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光の遊園地と、十歳の誕生日

作者: 北大路京介
掲載日:2025/12/24

ゴミ捨て場の端っこには、世界から見放されたものたちが積み上がっている。錆びた冷蔵庫、首の折れた扇風機、そして誰からも必要とされなくなった沈黙。


そこに、つなぎのポロポロの襟を立てたナツミが立っていた。彼女は小柄だが、その手はオイルと鉄の匂いが染み付いていて、どこか岩のような頑丈さを感じさせる。彼女は旅の錬金術師だ。


ナツミは地面に座り込み、銀色の水筒から冷めたコーヒーを飲み干した。隣には、薄汚れたパーカーを着た少年のユウジが、膝を抱えて座っている。


「ねえ、なんでゴミを直さないの? 錬金術師なんでしょ」


ユウジが尋ねると、ナツミは眠そうな目で彼を見た。


「直してどうすんのよ。直したところで、また別の誰かが捨てるだけだよ。人間はね、新しいものを買うために、古いものを嫌いになる練習をする生き物なの」


ユウジは黙り込んだ。今日は彼の誕生日だった。けれど、母親は夜勤のパートで不在、テーブルの上にはコンビニのパンが一つ置いてあるだけだった。彼は、一番マシなゴミを探して、自分へのプレゼントにしようとここへ来たのだ。


「キラキラしたものが欲しかったんだ」


少年の小さな呟きに、ナツミは鼻で笑った。


「キラキラねえ。あんた、あの星を見てみな。あれが光ってるのは、何億年も前に燃え尽きた残骸だからだよ。綺麗なものは、いつだって手遅れの光なの」


彼女は立ち上がり、懐から無骨な銀の平筆を取り出した。そして、ゴミの山の周囲に、流れるような手つきで練成陣を描き始めた。


「等価交換だ。あんたの『今日一日分の、どうしようもない寂しさ』を私にちょうだい。代わりに、一晩だけ魔法を見せてあげる」


ナツミが地面に両手を突いた瞬間、青白い火花が暗闇を走った。


ガリガリ、バキバキと、鉄が悲鳴を上げるような音が響く。不法投棄された軽トラックが起き上がり、自転車の車輪がいくつも空中に舞った。それらが複雑に噛み合い、溶接の火花を散らしながら、巨大な形を成していく。


そこに現れたのは、鉄くずだけで作られた、無骨で巨大なメリーゴーランドだった。


「わあ……」


ユウジが目を見開く。その時、ゴミ捨て場の入り口にライトを照らして三人の男たちが現れた。この場所に産業廃棄物を捨てに来た、柄の悪い地上げ屋たちだ。


「おい、ここで何やってんだガキ! 邪魔だ、どけ!」


男の一人がバットを振り回して近づいてくる。ナツミは面倒くさそうに溜息をつき、指をパチンと鳴らした。


「営業妨害。それ、高いよ」


次の瞬間、メリーゴーランドの足元から鉄の鎖が蛇のように伸び、男たちの足を払った。派手に転んだ男たちが拳銃を取り出そうとしたが、ナツミは素早く彼らの懐に潜り込み、錬金術で硬化させた作業用手袋でその顎を的確に弾き飛ばした。


「暴力はダメだよ。これ、お祝いなんだから」


ナツミは男たちの服のボタンを瞬時に練成し、彼ら自身を地面に縫い付けた。動けなくなった悪党たちの横で、メリーゴーランドがゆっくりと回転を始める。


鉄くずの馬たちは、錆びているのに、なぜか命を吹き込まれたように優雅に跳ねた。捨てられた電球たちが一斉に点灯し、暖かなオレンジ色の光が、冬の夜空を黄金色に染め上げる。


「乗りなよ、誕生日。一晩経てば、全部ただのゴミに戻るけどね」


ナツミに促され、ユウジは冷たい鉄の馬にまたがった。回転する視界の中で、寂しかった一日の景色が、光の粒となって後ろへ流れていく。


ナツミはそれを見上げながら、新しいタバコに火をつけた。


「いい? 幸せなんてのはね、こういう風に、いつか消えるから価値があるの。消えない幸せなんて、ただの重荷なんだから」


朝陽が昇り始めた頃、光り輝く遊園地は、音もなく崩れ落ちた。


そこには、また元の静かなゴミの山があるだけだった。ナツミの姿も、もうどこにもない。


ユウジは一人、公営住宅への道を歩き出した。ポケットの中に手を入れると、小さな金属の塊があった。取り出してみると、それは昨日の夜までただの錆びたボルトだったはずの、小さな星の形のピンバッジだった。


それは朝陽を反射して、少しだけ、生意気そうにキラリと光った。


ユウジはそれを胸に深くしまい、昨日よりも少しだけ力強い足取りで、坂道を登っていった。

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