まってるね
「お。おはよー。午前中に会うの久々じゃない?」
「あー、そうかも? つか、もう帰りたいわ」
「あっは。まだ坂のぼっただけじゃん」
「うちの大学は、なんでこんな坂の上にあるかね」
「夏バテ?」
「いや単純に最近、外でてねーわ。あっちーし」
「あーね。じゃあ、知らない?」
「なにが?」
「みんなが噂してるやつ」
「はー、なに?」
「息きれてるのにタバコ吸うんだ」
「別腹っしょ」
「いや、わかんないけど。……大学の裏が山? 森? ……になってるじゃん。そこに戦争の……なんだっけ?」
「防空壕?」
「そうそう。防空壕があって、幽霊が出るみたいな」
「一年の時に先輩から聞かされるやつ? 聞いたことあるけど」
「そこにね、心霊系の配信者が入って、ライブ配信してたんだって」
「へー。こんな田舎の方でも来るんだな。田舎だから来るのか?」
「その配信たまたま見てたうちの学生がいて、噂になってるんだ」
「幽霊でも映った?」
「なにかから、逃げてるみたいだったって」
「なんだよ、なにかって」
「映ってないんだって。悲鳴をあげながら逃げてるっぽい映像だけで、なにから逃げてるのか、映ってないらしい」
「やらせじゃないの?」
「そう言ってる人もいるけど、動画もSNSも更新ないんだって。その後、ぜんぜん」
「気合入ってんね」
「元の動画は消えちゃったらしくて。ね、……気にならない?」
「気になるもなにも、動画消えてるんじゃ、見られないじゃん」
「うん。だからね、実際行ってみた学生のグループがいて」
「あっちーのに頑張るなあ」
「防空壕に行った人たち、帰って来てないんだよ……。
幽霊に捕まっちゃって……帰れなくなっちゃったの……。
身代わりを連れてくるまで帰れない……。
だからね、誰か来てくれるのを待ってる……。
くらーい防空壕の中で、たすけてー、たすけてーって……」
「あ、待った。メッセージ来たわ」
「ちょっと! ……つまんなーい。霜野くんはこういうの興味ないの?」
「辰巳さんこそ、こういうの好きなんだ?」
「夏だし? 大学生だし?」
「いや、わからんけど。……つか、この手の話ってさあ」
「うん?」
「行ったやつが帰ってきてないのに、幽霊に捕まってるとか、身代わりがこないと帰れないとかさ。誰に聞いたんだよって。冷めちゃうんだよな」
「あーね。……ざーんねん。興味もってくれそうな人さがしてるのに」
「肝試しなら別のやつ誘って……って思ってたんだけどさあ」
「どしたの?」
「さっきメッセージきて、防空壕見に行こうぜだって」
「あはは」
「だりー。付き合わされんのかな、これ」
「まってるね」
「ん? なに?」
「まったね、って」
「ああ、うん。それじゃあ、また」
「まってるね」