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4月1日、君が死ぬ。〜美術展の来場名簿にサインしたら悪用されて、契約履行まで異世界から帰してもらえない〜  作者: 世界リコピン計画


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5. 魔法

「ころ、した……と、言われましても……」


悪魔と契約、殺人を犯した罪人。そんな悍ましいことをした覚えなんて、もちろんない。目の前の男を悪魔とするなら、悪魔契約は達成してしまっているかもしれなけれど。


「アンタ、いい加減にしなさいよ。ごめんなさいね、ハナ。ルーシーは根っからの悪い子なの」


「お褒めにあずかり光栄だ。して、答えは。」


「お黙り!……ハナ、しばらくの間はゆっくり休んで。今からご飯作って持ってくるから、いい子で待ってるのよ」


毛布を私の肩までかけると、エリーさんはルシエルの首根っこを掴んで、ずるずると部屋の外へと引きずっていった。


バタン、と扉が閉まる音がして、私の肩の力が抜ける。ここにきてから、初めての1人かもしれない。命の危機を感じたり、悪魔と言われたり、左手でナイフを掴み取ったり。挙げ句の果てには、黒魔法の適性があると言われ、私の小さな頭のキャパシティはすでにオーバーしていた。


『そのほとんどが殺人を犯した罪人だ。』


つまり、ルシエルは人を殺したことがあるのだろうか。思えば、出会った時も普通に殺されかけた。これについてはあまり深く考えない方が身のためなのかもしれない。


思考を止めて、ぼんやりと部屋を見渡す。やはり簡素な部屋だ。ふと、壁掛けの日めくりカレンダーが目に入った。「April」と「3」の文字。窓から差し込む光が白い髪をわずかに黄味がかって見せていた。


「あ」


じっと見ていると、ふいに影がかかった。驚いて、窓を見ると、真っ赤な瞳と目が合った。窓の外側で、目より上だけひょっこり出して、無表情でこちらを見ている。目が合ったと気がついたのか、びゅん、と勢いよく窓の下に隠れてしまった。


「なんだ……?っ、いてて……」


気になって窓を見続けていると、再び赤い瞳がぴょっこりと現れた。今度は顔の半分まで飛び出して、じっとこちらを観察している。私が向かってこないのがわかると、とうとう顔の全てを明らかにして、手をちょこんと窓枠に乗せている。どうやら男の子のようだ。赤い瞳の男の子は、こちらを指差して口を動かす。


『だ れ ?』


口の動き的におそらくそう伝えたいのだろう。しかし、難しい質問をされたものだ。どう答えるべきかわからず困って、曖昧に笑うと、男の子は首を傾げてから、自分の左手を指差した。


『け が ?』


今度は答えやすい質問だった。「うん」と頷くと、男の子はまだ窓の下に隠れた。しばらく見ていると、ぴょこりと黄色い花が顔を出した。たんぽぽだろうか。続いて顔を足した男の子はそのはなを窓際に丁寧に置いた。そして人差し指と中指をクロスすると、今度こそ消えていってしまった。なんだったのだろうか、と窓を見つめていると、部屋の扉が開いた。


「ハナ、ご飯持ってきたわよ。あのおバカさんはアトリエに突っ込んできたからしばらくはこないと思うわ。…どうしたの?」


「あのお花、とってもらえませんか?」


窓を指すと、「まあ!」と声をあげたエリーさんは、食事プレートをテーブルに置き、窓を開けて花を拾い上げ、持ってきてくれた。


「ありがとうございます」


「素敵ね」


「はい、とっても」


◆◇◆◇


翌日、私は熱を出した。怪我によって誘発される熱だ。風邪とは違って喉の痛みや鼻詰まりはない。その代わりにただただしんどい。とにかくしんどい。そんな私を看病しているのは、意外にもルシエルだった。エリーさんはというと、教会の孤児院の子供達の世話もあるらしく、昼の自由時間に顔を出せたら良い方だそうだ。自分がそばにいれないことについてすごく謝っていたのを覚えている。


「白魔法の治癒が無理なだけで、黒魔法の治癒は受けられるんですよね」


「はあ。」


「じゃあ、あなたなら、むぐ」


「自分でなんとかしろ」


話の途中で、やたら熱い粥を口に捩じ込まれた。咳き込まないように押し込んでくるあたり、器用な者だと思う。


自分でなんとかしろと言われても不可能なことを言いつけてくるものだ。不満たっぷりに見上げれば、ルシエルはそんな私の表情に気づいたのか、人差し指を私の首に当て「なら死ね」とでも言いたげな目をしてくるので、私の怒りはすぐに収束し、素知らぬ顔で粥を飲み込む。到底、病人に対する扱いではない。しかし、エリーさんにひどく言いつけられているのか、食事は欠かさず3回持ってくるのが意外にも義理堅いのかもしれない。ただ、この男の機嫌次第では病人だろうがなんだろうが呆気なく殺されてしまう気がする。そのため、今はこの男の機嫌がどこまで続くのか、それが怖い。食事が終わるとルシエルは扉の向こうへ消える。これが1日3回。ここは地獄か。


そんな生活で唯一の癒しといえば、不定期に来る窓辺の赤い瞳の男の子だ。彼の表情はあまりに無で、何を考えているのかはわからないが、来るといつも元気づけられる。エリーさんが来る日は花を供えてくれるし、この間は手の影で蝶や犬を表現しては『お も し ろ い ?』というので思わず笑ってしまった。


今日も影がかかる。彼がきたみたいだ。「や」と片手をあげて挨拶のつもりのようだ。同じように右手をあげて挨拶を返す。


『げ ん き ?』


「元気じゃないよ」


びゅん、と窓の下に隠れた男の子は、今日はゆっくり頭を出した。その手には暴れる猫がいた。あ、という間に猫は暴れ、男の子の額を引っ掻いて逃げていった。結構ざっくり言ったようでベッドの上からでも血が滲んでいくのが見えた。それを見て驚いて、元気な時のように体を動かしてして、ベッドから落ちてしまった。数日を共にした傷の痛みには慣れてきたが、熱のせいで体が重く、起き上がるのには時間がかかりそうだ。ベッドに手をかけてよじ登ろうとするも、力が入らず、ちょっと休まなければ登れそうにない。男の子はじっとこちらを見つめていたが、数秒してから窓の横へと消えた。驚いて帰ってしまったのだろうか。それは悪いことをした。自分の鈍臭さにため息が出る。


そうしてベッドに寄りかかっていると、扉が開く音がした。


「ここまで草臥れる様子は雑巾でも見たことがないな。…治せ、とモグラに言われたが、あいにく私は命令には反抗したくなる質でね。自力でベッドに戻れるよう、尻を叩いてやろうか」


もはや、悪魔ルシエル・アドラーのご機嫌取りをする気力もない。ルシエルはベッドに顔を埋めて何も言わない私を見下ろしている。しばらくすると、ぱさり、という衣擦れの音がする。どうやらルシエルが私のすぐ後ろで膝をついたらしい。何も言わないルシエルを不気味に思って体を起こそうとすると、彼が覆い被さるように、私の左手を掴んだ。


「魔法を使う時、人はイメージしろというが、私の考えはそうではない。最も簡単な方法は怒りだ」


親指が、傷にゆっくりと押し当てられる。


「傷さえなければ、発熱しなかった。傷さえなければ、私に嘲笑われることもなかった。」


後ろのルシエルを肩で押すも、窘めるように傷を押す力を強められてしまった。痛みに真横にあるその顔を睨めば、彼は流し目でこちらを見てくる。


「傷さえなければ、私を殺すことができたかもしれない。傷がなければ。」


「こっ……」


「……はぁ」


ルシエルは短く、呆れたように息を吐き、傷口から手を離すと、そのままするすると手首まで指を這わせ、ぎゅむりと掴んだ。


「あるいは、もうこの手は不要か」


「ひゅっ、」


ぶわりと汗腺から汗が噴き出す感覚がした。いやだ、と恐怖で体が固まり、目を固く閉じた瞬間、耳元で噴き出す声が聞こえた。


「よもや恐怖で魔法を使うか。なんと無様……滑稽……いや、失礼。大変に面白いものを見た」


体が離れていく感覚。そっと目を開けると、左手の痛みが消えていた。ただし、その代わりにひどい倦怠感がのしかかってくる。


「私は戻る。ベッドを使うなら、魔法で体を清めてから眠れ。その不潔な体のまま眠りたいなら、床で寝ろ。」


なお、その清める魔法は教えてくれないようだ。少しピキリとなりながらも、反撃する手段もない私は、扉の向こうへ消えていくルシエルに心の中で舌を出した。


コンコン、と窓を叩く音がした。もしかして、と思い顔を向けると、窓の向こうから赤い瞳の男の子がこちらを覗いていた。


『げ ん き ?』


「あっ、あのね、私、傷、治っ……」


ばたんきゅ〜


熱とストレスによる体力切れであった。

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