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異世界なんて嫌いだ  作者: うどんずるずるしたい
第一章 研究所編
6/14

6 憂鬱

 ここはどうしようもない程、異世界という現実なのだということを俺は理解させられた。

 きっと俺が言葉を発したとき、それと似た言語を使う国を割り出したのだろう。それで、その国の言語でコミュニケーションを計ろうとして書いた言葉があの手紙の「らか齊な来は」。ても、それが正しいなら………



 俺と同じ言語を話す人間がこの世界にいないってことになるじゃないか……!


 急に、日本という国を恋しく感じた。血縁にも昔の友達にも会いたいとは思わない。でも、なぜか無性にあの国に戻りたい。ごちゃごちゃとした無数の家の隙間を縫うように通る細い道路を、死にそうなほど蒸し暑くなるあの夏を、誰かと笑っていた日々があったあの町を、もう俺は思い出すことしかできないのか。

 手に持った紙に、いつ溢れたかわからない涙が滲む。感情がぐちゃぐちゃで自分でもよくわからない。ただうまく息ができくて、激しく浅い呼吸を繰り返してしまう。手足が痺れてくる。

 俺の身を案じたのか、白衣の女性は俺の手を握ってベッドの方へと引っ張ってきた。椅子から立ち上がり、引っ張られる手を頼りに辛うじて動く足でなんとかベッドまでたどり着く。寝転んでもまだ具合がよくならない。こんなにも必死に息をしているのに、痺れも苦しさも改善しない。白衣の女性を見ると、俺の目を見ながら何か深呼吸をしている。

 …そうか。こうしろって、言いたいのか。

 所々で息が引っ掛かってうまくできないが、深呼吸をしてみる。すると、少しはマシになってきた。白衣の女性はしばらく、机の前にあった椅子に座って側にいてくれた。


◆◆◆◆◆◆


 あれからずっとベッドの中で目をつぶっている。何時間が経ったのかはわからない。時計を見る気も起きない。一度食事が運ばれて毛布越しに体をつつかれたので、何時間かは経っているんだろう。食欲も湧かないので、その食事には手をつけていない。

 もう何もしたくない。



 あの人の持っていた手紙の文字は、見たことがあるようで絶対に見たことのない言語だった。あんなのは俺の知る世界には存在しない。ベッドや毛布、家電製品なんかは俺の知っているそれと同じだけど…やっぱりここは俺の知る世界じゃない。異世界なんだ。

 毛布の中で自分の顔の前持ってきた掌を見つめる。手の大きさも手相も昔見た時と変わらないままだ。鏡で見てはいないが感覚的にはいつも通りの手足と体。死んで別の体に転生したというわけでもなく、俺自身は俺自身のままこの異世界にやってきたらしい。異世界…転移と言えばいいのだろうか。

 クローゼットの中で意識が途切れた後、何かあったのか?でも意識が途切れて記憶がない以上なにも考えようもない。



 ……もう一度生きたいだなんて、ましてや異世界に生きたいなんて、俺は微塵も思っていなかったのに。なんで俺なんだろう。俺以外できっと適任がいるはずなのに。





 なんで……




 ぐるぐると嫌な方向へと回り続ける思考に呑み込まれながら、俺の意識は眠りの中へと落ちていった。

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