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異世界なんて嫌いだ。  作者: うどんずるずるしたい
第一章 研究所編

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32 半端者

 ―――トラックが出発してから…どれくらい経ったのだろうか。多分数分程度だとは思う。

 その間、俺は後ろにある手すり代わりの金属パイプを握りながら目を瞑っていたのだが、全然眠ることができなかった。

 車は結構揺れるし、その揺れで今座っている腰掛けから落ちないためにずっと金属パイプを握らなくてはいけない。その二つが俺の眠りを妨げる大きな障害となっていたためだ。

 全く持って最悪な気分だ。こんなにも俺は疲れているのにまだ寝れないって…拷問か何かか?これは…。


 「…ねえねえ、メイ。メイは好きな食べ物ってある?」


 「…んぇ?なんて?」


 突然ユウに話しかけられた。


 「メイの好きな食べ物ってなに?」


 「す、好きな食べ物…?」


 な、なぜ今それを聞く…?


 「え、あぁ…な、無いかも。好きな食べ物」


 「無いの…!?なにその、つまんない答え…」


 「つ、つまんないって…正直に答えただけじゃん」


 「いや…だって、無いってなに…?」


 「そもそも食事が好きじゃないんだよ。食べるという行為が好きじゃないの」


 「そうなんだ。へ~、メイって不思議だね」


 「…はいはい不思議ですね」


 「なんで不貞腐れてるの?あ!僕はね、ハンバーグが好き!」


 …テンション高いな。


 「じゃあさじゃあさ、好きな天気は?」


 まだ続けるのか…。


 「あ~、ユウ。言いにくいんだけどさ、ちょっと静かにしとこうよ。あんまりその、雰囲気的によくないっていうか…」


 …ここにいるのは俺とユウだけじゃない。他にも十数人いる。

 そして、きっとみんな疲れてる。だから他人の会話とか聞きたくなんてないはずだ。静かに心を落ち着かせたいはず。

 研究所であんなこともあったんだし…。


 「…そうだね。ごめん」


 なにかひと悶着あるかと思ったが、ユウは案外すぐに口を閉じた。

 俺の濁した言葉で納得したってことは、ユウ自身多少なりとも自覚はあったのだろうか。

 こいつも結構空気読めるタイプだしな。






 …それなのに、俺と話したがっていたのか。

 

 少しユウのことが心配になった。だから、閉じていた目を開けてユウの顔をちらりと見る。

 しばらく光を見なかったおかげか暗闇に目が良く慣れていて、ユウの不安気に俯いた顔がはっきりと見えた。

 そして、俯いた視線の先では小さな手が小刻みに震えていた。

 

 …。


 「その、俺もごめん、ユウも辛かったんだな」


 「…何が?」


 「何って…」


 開いている片方の手で、ユウの膝に乗った震える小さな手を握る。


 「これだよ」


 「…バレるものなんだ…寝てるから気づかないと思ったんだけど」


 「見立てが甘いな。この程度のことに俺が気づかない訳ないじゃん」


 「……」


 ユウが黙り込む。


 「…何か、不安なことがあるなら聞くよ?」


 「…言いたくない」


 「えぇ、なんでよ?」


 「…もうメイに頼りたくないから」


 「ま、まじ?」


 「い、いや!悪い意味じゃなくて…ただ…メイにはもう、人に優しくする余裕なんてないんじゃないかなって…」


 「え、あぁ、それは良かったけど…よ…余裕がない…?」


 「うわぁ~、なんでピンと来ないかなぁ…」

 

 「いやだって、余裕はあるよ?死ぬほど眠いくらいでさ…。あ、そうか、確かに死ぬほど眠いわ…余裕がないってそういうことね」


 「…違うよ…全然違う」


 「違う?え~…?」


 「……」


 再びユウが口を噤んだ。今回は何か考え込んでいるようなそんな様子だった。


 「…まあ、何?そんなに俺を頼りたくないのなら、頼んなくていいけど…。でも、何に不安になってたかは言ってくれよ。気になるから」


 「…何それ。ふふ…意味わかんないよ」


 ユウが少しだけ笑った。

 ということは、俺のこと嫌いになった訳じゃない…はず。ならなんで突き放すような真似してるんだろうか。よくわからない。


 「意味わかんないのはそっちだっての!俺が話聞きたいって言ってるんだから話聞かせてよ」


 「うわぁ~……そういう言い回しするんだ。…はぁ~、メイはずるいな…」


 「えぇ~?」


 何が!?ずるいのか…?俺は…。


 「…そこまでメイが言うなら、じゃあ話すよ」


 「おお、聞かせて」


 「その…本当にこのトラックが襲われないのかなって、不安だったんだ」


 「あぁ~」


 なんだ、不安に思ってたのってその程度のことだったか。


 「それなら大丈夫でしょ。なんか軍服のやつが言ってたじゃん、諸々を鑑みてなんとかだから襲われないよみたいな感じのこと。だからきっと大丈夫だって」


 「…それが、僕には信じられない。大雑把にしか教えてくれなかったじゃんあの人」


 「時間が無かったって言ってたし仕方なかったんじゃないの?」


 「かもしれないけど…でも…」


 心配性だなぁ…ユウは。もうトラックに乗っちゃったんだから、心配したって仕方ないと思うんだけどな。


 「…そもそもさ、無事に後方?の都市に着いたとして、僕は何をさせられるの…?戦争の支援とか言ってたけど、絶対ろくなものじゃないよ……そんなの」


 「……あぁ~、なるほどね」


 ここまで聞いて少しピンときた。ユウの心がざわめいている本当の原因が。

 ユウにもあれが足りていないのだ。


 「一回寝よう。ユウ」


 睡眠である。


 「え…?」


 「冗談でもなく、一回寝た方がいいよ」


 「えぇ…?」


 「今ユウは不安が不安を呼ぶそのスパイラルな状態になってる。けどこれは寝ればある程度マシになると思う」


 「そ、そうかな?」


 「そうだよ。んで起きたらその都市とやらに着いていて、俺とユウで都市の中を一緒に観光でもするわけさ。なんかワクワクしてこない?」


 「え…観光って…できるの?」


 「…さあ?」


 「…えぇ」


 「ただ、できるってことにしとこうよ。楽しいこと考えといた方がいいからさ。…それか何も考えないか。とにかく苦しいことばっかり考えない方がいいでしょ」

 

 「…でも、それじゃ何も解決しないよ…」


 「…?何か解決しなくちゃいけないの?」


 「…それは…わかんない…でも、寝た方がいいのは正しいかも。ちょっと僕寝るよ」


 「うん、そうしな」


 震えが止まっていたので握っていたユウの手を離す。

 ユウの瞼が閉じ切ったのを見てから、俺も目を瞑った。

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