30 避難
―――数分後
「寝るか」
「うん」
あれから何か会話をすることもなくボーっとしていたが、すさまじい眠気に襲われたので俺達は寝ることにした。
寝袋に入り目を閉じる。
そのあまりの心地よさに、自分の心身がどれだけ疲弊していたかを思い知った。
これは…もう二秒で寝れてしま―――
『全員起床!!今すぐ外に出ろ!!!』
メガホンを通したその大声にたまらず飛び起きる。
「なになになに!?」
またなんか起きたのか!?結構俺寝たいんだけど…!?
呆気に取られていると、テントの外の方がどんどん騒がしくなっていくのがわかる。みんな指示に従ってテントに外へと出ているみたいだ。
「…これ、寝てちゃだめ…?」
「駄目に決まってるじゃん。ほら、メイも立って」
「…そんなぁ」
観念して立ちあがり、テントの外へと出る。広場には同じくテントから出たであろう人間が大勢いた。
『これで全員だな!!お前らは今から避難をする!!俺についてこい!!』
再びバカでかい怒鳴り声が飛んでくる。音のした方を見れば、軍服を着た大男がメガホンを持って立っていた。
「こ、こわ…なんだあいつ…軍人?」
「多分治安部隊の人じゃないかな。ほら、いつも研究所の見回りしてる人達いるじゃん。軍服着てる人」
「…う~ん、言われてみればいたような…いなかったような…。正直あんまり覚えてない」
「そう?じゃあ、オータライトを注射するときには見なかった?僕の時はああいう人が周りにいたんだけど」
「あぁ~…俺、やったことない。注射とか」
「え!?なんで!?」
「あ、あいつ動いた。ちょっとここからは歩きながら話そう」
「う、うん」
ひとまず会話を中断し、動き出した大男の後ろに続く人達の列に加わる。
「え~と、何の話してたっけ」
「メイは注射受けたことないのっていう話」
「あ~それね。そう、ないんだよね、注射受けたこと」
「…メイって魔法使いじゃないの…?…あ、もしかして原初の魔法使い…だったり?」
「いや?魔法使いでも原初の魔法使いでもない。ただの魔法が使えない一般人だよ、俺は」
「なら…なんでここに…」
「ちょっと特殊な事情があってさ」
「事情?」
「あ~、その、嘘みたいな話なんだけど…異世界から来たんだよね、俺」
「……い、異世界?……へ?」
「はは、そりゃそうなるわな。…だからあんまり言いたくなかったんだけど」
俺だってもしそんなこと言われても信じられないと思うだろうし。
「まじで本当の話なんだけど、別に信じられないなら信じなくてもいいよ」
「いやいや!メイがそう言うなら僕…信じ…るよ?」
思いっきり疑ってるじゃねえか。
「まあ、あれだよ。つまるところ、俺は魔法を使えないですよって話だよ」
「あ、うん」
その言葉を最後に、ユウは少し下を向いてなにやら考え事を始めた。
会話も無くなったので、薄暗いコンクリートの廊下をぼんやりと歩く。
しばらく歩いたところで、ユウが口を開いた。
「…なんか、納得した」
「…?何が?」
「色々」
「ほう?」
「メイが僕の魔法であんなに喜んでたのとか、ここの人達と比べて体が弱いのとか…それは、メイが魔法使いじゃなかったからなんだなって」
「あ~そゆこと」
ふ~ん。
…ユウって俺のこと結構不思議に思ってたんだな。
確かに、自分の事情を知ってるロゼ、ジャベリーとしか基本関わり持ってこなかったせいであんまり気にしたことは無かったが、俺は結構この研究所では珍しいタイプの人間なのかもしれない。
色々な意味で。
そんなことを考えてから、ふと疑問に思う。
「俺って体弱いの?」
「走るの遅かったじゃん。…腕もケガしてたし」
「ふ~ん…ってことは、魔法使いなら基本みんなユウぐらい早く走れるし、腕持って投げ飛ばされても平気なんだ?」
「…うん」
「へ~、魔法使いってすごいなぁ…」
「そうかもね」
その時、前を歩いていた人の動きが止まったので俺達も立ち止まる。目的地についたのだろうか。
「でも、魔法使いよりメイの方がすごいよ」
「え、急に褒めるじゃん」
「だって、魔法使いじゃないのに…メイは―――」
『お前達魔法使いを、これより戦線から離れた後方の都市へ移送する!!全員、第一車両格納庫へ速やかに移動しろ!!』
ユウの声が治安部隊の男の人の声でかき消される。続きの言葉は全く聞こえなかった。
「ごめん、さっきのもう一回言ってくれない?」
「…なんか恥ずかしいから嫌だ」
「え~!!なんだよそれ!ケチ!」
そして、ひと悶着しながらも俺達は第一車両格納庫とやらへと移動した。―――




