第2話:幽霊部室と時間停止カフェと内臓を喰う猫
剣を抜いた瞬間、世界が――止まった。
時間が。空気が。鼓動が。
「これが、“時空断絶剣(ギガプランS)”の力よ」
ゾンビ彼女が満足そうに言う。
背後の空間が歪んで、空に“読めない言語で構成されたQRコード”が浮かぶ。何その設定。
「いま、0.00001秒の空白に、私たちはいるの」
うん。もう逆に冷静になってきたわ。
世界が止まっても、俺の疑問は止まらない。
「なあ。さっきから黙ってたけど、“幽霊が見える”ってどういうこと?」
俺が指差した先には、体育館の上に浮いてる巨大な黒いモヤ。
顔はない。足もない。声もない。でも、「見える」。そして“視線”を感じる。
「見えてるの? あれ。やっぱりカズマくん、覚醒してるね!」
「怖いって言ってんだよ!! しかもあの幽霊、俺の名前ずっと呟いてんぞ!! なんで知ってんだよ!!」
「たぶん、前世で君が殺した人よ。あと、あれ部室」
「部室!?」
「“心霊研究部”の部室だったの。あれ自体が部室。廃墟化して幽霊化して、いまも時空を彷徨ってるわ。たまに出席取られるよ」
校則どうなってんだこの学校。
「てか、普通に腹減ってきた……」
「じゃあ、“時間停止カフェ”行く?」
*
店に入った瞬間、時間がさらに止まった。
コーヒーが空中に浮いたまま凍りつき、店員は動かず、壁には“お客様の記憶を一つ差し出してください”の文字。
「ここ、記憶を支払いにするカフェなの。“日常系の記憶”なら安いよ」
「じゃあ……小2の時に好きだった“ミカちゃんと紙飛行機飛ばした記憶”で」
「はい、ホットラテと交換成立!」
店員(目がぐるぐる回ってるやつ)がにやりと笑って、俺のこめかみに指を突き刺してきた。
ズボッと音がして、ミカちゃんの笑顔が“ひゅん”って頭から抜けていった。ちょっと寂しい。
「あー……うめえ……なんか、こういう味、懐かしい気がする……」
「それ、“記憶を失ったから懐かしく感じてる”だけね」
「やめろそういうこと言うの!!」
その時、足元から“ゴロゴロ……”って音がした。
見ると――内臓食ってる猫がいた。
骨をしゃぶってる。血まみれ。
よく見たら、その骨……俺のだ。
「ねえカズマ、現実逃避してない? それ、未来の君だよ」
「は???」
「その猫、“未来の時間軸で死亡したカズマくんの亡骸”を食べてるの。未来って、もう“現在”なのよ」
「意味が1ミリもわかんねえ!!!」
*
とりあえず、カフェから逃げ出して校舎(宇宙空間)に戻ったら、
“昼休みのバトルロイヤル”が始まってた。どういう学校だよほんと。
「今日は体育館の上で、魂バトルだよ!最後まで意識を保ってたら勝ち!」
「え、何それ、寝たら負けみたいな感じ?」
「寝たら即死」
生徒たちが、無重力空間で殴り合ってる。
斧を投げるやつ、詩を読み上げて洗脳するやつ、火を吹くやつ、全裸のやつ(謎に強い)。
あちこちで爆発。幽霊も参戦してる。なんで?
その中に――さっきの“女の俺”がいた。
「よぉ、カズマ。お前、俺の人生どうするつもりだよ」
「いや、むしろお前に聞きたい!!」
そして空からアナウンスが流れた。
『次の授業は、地獄巡り体験(実技)です』
マジでこの世界、誰か止めてくれ。