終わらない世紀末 - 第八章:夢と矛盾の大学
学年も終わりに近づき、卒業を控えたケンタは、学校で友達と世紀末について語り合うことが増えていた。
「もし本当に世紀末が来たら、学校なんてなくなるのかな?」
「文明が崩壊して、社会のルールも全部なくなったら、俺たち自由になれるのかな?」
友達は、どこか不安げに、しかし期待を込めた目でケンタに問いかける。ケンタは、彼らが抱く漠然とした不安をよそに、自分の夢想する「世紀末」のイメージを語った。それは、既存のすべてが壊れ、その後に訪れる、真の自由な世界だった。しかし、ふと、ケンタは疑問に思った。
(僕たちは、なんでこんなに一生懸命勉強しているんだろう?)
もし本当に世界が滅びるのなら、勉強なんて意味がないのではないか。彼は、自分が大人になることすら、想像できなかった。大人になった自分は、どんな世界で、何をしているのだろう? 世紀末が来れば、そんな未来は必要ないはずだ。
そんなケンタたちの会話を耳にしたのか、またしても吉田先生が、ニヤニヤしながら近づいてきた。
「お前たち、勉強なんて、くだらん! そんなもの、社会の奴隷になるための道具に過ぎんのだ!」
吉田先生は、いつものように熱弁を振るった。
「俺たちが学生だった頃は、そんなことより、もっと大事なことがあった! 学生運動だ! 俺たちは、来るべき革命のために、毎日、熱く語り合ったものだ! 勉強なんかしなかったさ。そんな暇はなかったからな!」
吉田先生は、誇らしげに胸を張る。彼の言葉は、ケンタの親や近所の大人たちが言うこととは、まるで正反対だった。親や近所の大人たちは、毎日真面目に働き、ケンタにも「ちゃんと勉強しろ」「いい大学に行け」と口を酸っぱくして言った。彼らは、真面目に勉強して、良い会社に入ることが、幸せな人生を送る道だと信じているようだった。
(勉強はいらないって、本当にそうなのか?)
ケンタは、吉田先生の言葉に、またしても矛盾を感じた。吉田先生は、大学で「革命」について語り合ったというが、その大学とは、いったいどんなところなのだろう。それは、ケンタが夢見る「世紀末」とは、まるで違う世界に思えた。
(大学に行ったら、僕は大人になるのか? 世紀末は来ないのか?)
ケンタは、自分の将来と、来るべき世紀末の間に、大きな隔たりを感じ始めていた。吉田先生が語る「革命」も、親たちが語る「真面目な人生」も、ケンタが心の中で描く「最後の一人」として世界を見届ける壮大な物語とは、どうにも結びつかなかった。彼の「世紀末」への夢は、ますます個人的で、誰にも理解されない、孤独なものになっていくようだった。