、皆が大いに悲しんだ。

 さまざまな人間が呪いを解こうとしたが、どうにもならなかった。

 しかし、当のナルガスとヒーリアは全く気にしていなかった。


「俺たち結婚するよ!」


「ヨロシクネ!」


 すっかり異形の怪物に変貌してしまった恋人を変わらず愛せるナルガスに周囲は驚いたが、ナルガスの愛に揺らぎはなかった。

 普通のカップルのように教会で結婚式を行う。

 特注の巨大ウェディングドレスを着たヒーリアは、実に幸せそうであった。


 二人は郊外に一軒家を建て、新婚生活を始める。

 半年も経つと――


「ヒーリア、胡椒取ってくれ」


「ハーイ、ドウゾ」


 ヒーリアは無数に生えた触手を器用に使い、胡椒をナルガスの手元に届ける。元々鞭の使い手だったので、それが生かされている。


「料理、オイシイ?」


「ああ、美味いよ」


「ヤッタァ!」


「それにしてもヒーリア、言葉がだいぶ流暢になったんじゃないか?」


「エエ、ダイブ人間ラシク話セルヨウニナッテキタワ」


「ふふっ、よかったじゃないか」


 ヒーリアが窓の外の異変に気づく。


「アラ、雨ガ降ッテキタワ。洗濯物、入レナクチャ」


「目が沢山あると便利でいいなぁ」


 ヒーリアは触手であっという間に洗濯物を入れてしまう。

 二人は順風満帆な生活を送っていた。



***



 バラムを倒してから一年ほど過ぎた頃、ナルガスの家に懐かしの顔が訪ねてきた。


「おー、エマル!」


「やぁ、久しぶり」


「上がってくれよ」


 かつて魔法使いとして、ナルガスらとともにバラム討伐に挑んだエマルだった。

 名声を得た彼はそれに驕ることなく魔法の研鑽を積み、今や“賢者”と呼ばれるほどの達人になっている。

 良家の令嬢との縁談にも恵まれ、順調に魔法エリートとしての道を歩んでいる。


「ヒーリアは元気?」


「ああ、もちろんさ」


 ヒーリアは相変わらずの異形の姿で出迎える。


「エマル、立派になったわネ!」


「まあね。ヒーリアこそだいぶ上手に言葉を喋れるようになったね」


「苦労したけどネ。ところデ、とても嬉しそうだけド、どうしたノ?」


 エマルはうなずく。


「ヒーリア、君の呪いを解く方法をやっと見つけたんだよ!」


 ナルガスは目を見開き、ヒーリアのいくつかの眼球が動いた。


「あれから一年、僕は君たちに幸せになってもらいたくて、必死にバラムの呪いを解く方法を探したんだ。“賢者”と呼ばれるほどになれたのも、その副産物といって過言じゃない」


 エマルはこの一年、仲間のために奔走していた。

 呪いを解く方法を探し、さまざまな魔法を試すうち、いつしか自身の魔法の腕も以前よりぐんと向上していたとのこと。


「さっそく呪いを解こう! ヒーリアを在りし日の美しい姿に戻すんだ!」


 大がかりな術だからと、三人は外に出る。

 エマルは地面に魔法陣を描き、周囲にいくつかの蝋燭を立て、その中央にヒーリアを立たせた。


「じゃあ始めるよ……」


 エマルは両手を振り上げ、呪文を唱える。

 まもなくヒーリアの全身が光に包まれ、体に変化が起こり始める。


「まあ……!」

「おお……!」


 ヒーリアもナルガスも驚く。


 やがて、光の中から“かつて”のヒーリアが姿を現した。

 長く艶やかな金髪、澄み切った青い目と透き通るような白い肌、鞭を操るに相応しい鍛えられた四肢、引き締まったボディ……さらにエマルが配慮したので、魔力で生成した白い衣をまとっている。

 エマルは解呪が成功したことに安堵しつつ、二人に問いかける。


「どうだい?」


 ナルガスもヒーリアもにっこり微笑む。


「ありがとう……!」と口を揃える。


 とはいえ、ヒーリアを見てナルガスは――


「でも……あまり印象変わらないな」


 ヒーリアも――


「そうね。私もあの体の便利さにすっかり慣れちゃったから、早く元の姿に慣れないとね」


 笑い合う二人に、エマルはかつて悪魔を討伐した時と同じことをつぶやく。


「ハハ……二人には敵わないや」






おわり

お読み下さいましてありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
これ周りも見た瞬間は「ヒェッ」となったけど旦那が普通に受け入れてイチャイチャしてるから「あっなんか仲良さそうやし平和そうやな……ほならええか……」ってなったんやろな……
これこそが、なろうに多発して名物と化している「真実の愛」の本物バージョンなのでは?!
ここまで動じずに相手を許容して迎え入れてるの凄すぎる 読んでてエマルの言葉と一緒の思いで「2人にはかなわないや」となってしないました そしてそんなある意味ふつうを超えて愛し合ってる2人に対してかなわな…
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