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終わらない世紀末

1980年代。日本中の子供たちがファミコンとキン肉マンに夢中になっていた頃、ケンタは違った。彼の頭の中には、来るべき世紀末の光景が広がっていた。ノストラダムスの大予言、SF映画のディストピア、核戦争の危機、環境破壊のニュース。どれもこれも、ケンタには退屈な日常を打ち破る、輝かしい未来に見えた。


学校の授業中も、友達との遊びの最中も、ケンタの心は終末の世界をさまよっていた。「あと何年で世紀末だっけ?」「食糧危機って、やっぱりみんなでサバイバルするのかな?」「エネルギー問題が深刻になったら、宇宙に新しい地球を探しに行くんだ!」彼は目を輝かせ、来るべき混乱と冒険の日々を想像した。


彼の部屋には、地球儀の隣に火星の模型が飾られ、壁には宇宙船のポスターが貼られていた。ケンタにとって、宇宙開発は世紀末の最終章であり、人類が到達する究極のフロンティアだった。彼は、自分こそがその最前線に立ち、崩壊する世界を、そして新たな時代の幕開けを目撃する、最後の一人になるのだと信じて疑わなかった。


しかし、時は残酷なほど穏やかに過ぎていった。1990年代になり、2000年代を迎え、そして2010年代へと突入しても、世紀末は訪れなかった。戦争は遠い国で起こり、食糧危機はニュースの中で語られ、エネルギー問題は新たな技術で解決されようとしていた。世界は、ケンタが夢見たような劇的な終わりを迎えることなく、ただただ日常を続けていた。


大人になったケンタは、いつの間にか普通の会社員になっていた。あの頃の輝きは影を潜め、日々はただ流れていく。ある日、テレビのニュースで、火星への有人探査計画が発表された。かつて目を輝かせたはずのケンタは、何の感情も抱かなかった。


「馬鹿野郎……」


ケンタは心の中で呟いた。世紀末は来なかった。世界は終わらなかった。そして、彼は「最後の一人」になることもなかった。ただ、地球は今日も回り続けている。彼の夢見た壮大な物語は、結局のところ、彼の脳内で完結しただけの、取るに足らないフィクションだったのだろうか。


ケンタは窓の外を見た。都会の夜景が、穏やかに光り輝いている。もしかしたら、本当の世紀末は、劇的な破滅ではなく、このように静かに、そして退屈な日常の延長として訪れるのかもしれない。そして、彼こそが、その「終わらない世紀末」をただ生き続ける、最後の一人なのかもしれない。


挿絵(By みてみん)

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