終わらない世紀末 - 第十二章:病床の黙示録
冬の寒さが本格的になり、学校ではインフルエンザが大流行していた。ケンタのクラスでも、毎日、欠席者が増えていく。空席が目立つ教室は、どこかひっそりとしていて、まるで静かに世界が滅びていくかのような錯覚を覚えた。
(そうだ、インフルエンザで人類が滅亡する世紀末もあるんだ!)
ケンタは、熱に浮かされたような頭で、インフルエンザによる世紀末を夢想した。人々は次々と病に倒れ、街は静まり返り、やがて生き残った者も、ウイルスによって徐々に数を減らしていく。文明は機能を停止し、世界は静かな死を迎える。それは、これまで夢見たどの世紀末よりも、現実味を帯びた、恐ろしい光景だった。
学校では、吉田先生が、このインフルエンザの流行を、またしても行政や社会の責任に結びつけて、厳しく追求していた。
「このザマは何だ! 予防接種は足りているのか! 医療体制は万全なのか! 無能な行政のせいで、子供たちが苦しんでいるではないか!」
吉田先生は、とにかく揚げ足を取りたいかのように、声を荒げて職員室でまくし立てていた。彼の言葉は、常に誰かを糾弾し、自分たちの正しさを主張することに終始しているように見えた。
一方、担任の斎藤先生は、吉田先生とは対照的に、生徒たちのことを心から心配していた。彼は、マスクを着用し、手洗いやうがいを徹底するように、繰り返し呼びかけた。
「皆さん、手洗いうがいをしっかりして、栄養のあるものを食べて、早く寝ましょう。一人ひとりが気をつければ、きっとこの流行も乗り越えられますからね」
斎藤先生の声は、優しく、そして生徒たちへの愛情に満ちていた。彼の言葉は、吉田先生の怒声とは違い、ケンタの心にじんわりと染み込んだ。
そして、次の日。ケンタは、朝から体がだるく、熱っぽいことに気づいた。学校を休んで寝込むことになった彼は、朦朧とする意識の中で、インフルエンザの世紀末を体験することになる。高熱にうなされ、全身が痛み、呼吸すら苦しい。それは、ケンタがこれまで夢想してきた「最後の一人」として世界を見届ける、壮大な物語とはかけ離れた、ただただ苦しいだけの滅びだった。
(これが、人類滅亡の苦しさなのか…)
ケンタは、病床で、これまで感じたことのない絶望感を味わった。それは、ヒーローが悪役を倒すような劇的な世紀末でもなく、希望の光が見えるような浄化の炎でもなかった。ただ、肉体が蝕まれ、意識が薄れていく、純粋な苦痛と孤独だった。ケンタは、この時初めて、自分が本当に望んでいた「世紀末」が、実は恐ろしいものであることに気づくのだった。




