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異世界なんて嫌いだ。  作者: うどんずるずるしたい
第一章 研究所編

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38 捨てきれなかったもの

 ◆◆◆◆◆


 あの親子から離れて、人混みをかき分けながらさっきの列とは反対へ進む。

 どこへ向かうという訳でもないが、ただ誰もいないところに行きたかった。


 流れに逆行するように歩いているからか人と沢山ぶつかる。

 謝られることはほぼなかったし、俺も謝ることはなかった。


 しばらくして、人混みを抜けた。

 


 適当に左の道へと進む。



 その先にはスーパーがあったり、相変わらずマンションが立ち並んでいたりして賑やかな街並みをしていたが、人気が全くなく驚くほど静かで、



 歩いていて心地よかった。



 この冷たさが、無機質さが落ち着く。



 一人は落ち着く。





 …だって




 俺のことを本当に大切に思ってくれている人はもういないんだから―――



 ◆◆◆◆◆


 ムドリ市に来てからだいたい1日がたったと思う。

 その間はずっと薄暗い路地裏に座り込んで、地面を見つめていた。

 喉も乾いたし、お腹もすいている。あと寒い。


 なんだか懐かしいな。この世界に来る前、部屋に引きこもっていた頃を思い出す。


 見上げれば、夜空に一つだけきらめく1等星があった。




 綺麗だ。




 本当に。





 本当に…








 …どうしてこうなったんだろうな。


 少し前までは、なんてことない日常があったんだ。


 それが…突然……。



 …酷い話だ。


 俺が何したって言うんだよ。




 意味が分からない。




 なんで、死んだ後に。

 別の世界にまで来て。


 もっと苦しまないといけないんだろう。






 「…異世界なんて嫌いだ」


 思いがけず吐いた言葉は、暗い闇に消えていった。

 それと共に、ゆっくりと俺も瞼を閉じた。



 ―――コツ、コツと響く足音が聞こえて目を開ける。

 少しづつ近づくその音は無視しようとしても気になって仕方がなかった。

 一人になりたいのに、最悪なノイズだ。


 そして目の前を足音が通り過ぎようとした時、俺の足が蹴飛ばされた。


 「…チッ」


 てめぇ人の足蹴ってんじゃねぇよ。


 目の前を歩いた通行人に心の中で悪態をつきながら、聞こえるように舌打ちをする。


 「…何?今のはお前か…?」


 別に俺がなにをしたところで無視されるものだと思ったが、通行人は意外と驚いているみたいだった。


 はは、いい気味。


 すると突然、顔面が白い光に照らされる。

 眩しくて顔をしかめる。


 「本当に生きている。……私が…死体と見間違えたのか…」


 光に慣れてきたのでちゃんと前を見ると、屈んで俺の顔を覗き込んでいる白髪で初老の男と目が合った。


 「…才能があるな。極めて優れた、()()()としての才能が。…ふむ」


 その男は黒いコートを身にまとっていた。


 「少年、身寄りもないのなら、私のもとで暗殺者として生きてみないか?悪いようにはしない、衣食住は用意してやる。どうだ?」


 …は?勧誘されてんの…俺が…?…マジか。


 「質問があるんですけど…。口ぶりからして、あなたは…暗殺者なんですか」


 「ああ、そうだ」


 …いるんだな。この世界にはそういうやつも。

 なら答えは一つしかないだろ。






 「だったら失せろ。人殺しが」


 選ぶ余地も無い。拒否するだけだ。


 「なるほど…言い方が悪かったみたいだな。では、建前は抜きにしてもう一度聞こうか」


 初老の男の声のトーンが下がる。

 瞬間、首筋に冷たい感触がした。刃物でも突きつけられているんだろう。


 「今ここで死ぬか、人殺しになって生きるか、どちらか選べ」


 本当に俺を殺す気だということはすぐにわかった。

 男の黒く淀んだ瞳と、首筋から垂れる温かな液体が、否応なく死を予感させた。


 流石は裏社会の人間、スカウトの仕方が大胆だ。死ぬか従うかを選ばせるなんて。

 まぁ…普通の人間は死なない方を選ぶだろうが。


 でも、俺を普通の人間だと思っているのなら、それは大きな誤算だ。

 俺にとって死は重くない。天秤の片側に据えるには軽すぎる。


 ゆっくりと刃物が首に食い込んでくる。

 あと少しで大動脈に到達するだろう。



 恐怖は無かった。





 そう、あと少しで俺は―――










 *****


 「メイは…生きて……」


 *****




 


 「殺さないで…!!!」


 その言葉が自分の口から出たと理解するのに数秒かかった。


 「ならどうするんだ?」


 「……!なる…!なります…!暗殺者になるから…!!…だから…殺さないで…」


 「うん、それでいいんだ。よし…まずは止血をしようか」


 暗殺者の男は持っていた黒いトランクから白いガーゼのようなものを取り出すと、それを俺の首に巻いていった。

 手当をされている間、全身から冷や汗が吹き出て震えが止まらなかった。


 怖かった。一体何が怖いのかもよくわからかった。



 ただ、生きていることに安堵していた。





 この先に待つのは、地獄であるとわかっていたのに。―――

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