28 傷跡
そして椅子から立ち上がり、逃げるように部屋から出た。
扉を抜けた先の左には、俺をここまで連れてきたあの青年がまだ立っていた。
「お、お疲れ様メイ君。帰り道は――
「わかりますよ。真っすぐ歩くだけですよね?一人で帰れます」
早口でそう言って、青年を置いて長い廊下を一人で歩く。
下を向いて、無機質な床だけ見ていた。誰の顔も見たくなかった。
誰にも顔を見られたくなかった。
…もう何も考えたくなかった。
……何も、考えたくなかったのに。
*****
「あると言ったら、あなたはどうするの?」
*****
あの時の言葉が頭の中で何度も響く。
何度も
何度も何度も何度も何度も何度も何度も
…偽物だったのだろうか。…俺が、ロゼに感じていた感情は全て操られたものだったのだろうか。
喜怒哀楽すら全て……ロゼと一緒にいるときのあの…安らぎのような感覚すら全て。
「…なんで」
でも、偽物でも良かったんだ。操り人形でも良かった。
…ただそれなら
それなら最後まで騙してよ…!
「…なんで」
俺は本当のことを話して欲しいなんて言ってないし、思っちゃいない…!
嘘でいいから…
俺に、魔法は使っていなかった、って
言ってくれればそれでよかったのに……!!
そう言ってくれれば…!戦争でも、地獄でも…!どこまでだって行ったのに…!!
「なんで…!!!」
なんで……
気を紛らわせるように歩き続けた。それでも、あふれる涙が止まることは無かった―――
―――「ただいま」
そう言いながら、元居た簡易テントに入る。
中には寝袋に入って横になっているユウがいた。
…そういえば今の時刻はもう午前三時くらいか。いつもならとっくに寝てる…というか就寝中の時間だ。俺も寝よう。…今日は疲れた。
ユウを起こさないように、できるだけ静かに寝袋を広げる。
「…ん~?メイぃ…?…帰ってきたんだ」
「あぁ、ごめん。起こしちゃった?」
頑張りはしたのだが、生地の擦れる音が意外と大きくなってしまったらしい。
「”別に”気にしてな…え、メイ、その顔どうしたの?」
「…なんかおかしい?」
「目が赤いし、なんか腫れてるじゃん!」
「…大きい声出すな。みんな寝てるかもしれないから」
「ご、ごめん。…えっと、その、メイ…泣いてたの?」
「…まぁ…うん…嫌なことがあってさ、それで…ちょっと」
「…そ…っか。…メイも、泣くんだね」
「なんだよそれ。人間なんだから泣くこともあるでしょ」
「あんまり想像つかなかったからさ、メイの泣いてるとこ。なんでかわからないんだけど」
会話はそこで途切れて、俺は準備した寝袋の上に座る。
横でガサガサと音が聞こえて、視線をそこへ動かすとユウが寝袋から出てきているのが見えた。
「寝ないでいいの?」
「誰かさんのせいで眠れなくなっちゃった」
「…ごめん」
「怒ってないよ?」
すると、寝袋から出てきたユウが俺も耳元にまでずいっと近づいてくる。
「その嫌な記憶、忘れさせてあげようか?」
息が耳にかかる。
「…!?ど、ど、ど、どういうこと…!?」
「ちょっと、静かに静かに…」
「あ、ごめ、え、は?」
「そ、そんなに慌てないでよ…。確かによくないことかもしれないけど…」
「え、いや、あの、い、一体…な、何をするつもりなんですか、あなたは」
「何って…魔法を使うんだよ」
…あ、確かに。




