33 聞き耳
とまぁ、再び目を瞑ったのはいいものの、やはり全然眠れる気配はしなかった。わかっていたことではあるが。
…早く目的地に着いてくれないだろうか。寝不足の不快感には慣れてきたが、今度は暇なのが辛い。
ユウとしりとりでもできれば暇も潰せたが、それも今はできないしな。
あぁ~…
まじで暇…。
「なぁ、俺達って本当に大丈夫なんだよな?」
「ん?なんだ、急に」
前の方からひそひそとした声の会話が聞こえた。口調からして男性二人が話しているみたいだ。
「その、さっき子供たちが色々話してただろ?それを聞いて俺不安になっちゃって」
「あ~、戦争とか、このトラックが襲われないかってこと?」
「そうそう。で、そこらに詳しいお前はそれについてどう思ってるのか教えて欲しいんだ」
「おお、了解」
なにか面白そうな話をしている。
「そうだな…結論から言うなら、お前の不安は全部杞憂だ」
「そうなのか?」
「ああ。大前提として、この戦争はデーニアの勝ち戦だから」
「勝ち戦…」
「軍事力に大きな差があるからな。グラトアニアとデーニアでは、デーニアが明確に一歩先を行っている。魔法使いを含めた戦力でも、含めない戦力でも」
「具体的にはどんくらい差があんの?」
「魔法使いの数で言うなら…グラトアニアは多めに見積もって100~150人程度で、現状デーニアは400~500人ってところで―――」
「もうよくわかったわ。なるほど」
「おお、そうか」
「確かにな、そんなに戦力に差があるならうちの国は負けなそうだ」
「だろ?」
「…でも、ならなんでグラトアニアはうちに戦争を仕掛けたんだ?素人目に見ても、戦争をしたところでグラトアニアは勝てないってわかるのに」
「…戦争しなくても滅びるから、だな」
「は?どういうこと?」
「どうしようもなくなっちまったんだよ。あそこは魔獣の被害が深刻な国なんだ。狼やら熊やらの魔獣が沢山住み着いてる土地で、そいつらからの被害を抑えるために魔法使いがあくせく働く…って国だったんだが」
「おお…」
「ずいぶん前に国の保有するオータライトが底を突きちまったんだ」
「まじか…」
「魔法使いをつくるために必要なオータライトが無くなったということは、もう新しい魔法使いは増やせないってことだ。さぁ、ここからどうなるかは想像がつくよな?」
「…じり貧だな…もうどうしようもない、そんなの」
「そういうことだ。でも、グラトアニアだって結構あがいてたんだ。オータライトを他の国から買おうとしたり、魔法使いを他の国から貸し出して貰ったり、魔獣に対抗する兵器の開発にも力を入れていた…が、万策尽きた、と見るのが一番自然だろうな」
「…」
「魔獣による被害はある日を境にどんどん増えていって、経済もそれに従って疲弊し始めた。国民全員を難民として受け入れてもらうって手も難しいだろうし…こうなってしまったら結局、グラトアニアはもう戦争するしかなかった」
「…全然知らなかったよ、そんなこと」
「無理もないさ、ニュースとかにはならないからな。グラトアニアも弱みを見せたくないからこういうことは隠してるんだ」
「そうか。…でも、ならなんでお前は知ってるんだ?」
「どこかの国の論文で見たんだよ。俺そういうの漁るのが趣味だから」
「さ、流石だな」
「だろ?ま、そういうわけでお前の不安は杞憂なんだ。戦争は俺達が勝つし、トラックに対する襲撃も無い。襲撃するのに必要な魔法使いがグラトアニアには足りてないからな。研究所への襲撃を生き延びた俺達はもう何も心配しなくていいのさ、当分はな」
「…そうか。ありがとう、大分気持ちが楽になったよ」
「そりゃよかった」
「…それにしてもさ」
「ん?」
「…本当にやばかったよな、あの隕石…はは」
「そうだな。魔法の規模が普通じゃなかった。マナのドーピングでもしたんだろう」
「…死ぬかと思ったよ」
「…そうだな」
そうして、男性二人の会話は終わった。
…ふ~ん、意外と今の状況は悪いわけではないんだな。デーニア…つまり俺のいる国が圧倒的に優勢らしい。
ユウが起きたらこの話を伝えておこう。ある程度の安心材料になるはずだ。
というか、グラトアニアの戦争を仕掛けた理由が、魔獣の被害がどうしようもならなくなったから、だったとは…。
魔獣っていう言葉はあまりよくわからないが、語感と口ぶりからしてやばい生物なんだろう。
…やるせない気持ちになるな。別に同情はしないが―――




