37 孤独
―――眩しいなと思って目を開ける。
車窓からは日の光が差し込んでいた。もう夜は明けて、太陽が燦々と輝いている。
あれから寝てたのか…俺。
少し背伸びしようとしたが、とてつもない筋肉痛で体が動かせず、断念。
やることもないので窓の外を眺めると、立ち並ぶマンションと道行く人々が見えた。どうやらどこかの街に来ているみたいだ。
そして、その景色が全然動かないことで気づく。
「渋滞してる…」
「お、起きたか!」
運転席の方から男の声が聞こえた。その時に、さっき小さく呟いてしまったことを後悔した。
「…あ、はい」
「いやぁ~、よかったよかった。このまま目覚めないんじゃないかと思ってたから、安心したよ」
「そうですか」
「うん」
助手席に座っている女の人は無言だ。…やっぱり俺のことよく思ってないんだろうな。
「あの…記憶があんまり無くて、その、わからないんですけど、どうして僕はこの車に乗っているんですか?それにあなた達は一体…」
「ああ!そうだね。君からしたら、この状況は少し混乱してしまうよね。ちゃんと説明するよ」
「…はい」
「俺達はただの三人家族だ。今、何やらこの国…デーニアが凄いことになっていてね。…率直に言うと、かなり大規模な戦争が始まってしまったんだ。それで俺達は国外に逃げようと思って、車に乗ってまずは国境まで行こうとしていた。その道中で、倒れている君を見つけて…」
「助けてくれたんですか…?」
「そういうことだね」
「…ありがとうございます。わざわざ…見ず知らずの僕を助けてくれて…」
「いやいや、まだお礼なんていいよ。お礼を貰うのは、君をちゃんと安全な所へ送り届けてからだ」
「…ありがとうございます…すいません」
「謝ることはないさ。まだ目的地に着くまで時間がかかりそうだし、しばらくゆっくりしているといい。きっと疲れているだろう?」
「…はい」
「動くときはまた言うよ」
それからは、ただボーっと窓の外を見ていた。
…喉が渇いたな。
◆◆◆◆◆
―――あそこの学校じゃない?ラジオで言ってたところって」
「みたいだな、路上駐車も増えてきた。俺達もここらへんに止めちゃおう」
…え、学校?目的地って学校なのか?国境に向かうとか言ってた気がしたんだけど。
「さぁ!二人とも、外に出るよー!シートベルトを外してね」
「あ、はい」
とりあえずシートベルトを外して、ドアを開けた。
外に出ると、冷たい空気が肺を満たす。
「少し待っててね、荷物取るから」
「わかりました」
男の人は車のトランクの方へ向かう。
離れるのもよくないかと思い、後ろをついていく。
「あれ、俺のスマホどこいったかな。ちょっと待ってね」
トランクで何やらごそごそとしていた男の人はそう言うと、再び車の運転席へと戻っていった。
俺と、小さい子供と、女の人がその場に残された。
…気まずい。
「ほら、これあげる」
突然女の人に話しかけられて、少し驚きながら振り返る。
「え、あ、いいんですか?」
「いいに決まってるでしょ。…全く、あいつはこういうところ気が利かないんだから」
差し出されたのは水の入ったペットボトルだった。受け取って、すぐにキャップを開けて水を飲む。
500mlは入っていたと思うのだが、気づいた時には中身は空になっていた。
「ええ…あんた、のど乾いてたんなら言いなさいよ…」
「…すいません」
「いやぁ~待たせたね、スマホ見つけたよ。じゃあ行こうか」
リュックを背負った男の人が帰ってきて、俺達4人は学校へと歩き出した。
◆◆◆◆◆
「こちらが緊急避難センター受付の最後尾でーす!!一家族で並んでくださーい!!こちらが最後尾でーす!!」
前の方でプラカードを持った人が叫んでいる。
「あの列がそうか」
「本当に…沢山の人が並んでるわね」
「そうだな、校門からこんなに離れているなんて…気長に待つしかなさそうだ。よし、俺達も並ぼう!」
そうして俺達も列に加わった。…が、なんだかよくわからないな。
「あの、聞きたいことがあるんですけど」
「ん?なんだい?」
「今から何をするんですか?国境を目指すとか…言ってたと思うんですけど、もう国境は超えたんですか?」
「あぁ~、なるほど。確かに伝えてなかったな。…なんて言えばいいかな…ちょっと待ってね」
「はい」
「…そう、俺達は、最初は自分の車で国境を越えようとしていたんだ。でもラジオを聞いていると、どうやらこのムドリ市の学校に緊急避難センターというものができる、ということがわかってね。このセンターを使って国外へ避難した方が安全みたいだから、急遽ここに来た…ってところかな」
「つまり、まだここはデーニアの中ですか」
「そうだね」
「それで、今から緊急避難センターに行って、そこから国外に避難するってことですか」
「うん。それであってる。…まぁ、もしかしたら俺は避難できないかもしれないけど」
「…そんなこといわないでよ。まだわからないじゃない」
「…ごめん」
…ちょっと…そういうのやめてくれよ。…ただでさえここらへんの空気はピリッとしてるのに。
「え、えっと、緊急避難センターでは一体何をするんですか?名前だけじゃ、こう、ピンと来ないというか…」
「あ、ああ。センターでは色々手続きをして、それから…」
「…手続き?」
「ん?どうかした?」
「…いや、手続きって…住所とかそういうものが聞かれるのかなと」
「聞かれると思うけど…でも大丈夫だよ、心配しなくていい。きっとなんとかなるから」
「…わかりました」
なら…いいか。
…いや、本当に大丈夫なのだろうか。
俺は住所どころか戸籍すらあるのか怪しい。そういう話を誰かから聞いたことが無い。
経歴だって異常だ。異世界から来て、シア研究所で暮らしてましただなんて、そんなの意味がわからない。…異世界から来たことについては、研究所で尋問もされたんだ。
俺は明らかに普通じゃない。
一緒にいたらこの先…きっとこの人達に迷惑をかける。
それは…嫌だ。
それに…
*****
「もしものことがあったら、もちろん俺は家族を優先する。―――
*****
……。
◆◆◆◆◆
「…かなり混んできてるな。ヨレンはちゃんといる?」
「ええ、もちろん。私が手を繋いでるわ」
「わかった。なら俺もあの子の手を……あれ…?」
「どうかしたの?」
「…いなくなってる。あの子が…」




