終わらない世紀末 - 第四章:円盤の矛盾
夏休みが終わり、二学期が始まった。ケンタの「世紀末」への想像は、新たな燃料を得ていた。それは、深夜にこっそり見ていたテレビの**オカルト番組**だった。UFO、宇宙人、超能力…画面に映し出される奇妙な現象の数々は、ケンタの心を強く捉えた。特に、UFOが地球に飛来し、人類に接触、あるいは侵略するというシナリオは、彼の世紀末の夢にぴったりと重なった。
(そうだ、戦争や原爆だけじゃない。宇宙人が攻めてきて、世界が滅びるのも世紀末だ!)
ケンタは、夜空を見上げながら、UFO襲来の世紀末を夢想した。突如として現れる巨大な円盤群、レーザー光線が街を焼き尽くし、人類は為す術もなく…しかし、その先に、きっと新しい世界が待っているはずだ。
学校では、クラスのガキ大将的存在であるタカシが、怪しげな雑誌をこっそり持ち込んできた。表紙には、いかにもそれらしいUFOの写真と、「地球滅亡まであと〇年!」といった煽り文句が踊っている。
「なあ、知ってるか? 宇宙人ってのは、もう地球に来てるんだぜ。俺の親戚のおじさんが、夜中に畑で光る円盤を見たって言ってたんだ!」
タカシは、さも見てきたかのように得意げに語る。周りの友達は「すげー!」「マジで!?」と目を輝かせ、タカシの話に聞き入っていた。ケンタも最初は興奮して聞いていた。しかし、タカシの語る宇宙人の姿や、雑誌に載っているUFOの絵を見ているうちに、ふと、ある疑問が頭をもたげた。
(なんで宇宙人って、みんな**円盤**に乗ってくるんだろう? もっと効率的な形とかないのかな?それに、宇宙人なのに、なんで人間みたいに手足があるんだろう? もっと違う姿でもいいはずなのに…)
ケンタは、これまで漠然と受け入れていたUFOや宇宙人のイメージに、急にリアリティの欠如を感じ始めた。もし本当に宇宙人が地球を滅ぼすほどの力を持っているのなら、もっと想像を絶するような姿をしているはずではないか? こんな、どこか人間臭い、そして少しばかり滑稽に見える「円盤」で、本当に世界を滅ぼせるのだろうか?
ケンタは、急に自信がなくなった。彼の夢見る壮大な世紀末のシナリオに、この「人間もどき」の宇宙人や「円盤」では、どうにも迫力不足に思えてきたのだ。
そんなケンタの心の揺れを知ってか知らずか、またしても吉田先生が、UFOの話に割り込んできた。
「お前たち、そんなくだらんものに騙されるな! UFOだ? 宇宙人だ? 馬鹿馬鹿しい! あんなものは、**アメリカの陰謀**だ! 奴らが開発している**秘密兵器**を、宇宙人の仕業に見せかけているだけなのだ! 新しい兵器をテストするために、我々を欺いているに過ぎん!」
吉田先生は、UFO雑誌を指差し、鼻で笑った。彼の言葉は、ケンタの心に冷水を浴びせた。アメリカの秘密兵器…その言葉を聞いた瞬間、ケンタはUFOへの興味を急速に失った。
(なんだ、秘密兵器なのか…)
ケンタが求めていたのは、人類の想像を超えた、圧倒的な力による「世紀末」だった。それが、結局は人間の、しかもアメリカの陰謀だというのなら、それは彼の夢見る「世紀末」とは違う。吉田先生の「アメリカ憎し」の思想は、ケンタの純粋な終末への憧れを、一気に陳腐なものに変えてしまったのだった。