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4月1日、君が死ぬ。〜美術展の来場名簿にサインしたら悪用されて、契約履行まで異世界から帰してもらえない〜  作者: 世界リコピン計画


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7. お届け

「しまった。もうすぐ決着がつくんだ」


ハッとした顔で私の腰から手を離した面布の男性はそそくさと店頭へ歩いていった。それを見て改めてノートへと目を向ける。それは間違いなく日本語で書かれた私のメモだ。そして次にその下の値札を見る。「銀貨8枚」と日本語で書かれているように見える。しかし、先ほどの面布の男性の話では、私のノートに書かれた日本語は未知の言語だという。ノートと値札を行き来してじっくりと見る。いくら見てもどちらの言語とも日本語にしか見えなかった。


「2枚ぼったくられた」


「やっぱり、11枚だったか…。いやしかし、見逃したのはとても残念だよ」


入口から会計カウンターへ向かう影が二つ見えた。1人は残念そうな面布の男性、そしてもう1人は袋から溢れそうな鉱石を抱えたルシエルだ。ルシエルは不服そうに眉間へ皺を寄せている。どうやらバイクの青年は少しばかりルシエルに一矢報いてくれたらしい。よくやった、バイク。


サムズアップをしていると、ルシエルがこちらへ視線を向けてくる気配がしたので、慌てて別方向へ視線を逸らした。そこには、ハンドルに頬杖をついて店内を覗き込み、楽しそうな青年がいた。私の視線に気付いたのか、目が合うとにんまりと笑う。そしてヘルメットを被ると、バイクのエンジンをかけ、ブォンという音を立てて走り去ってしまった。


「そうそう、商品はもう届いているよ。少し準備をするから、待っていてくれるかい。……ああそれと、お客さん。あまり女性を待たせるものではないよ。お詫びに何か買ってあげたらどうだろう。そうするのが道理だろうさ」


走り去るバイクを眺めていると、とんでもない言葉が聞こえた。つまり今、面布の男性は私にプレゼントしろ、とルシエルに言ったのだ。カウンターでは、奥の扉へ消えていく男性と、こちらに背を向けて立つルシエルの姿が見える。ルシエルがどんな反応をするかなんて想像に難しくない。きっと殺意のこもった目で睨まれる。恐れ慄きながら、ルシエルを見ていると彼はこちらに振り向く。


「自分の金で買え」


「ハイ」


無一文の私に、自分で買えと言われても、買えるわけないだろ。そんな不満な感情がわかったのか、一歩一歩とこちらに近づいてこようとするルシエルに慌てて笑顔を貼り付けた。


そんなやりとりをしていると、商品を持って面布の男性が戻ってきた。商品の内容は赤、黄、緑と色とりどりな画材だった。どうやらルシエルがこのお店に買い求めたかったのは画材だったようだ。ルシエルは数枚のコインを面布の男性へ渡す。


「お買い上げはこれだけかい?」


や め て。切実な願いだった。


「雑用に買い与えるものなどない。……来い。これを運べ」


「こじれているのかな。若いね」


知ったり、という動作でルシエルをつつく男性に「もう勘弁して」と心の中で叫びながらカウンターに近づいた。画材は少し重そうだが、持てないほどではない。両手で抱えるように持ち上げると、足元は見えにくいが歩ける。


「最近の若いコのブームはわからないね。少なくとも俺の故郷では女性に重い荷物なんて持たせなかったよ」


「性別などどうでもいい。使えるのなら」


コートを翻し、ルシエルは出口へ歩いていく。私は店主に軽く会釈し、小走りでその後を追った。


帰り道でも市場には寄らなかった。楽しそうな家族や美味しそうなフルーツを見たら後ろ髪を引かれるが、足を止めた瞬間置いていかれるので、ついていくしかなかった。


そうして早朝の買い物は日が高くなる前に終わり、ルシエルの家へ戻った。しかし、朝食抜きで歩き回った私の腹は正直で、ぐう、と鳴った。その音が聞こえたのか、ルシエルが扉の前で振り返り、私に静止のジェスチャーを送る。


「そのまま待て」


バタン、と扉が閉まる。荷物を抱えたままの私は唖然としながらも扉を見つめる。まさか追い出されたわけではないと思いたい。画材を持っているし、「去ね」ではなく「待て」と言われたのだから。


しばらくして扉が開く。ルシエルが現れ、その手にはたっぷりの食材。まさか、私の分だろうか。ルシエルを見ようとすると、画材の上にどっさりと袋いっぱいの鉱石がのせられる。慌てて踏ん張ると、さらにその上に食材がのせられた。立っているだけで精一杯の重さだ。


「モグラに持っていけ。ついでに回収もして来い」


「もぐら」


モグラといえば、土を掘るあの生き物だろうか。混乱して復唱するが、ルシエルの「持っていけ」という命令に体が反応し、勝手に歩き出す。後ろを振り返れば、家の扉に手をかけ、こちらを見向きもせずに入っていくルシエルが見えた。おのれ。


道を進み、路地を進む。狭い道を大荷物で歩き進んでいくと、水の音が聞こえてきた。視線を上げると、木の枝と布で作られたテントのような寝床がある。どっさり、と荷物を置く。腕と必死に支えていた指先、手首がじんじんと熱を持つ。ここは一体どこなのか、周りを見渡していると、死角になっていたテントの裏からひょっこりと何かが現れる。


「待ってた。黒色様の()い人」


真っ赤な瞳。なにか作業をしていたのか、頬や指の先が黒い墨のようなもので汚れている。それは、熱を出した時に心の支えとなってくれたあの男の子だった。

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