第6話:恋は時間を超えるが、物理的には超えられなかった
「……じゃ、君たちには“明日の存在消滅”に向けた最終恋愛試練を受けてもらうよ」
神(※転校生)は、ポテチを食べながら言った。
「は?恋愛試練って何だよ?」
「簡単さ。“好きな相手を、**自分で人間にする”こと”。失敗したら、時間ごとお前が消える」
「人間にする……?まさか……カナタを……!?」
視線の先で、彼女――ゾンビで宇宙刑事でドラゴンのカナタが、
体育館の片隅で静かにファンタジー炊飯器に自分の尻尾を突っ込んでた。
「人間になるためには、“恋する相手の気持ち”を熱で蒸留しなきゃいけないの」
「おまえ、その方法……マジでやる気か?」
「うん。だって……“人間として、カズマくんに会いたい”から」
涙じゃない。ドラゴンの目から時間が流れてた。
過去も未来も溶けるくらい、やさしくて、かなしい光。
*
神の出した試練は、想像以上にエグかった。
第1段階:「恋愛記憶迷宮」
→ カズマ、自分が恋してきた記憶の中にダイブ。
小学生の初恋、中学の黒歴史、高校の失恋全部ぶり返し。
「はっはっは、おまえあのとき“好きな人は酸素です”って言ってたぞー!」
「うるせええええええ!!」
第2段階:「存在否定バトル」
→ 神が作った“ネガティブ人格の自分”とバトル。
「お前みたいなやつ、彼女が人間になっても捨てられるだけだぜ?」
「でも、俺は!俺は!それでも好きだって言いたいんだよ!!!!」
ぶん殴った瞬間、空間がパリーンと割れた。
*
その頃、カナタは――
最後の工程、“変身の扉”の前にいた。
「この扉を開けたら、私はもうドラゴンでもゾンビでも宇宙刑事でもなくなる。
ただの、1人の……人間の女の子になるの」
でも、扉の向こうには何もなかった。
「え……?なにこれ……空っぽ……?」
そこに神が現れた。
「“恋する側”が来ないと、変身は成立しない。人間になるのって、1人じゃダメなんだよ」
「……来てくれるかな、カズマくん……」
*
一方そのころカズマは、
最終試練、“愛の重力逆転シュート”を受けていた。
空中に吊るされた巨大ハート型惑星から、好きの気持ちをぶつけないと爆発する。
「いくぞ……!これが……俺の……!」
「好きだああああああああああああ!!!!」
その声は時空を貫いた。
物理も、倫理も、文法すらねじ切って、まっすぐ彼女に届いた。
*
扉の前で待っていたカナタの前に、カズマが降ってきた。
マジで空から降ってきた。好きの勢いがヤバすぎた。
「遅いよ、カズマくん」
「ごめん。でも、言いたいことがある」
カズマは手を握った。
ゾンビの皮膚も、ドラゴンのうろこも、宇宙刑事のバッジも全部透けて――
その奥にいたのは、ただの「カナタ」。
「おまえが人間かどうかなんて、どうでもいい。
人間だろうが、ゾンビだろうが、火を吹こうが、ベーコン焼こうが、
俺はお前が好きだ」
「……っ……ばか……」
ふたりが見つめ合った瞬間、空間が金色に光った。
扉が開く。
炊飯器から蒸気が溢れ、
カナタの体が光に包まれ――
「やっと……カズマくんと、同じ人間になれた……!」
ドラゴンの尻尾が、ふわっと消えた。
肌はあたたかく、鼓動はやさしく、笑顔はちょっと泣きそうだった。
そのとき――空が割れた。
神「よくやった。
だが、試練をクリアした代償として――この時間は消滅する」
「は?」
「カナタが人間になったことで、“ゾンビドラゴン宇宙刑事”だった過去が矛盾になった。
この時間軸は、あと1話で終了する」
「ちょ、おい、それどういう意味だよ!?」