34 ジンクス
―――不意に目を開ける。目を開けて、その時に自分が眠りから覚めたのを遅れて自覚した。どうやらあの後すぐに寝てしまったらしい。
寝起き特有の気怠さの中、身動きが取れなくてバキバキになった体を軽く動かしてほぐす。
隣を確認するとユウはまだ寝ているみたいだった。
この睡眠に劣悪な環境で、よくそんなに熟睡できるものだ。まあ、俺もさっきまで寝てたけど。
…ところで、話は変わるのだが俺はあるジンクスを信じている。
寝ていたのに突然目が覚めると、その後何かが起こるというジンクスだ。
小学生だった頃、車の中で寝てから目が覚めると目的地に着く直前だったり、昼寝をしていて突然目覚めたらその数分後に友達から一緒に遊ぼうという連絡が来たりといった経験から、俺はこのジンクスを信じるようになった。
そして、今回もきっとそのジンクス通りになる。俺が突然目覚めたということは、多分このトラックは今からすぐに目的地へと着くのだ。
耳を澄ませば、飛行機の飛んでいる音が少し聞こえた。
ということは近くに空港でもあるんだろう。もしかすると、もう都市の中に入っているのかも。
やはり、目的地にはもうすぐ着きそうだ
と、思った時。
その異音は突如として現れた。
ヒュウウウという、風の音。
全身に悪寒が走った。
それは普通の風の音に過ぎなかった。別にただの自然現象でも鳴りうるような音だろう。こじつけに過ぎないのかもしれないと、俺だってわかっている。
だが、この音はあまりに酷似している。
俺が聞いた、あの音にあまりに似ている。
隕石の音に似ている…!!!
「ユウ、起きろ!!何か降ってくるかもしれない!!」
「…え!?何!?」
「だから!!!何か降―――」
「全員!!!今掴まっているものに全力で掴まれ!!!!!」
俺の声を遮って、野太い男の声が荷台の中で轟く。
その言葉に疑惑が確信へと変わった。
やはりこのトラックに何かが降ってきている…!!
持っている鉄パイプを握る腕に力をありったけ込めながら、耳に全神経を集中させる。
小さかった風の音は段々と強くなり、瞬間、空が唸るようなゴウッという音が鳴ったのが聞こえた。
空いている片方の手と、パイプを握っている手の方は肩を使って、咄嗟に両耳を塞ぐ。
それとほぼ同時だった。
ドォン!!!
運転席の方から体の芯に響くような衝撃が走る。直後に金属がひしゃげ悲鳴を上げる中、
床が抜けたような、浮遊感に襲われた。
おそらくトラックが急停止したんだろう。時速数十キロの車が突然止まって、それで体が進行方向へと慣性で投げ出されたんだ。
緊急事態にフルスロットルで回転する脳が瞬時に状況を把握し、現状で打つべき最適解を導き出す。
それは、今すぐ両腕で何かに掴まるべきだという判断。
耳を塞ぐのに使用していた片手を急遽動員して両手でパイプを握る。
浮きかけた足を腕力で地面に叩きつけると、体が車体の前方へと投げ出される強烈な力が両腕にかかった。
腕がちぎれそうだった。
だが、その負荷は一瞬だった。死ぬ気で力を込めなんとか耐えきる。
「メイ!大丈夫!?」
「なんとかな…!」
「お前ら早く荷台から出ろ!!!車が爆発するかもしれないぞ!!!」
「…!行くぞ、ユウ!!」
「う、うん!」
ユウと一緒に素早く荷台の外へと飛び出す。背後からは火花が散るようなパチパチとした音が聞こえていた―――
―――荷台の外には山道が続いているみたいだった。左側には木々が生い茂り、正面に道が続いている。
まだ夜は明けていない。加えて周囲に明かりなども存在しないため、あまりの暗さで数メートル先までしか視認ができない。
そんな中、嫌な予感がしてユウの手を取ってすぐさま駆け出す。周りにいる人達も同様に走り出していた。
きっと全員考えていることが同じだったんだ。今すぐこの場から離れて、散り散りに逃げた方がいいと本能で悟った。
が、踏み込んだ足は地面を蹴ることなくその場に固まった。
少し進んだことで見えてしまった。
周囲を大きく取り囲む、ギラギラとした無数の赤い目が。
人間のモノではない。これは…獣の―――
「狼の…魔獣…」
どこからかポツリと呟く声が聞こえた。
魔獣…!さっき聞いた話に出てきたやつだ…。この目が全部、そいつらのだっていうのか…?
この場にいる全員誰一人として微動だにしない。察するに、この量の魔獣相手だと、戦闘に向かない魔法使い十数人だけじゃ分が悪いんだ。
息が詰まるような硬直状態。
「いやぁ~、どうよ!!ドンピシャで直撃だぜ?凄くね?俺」
「凄いけど、結局無駄足だった」
その硬直状態を破ったのは、後方、トラックがあるあたりから聞こえた会話だった。
「マジぃ~?ってことはロゼいないの?」
「多分。私の狼達が一匹も乗っ取られてないし、それに…」
「ここには弱い魔法使いしかいない」




