終わらない世紀末 - 第九章:黄金の侵略者
秋も深まり、ケンタがいつも通る通学路の空き地は、いつの間にか一面、鮮やかな黄色に染まっていた。かつては風に揺れるススキが茂っていたはずの原っぱは、背の高い見慣れない植物に覆い尽くされていた。大人たちは気づいていないふりをするかのように、あるいは見て見ぬふりをするかのように、その変化には無関心だった。しかし、ケンタは違った。学校帰りの原っぱの様子が、随分と変わっていることに気づいていた。
(こんなにも強い植物が、いつか日本中を覆い尽くすのだろうか…)
ケンタは、その黄色い植物、セイタカアワダチソウが、まるで侵略者のように日本を席巻し、やがて人類が住めない世界になることを夢想した。それは、戦争でも、核でも、宇宙人でも、石油枯渇でもない、静かで、しかし確実な、植物による世紀末だった。人類は、この強靭な植物に駆逐され、地球は黄金の絨毯に覆われる。その光景は、どこか美しく、そして恐ろしい。
ある日、吉田先生が、教室の窓からその原っぱを眺めていた。いつものように、不機嫌そうな顔つきだったが、その口元には、どこか満足げな笑みが浮かんでいるように見えた。
「つまらんな、日本は。こんな狭い島国で、つまらない植物ばかりだ!」
吉田先生は、吐き捨てるように言った。
「だが、見ろ! 外国から、優秀な植物がいっぱいくる! そのうち、日本の雑草は、あのセイタカアワダチソウに駆逐されるのだ! いい気味だ!」
吉田先生の日本嫌いは、果てしないようだった。彼は、日本の伝統や文化、そして日本の自然さえも、どこか軽蔑しているように見えた。ケンタは、吉田先生の言葉を聞きながら、思った。
(この人は、世界を滅亡させたいんじゃなくて、日本を滅亡させたいのだろうか…)
吉田先生の語る「世紀末」は、常に「日本」という枠の中で語られ、その根底には、日本社会への深い不満と、ある種の破壊願望が渦巻いているようだった。ケンタが夢見る、もっと普遍的で、壮大な「世紀末」とは、またしても異なるものだった。セイタカアワダチソウが覆い尽くす黄金の野原は、ケンタの心に、また一つ、複雑な矛盾を刻み込んだのだった。