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異世界なんて嫌いだ  作者: うどんずるずるしたい
第一章 研究所編
7/14

7 響く

◆◆◆◆◆


 時折トイレに行くものの、あれからずっと布団の中に籠っている。食事が運ばれてくる音が四回位聞こえたので、朝昼晩と食事が運ばれてくるのなら1日以上布団に籠っていたことになるだろうか。

 空腹は限界だ。飢餓に近い。ずっと食べ物と水のことばかり考えている。頭がイカれそうな気分だ。このままなんとか死ねたら楽だが、一回やろうとして無理だったので、食事が届く限り餓死はできないんだろう。結局、生きたいと願う脳の奴隷なんだ。俺は。

 だからもっと苦しもう。脳が死ぬべきだと思ってくれるように。マイナスなことを考えて、嫌なことを思い出して。きっとこのままでいれば、またできるはずだ。きっと。

 すると、ドアの開く音が聞こえた。これで通算五回目になる。前の食事を下げて、新しい食事を出す、今回もそのいつもの作業だと思った。だが何か様子が違う。食事を下げたりする音が聞こえない。何かゴソゴソという音は聞こえる。何をしているんだろう。でも別に、なんでもいいかと思った。

 

 

 

 





 













 …ピアノの音が聞こえる。ピアノといっても、電子ピアノの音だ。俺の知らない、何かクラシックの曲を弾いている。素人目に見ても上手だ。ゆったりとしたテンポで正確に旋律を奏でている。馴染みあるピアノという楽器の音を聞いているからなのか、そもそも音楽にそういう力があるのか知らないが、心が少し落ち着いていくのがわかる。それが気持ち悪い。

 すぐ耳を塞いだ。それでもまだ頭に響いて不快だ。でもきっとしばらくすればこの演奏も止まるはずだ。我慢すれば、終わる。







 …








 …











 ……

















 …



















 …




















 …









 


 …全然終わらない。頭がおかしくなりそうだ。

 

 何種類弾いたんだ?数えるのは10数えてからやめてしまったが、3~40種類は弾いたんじゃないか?普通こんなに弾けるもんなのか?面倒くさいなあ…クソ…。


 単純に音楽を楽しめたのなら、俺は幸せだったんだろう。でももう苦しい。これ以上ピアノの音は聞きたくない。…やめてくれと素直に伝えるしかない。

 被っていた布団を押しのけて上半身を起こす。締め切ったカーテンから零れる赤い光を見て今が夕方なことを知った。音の聞こえていた机の方へ視線を移すと、そこでピアノを弾いていた金髪の女性と目が合った。俺におかしなひらがなと漢字のメッセージが書かれた紙を渡してきた人と同じ人だ。白いワイシャツに黒いズボンを履いている。ピアノの音はとっくに聞こえなくなっていて、無表情なその女性の灰色の瞳は射貫かれてしまいそうな程真っすぐとこちらを見つめていた。耐えきれなくて眼を逸らしてしまった。あんなに綺麗な人に見つめられるなんて初めてで、心臓がバクバクしている。

 …あれ?俺…何するために布団から出たんだっけ…?

 そもそもどうやって人と話せばいいんだ?というか何を話せばいいんだっけ。あれ?どうしよう、思考回路がめちゃくちゃになってる。落ち着け落ち着け落ち着け。

 過呼吸になりかけていることに気づいて、あわてて深く息を吸い込む。

 人と話すのってこんなに難しかったかな。

 涙目になりながらそんなことを考えていると、突然視界が塞がる。しかし視界はすぐに開けて、体が包まれていい匂いが………え!?

 驚愕する。金髪の女性に俺はハグをされていた。

 な……あ……。

 声が出ない。体が硬直して、息が止まった。すると金髪の女性は俺から離れて、俺の手を握って外へと引っ張ってきた。促されるままベッドから出て、部屋の外へと歩いていく。


 ハグ…?普通こういうことやる…のか?…文化が違う、のかなあ?  ………いい匂いだったなあ。


 機械的に体は動き続けていつの間にか階段を登っていたのだが、そんなこと気にも留めずハグをされたときのことばかり考えてしまう。著しい知能の低下を、低くなってしまった知能では理解できないでいた。

 

 

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