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特視会議 前編

 こっくりさん事件から数日後、特視の本拠地、地下にある広い会議室に緒方と双月の姿があった。長テーブルの上に置かれているのはノートパソコン。緒方の前にはコーヒー。双月の前には炭酸飲料とスナック菓子がこれでもかと並べられている。

 やけ酒ならぬ、やけスナック菓子をキメる双月を尻目に、リモート会議は進む。誰も双月を注意しない。あのセンジュカですから生暖かい目を向けるだけで、黙って緒方の報告を聞いていた。


「以上が、久留島零寿とタガン様の調査結果及び、顛末になります」


 緒方が報告を終えると、沈黙が落ちる。双月が不機嫌な顔でスナック菓子を貪り食う音が響き、画面の向こうでは大鷲が肩を震わせて笑いをこらえていた。もういっそ笑えと緒方は思う。

 優雅にティータイムと洒落込んでいたセンジュカがティーカップを置く。全員無言なため、ティーカップを置く些細な音すらマイクが拾った。


「つまり私たちは、バカップルにふりまわされたってことですの?」


 センジュカの発言に、ついに耐えきれなかった大鷲が吹き出した。一度笑いだしてしまえば止め方がわからなかったようで、ヒーヒーいいながら机を叩いている。

 人気のない場所にいるとは聞いているが、そんなに騒いで大丈夫なのかと緒方は少し心配になった。


「結論から言えば、そういうことになりますね……」

「割れ鍋に綴じ蓋ってこういうことを言うのですね。勉強になりましたわ」

「俺に嫌味言われても……」


 当事者に言ってくださいと緒方は心の底から思った。こっちだって散々振り回されたのだ。いたいけな青年が一方的に土地神に執着されているのだと思ったら、両片思いのすれ違い状態だったなど誰が予想できようか。


「久留島くんは夢じゃと思っておったんじゃろ? 幼い子供がいうことじゃし、タガン様も最初は本気にしておらんかったんじゃろ。絆されたのと堕ちかけたタイミングが悪かったんじゃろうな」


 腹を抱えて笑っていたわりに話はきちんと聞いていたようで、大鷲が冷静な分析を口にした。


「タガン様という方はずいぶんお優しいのですね。見捨てて出ていったのは向こうだというのに。祟られたなんて事実無根の逆恨みをされて、それでも許してしまうのですから。私だったらお望み通り呪って差し上げましたのに」

「センジュカさんがいうと洒落にならないのでやめてください」


 呪詛を食べ、呪詛を操るセンジュカが本気を出したら、久留島を残して全滅しかねない。

 センジュカはチラリと緒方を見ると、それはもうきれいな笑みを浮かべた。真っ白な外見も相まって、芸術品のような美しさだが、内面を知っている緒方には死神にしか見えない。

 センジュカを怒らせるようなことをするなよと、会ったこともない神主家系に必死に願う。

  

「血を分けた子孫、しかも一人で五十人分じゃ。三人家族でも百五十人分。堕ちる前に解決できてよかったの」


 最悪な事態を想定したらしい大鷲が、ぶるりと身を震わせた。

 ただでさえ危険な特視の仕事だが、堕ち神相手はその危険も跳ね上がる。理性の消えた獣は恐ろしい。それが神までの地位に上り詰めたものなら尚更。

 交渉不能な場合が多いため、対処法は殺すか封印するのみ。そうなった場合、危険にさらされるのは呪詛耐性の高い双月とセンジュカだ。

 画面の向こうで高そうなケーキを口に運ぶセンジュカと、隣で新しいスナック菓子の袋を開いた双月。両方が危険にさらされる未来がなかったことに緒方は安堵した。


「神主家系は様子見と説得じゃの。一旦安定したとはいえ、いつまで持つかは分からん」

「糧を得なければ、いずれ枯渇します。方法を考えなければなりませんね」

「それはタガン様と要相談ということで、しばらくは久留島と一緒に特視に所属してもらいます」


 緒方の発言に大鷲が意外そうな顔をした。


「久留島くんは異動させるといっていたのに、結局やめたんじゃな」

「アイツら、危なっかしくて目が離せねえだろ」


 スナック菓子を咀嚼するだけの存在になっていた双月が、不機嫌そうな顔と声で答えた。その様子を大鷲は微笑ましそうに見つめている。


「素直じゃないですわねえ。可愛い後輩を手元に置く理由ができて嬉しいのはバレバレですわよ」

「うるせえババア」

「口の聞き方を体に叩き込んであげましょうか、クソガキ」

「話進まんから、じゃれるなら後での」


 画面越しに睨み合った双月とセンジュカの意識を大鷲は手を叩いてそらす。いつものやり取りに、緒方は平和だなあとコーヒーを口に運んだ。


「久留島くんはそれでいいと言っておるんじゃな?」

「俺達の手を借りず、自力で解決できるようになるまで特視で頑張りたいって」

「それはまあ、素晴らしい心がけですわね。メンヘラホイホイかと思ってましたが、見直しましたわ」

「お前がメンヘラ言うな」

「あ?」

「は?」

「もー! 話進まんじゃろ!! 喧嘩するなら個人で通話せぇ!」


 大鷲がバンバンと机を叩く。センジュカと双月は腕を組むとそろってそっぽを向いた。本人たちにいったら怒られるが、相変わらず反応がそっくりである。


「ところで大鷲さん、こっくりさんの件はどうなりました?」

 

 流れを変えたくて大鷲に話題を振る。タガンのフォローや事情聴取を優先して、こっくりさん事件の後処理は彰に丸投げになっていた。彰のことだから下手なことはしないだろうが、どうなったのかは気になっていたのである。大鷲も話したかったのか、聞いてくれとばかりに身を乗り出す。


「さすが(あっくん)、天才での。こっくりさんの名称をお狐様に変えたんじゃ」

「どういうことですか?」

「こっくりさん、こっくりさん、おいでくださいませ。っていう文言で始まるのがこっくりさんじゃろ? そのこっくりさんの部分を、お狐様にしたというわけじゃ」


 大鷲の説明に緒方は想わず感嘆の声を上げた。言われてみると単純な話だが、緒方には思いつかない発想だ。


「やめろと言っても子どもはやめんからの。むしろ止められた方が隠れてでもやろうとする。ならば、子どもが知らぬ間に危険なおもちゃを安全なものに変えてしまえばいいということじゃ」

「お狐様の領域でお狐様を呼ぶわけだから、他の雑魚が入る隙間はなくなるな」


 双月も関心したように頷いた。不特定多数に発信していた電波を、お狐様への直通回線に変えたようなものだ。


「適度にお狐様が相手するから、こっくりさんより確実な反応がある。子どもたちはお狐様の方がすごいと思う。それでまた遊ぶ。そうすることでお狐様の信仰も集められるという良い事づくめの計画じゃ」

「悪知恵働くなあ……」


 双月の呟きに内心同意した。頭が良いではなく悪知恵という双月の気持ちも分かる。物理攻撃も強いうえ、こういう知恵も回るのだから佐藤彰という存在は恐ろしいのだ。


「そのうえ、子狐商店街で売っている鈴を持って儀式をすると効果アップという噂まで流したんじゃ。商店街の売上が伸びておるらしい」

「まて、クティが協力的だったのって……」

「この結果が見えてたんじゃろうなあ」


 双月がスナック菓子の袋を握りつぶしながら、あの野郎と地を這うような声を出す。緒方は今回もいいとこ取りされたなと天を仰いだ。

 

 子狐商店街は黒天学園がそびえる山の麓に存在する。お狐様の娘である子狐様が守護する場所であり、クティの活動拠点でもある。商店街の人間との関わりがあるクティにとって、商店街が潤うのは巡り巡って自分の得になる。


「タガンに恩も売れるし、売上も上がるし一石二鳥って考えての行動か、あの野郎」

「ほんっと、ハイエナみたいな男ですわね」


 センジュカが顔をしかめたがフォローする気にならない。

 緒方の脳内にはうまくいったと高笑いするクティの姿が浮かんだ。

 相手は未来を見通す力を持つのだから、自分が叶うはずもないとわかっている。それでもこうも利用されると、微妙な気持ちになる。それは緒方だけではなかったようで、リモート会議になんともいえない空気が広がった。

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