終わらない世紀末 - 第伍章:枯渇する夢
秋風が吹き始め、どこか物悲しい季節になった。ケンタの周りの大人たちは、相変わらず世の中の不満を口にしていたが、最近よく耳にするのは**「石油がなくなる」**という話だった。食卓でも、テレビのニュースでも、学校の教科書でさえ、「あと数十年で石油は枯渇する」と書かれていた。
(あと数十年…そんなに待てない!)
ケンタは心の中で叫んだ。彼の「世紀末」は、もっと劇的で、もっと早く訪れるべきものだった。石油がなくなるのなら、もっと早く枯渇してしまえばいい。そうすれば、車も工場も動かなくなり、世界は一気に混乱に陥るだろう。そして、その中で、彼は「最後の一人」として、石油なしで生き抜くのだ。火をおこし、自給自足し、文明が崩壊した世界で、たくましく生きる自分を想像した。
ある日の社会科の授業で、第二次世界大戦の話になった。教師は、日本が石油資源を求めて戦争に突き進んでいった経緯を淡々と説明した。ケンタは、その話を聞きながら、石油というものが、いかに世界を動かし、そして争いの原因となってきたかを改めて考えた。
すると、またしても吉田先生が、ふらりと教室に現れた。斎藤先生が、いつものように困惑した表情を浮かべる中、吉田先生は教壇に立ち、いつもの調子で話し始めた。
「お前たち、石油がなくなる、なくなる、と騒いでいるが、本当にそうか? 石油は、この社会の**不正の象徴**なのだ! 一部の人間が富を独占し、我々から搾取するための道具に過ぎん!」
吉田先生は、教科書を指差し、鼻で笑った。
「第二次世界大戦? 石油のため? 馬鹿な! あれは、支配者たちが、自分たちの都合の良いように仕組んだ戦争だ! 石油は、そのための口実に過ぎんのだ! 本当に石油がなくなるのなら、なぜ、あの金持ちどもは、未だに贅沢な暮らしをしているのだ? なぜ、貧しい国々から、石油を奪い続けているのだ?」
吉田先生の言葉は、いつも通り、社会の矛盾と、特定の勢力への批判に満ちていた。彼は、石油の枯渇問題さえも、既存の社会システムと支配者への不満と結びつけて語るのだった。
ケンタは、吉田先生の言葉を聞きながら、複雑な感情を抱いた。吉田先生の言うことは、確かに一理あるようにも思えた。しかし、彼の「世紀末」への夢は、特定の誰かの陰謀によって引き起こされるものではなく、もっと根源的な、地球規模の、避けられない終焉であってほしかった。
(石油がなくなるのは、誰かのせいじゃない。地球が、もう限界なんだ…)
ケンタは、吉田先生の言葉に、以前のような興奮を感じなくなっていた。彼の世紀末は、もっと純粋で、もっと壮大なものだったはずだ。大人たちが語る「石油枯渇」は、ケンタの夢見る「世紀末」を、またしても陳腐なものに変えていくようだった。彼は、早くこの退屈な日常が終わり、真の「世紀末」が訪れることを、心から願っていた。