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異世界なんて嫌いだ  作者: うどんずるずるしたい
第一章 研究所編

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25 綻び

 ロゼの額に当たる直前で槍の切っ先が止まっている。そして微動だにしない細身の人間へと、ロゼは手をかざしていた。

 すると、ゆっくりと槍の切っ先が地面に向けられる。そして、ロゼと何やら少し話をした後、細身の人間はどこかへ走り去っていった。

 

 あまりに不可解な光景だった。

 しかし説明はつく。おそらくロゼが感情を操る魔法を使ったのだろう。だからロゼを殺そうとしたあの細身の人間は槍を止めたし、あっさりとどこかへ消えた。敵意を無くして好意や尊敬の感情を高めたり、もしくは圧倒的な恐怖を与えたりすれば、そういうことをさせるのは造作もないはずだ。

 

 「なんだ。ロゼも別に魔法使えたんだ」


 心配する必要無かったな。…まあ、なんにせよロゼが生きててよか―――


 「…使えない…はずだ」


 ジャベリーが呟く。


 「まだ…あいつは魔法が使えないはずだ…」


 その声には、動揺がにじんでいた。


 え…?それって「ジャベリーさん!!」


 言葉を吐き出す直前で、爽やかな青年がジャベリーのもとへ走ってくる。


 「ジャベリーさんは周囲の警戒に当たってください!!この子達は俺がシェルターに連れていきますから!」


 「…あ、ああ、わかった。…任せたよ」


 「はい!…じゃあ二人とも!俺についてきてね!!」


 青年に手を引かれ、強制的にジャベリーと離されてしまう。聞きたいことも聞けないまま、俺とユウは階段状の入り口からシェルターの中へと入っていった。


 ◆◆潜伏拠点(位置不明)◆◆


 「次の指示が来るまで待機だ」


 「了解」


 「了解しました」


 黒いマントを羽織った三人が、埃を被った木製の椅子に座る。小さなランプだけが閉ざされたこの空間を微かに照らす。


 「…隊長、なぜ隊長はロゼの襲撃に反対したんですか?」


 張り詰めた沈黙が続いた後、一人が口を開いた。


 「…お前もか。…いや、そういえばお前はまだ新人だったな」


 「…すいません。どうしてもわからなくて」


 「理由は主に二つだ。まず魔法使い(ソーサラー)が多すぎる。いくら俺達が場慣れしていると言っても、あの大人数相手はリスクが高い。次に相手が俺の落とした隕石を止めるために使っている、ペンダントの古代遺物(アーティファクト)の効果がわからない。俺の隕石を止めれるくらいだ、あれは相当強力な代物だろう。隕石どころか、もしかすると人間の動きさえ止めてしまえるのかもしれない。そこにわざわざ突っ込むのもリスクが高い」


 「な、なるほど。だからロゼが魔法を使えないと聞いても撤退を選んだんですね」


 「ああ、そうだ。そもそも、ロゼが魔法を使えないというのも怪しいがな」


 「確かに。ロゼの着けていたチョーカーが、本当に瞳から魔法が使えなくなる古代遺物(アーティファクト)かどうかわからないですもんね」


 「いや、そういう意味ではない」


 「…どういうことですか?」


 「あのチョーカーは本物だ。グラトアニアにも同じものがあるが、それと見た目が一致していた」


 「え…?なら、ロゼは魔法が使えないのでは?」


 「()()()()()魔法が使えないのなら、な。俺が疑っているのはそこだ」


 「…瞳以外の部位からもロゼは魔法が使えると言いたいんですか?」


 「ああ。俺はそう思っている」


 「しかし、主要六か国の審査によって、ロゼは瞳にしか魔力孔が無いと診断されたんですよ?その全ての国が共謀して嘘をついているとでも言うのですか」


 「いや、違う。逆だ」


 「…?」


 「ロゼが騙したんだ。その全ての国をな」


 「だ、騙した?どうやってですか?」


 「…順を追って話そう。まず、”体外への魔法の行使は、魔力孔からしかできない”こと。これは理解しているな?」


 「もちろんです」


 「この原則を理由に、瞳にしか魔力孔が無いとされているロゼは瞳からしか魔法が使えない、とされているが…。そもそも、魔力孔の有無はどうやって判断しているのか知っているか?」


 「…知らないです」


 「なら説明するが、魔力孔の有無は人体のどの部位からマナが排出されているかで判断するんだ」


 「なるほど。魔力孔は人体に入ってきたマナを排出する器官だから、それを利用するんですね」


 「両手からマナが排出されているなら両手に魔力孔がある、両足からなら両足に、両目からなら両目に。といった風に判断するが…技術的に仕方ないとはいえ、これは完璧とは言えない方法だ」


 「…そうですか?自分には妥当なように思えるのですが…」


 「魔力孔を完全に閉じれる人間がいたらどうする?」


 「…」


 「魔力孔を完全に閉じて、そこから排出されるマナを0にすることのできる人間がいたらどうなる?」


 「…もしそんな人間がいたとしたら、そいつは、魔力孔があるのに…あたかも魔力孔が無いかのように偽装ができます」


 「ロゼが世界を騙した、とはこういうことだ。俺は、ロゼがその魔力孔の偽装をしたと思っている」


 「診断される際、瞳以外の魔力孔を閉じていたと…?信じられない。…だいたい、魔力孔を完全に閉じるなんて芸当は可能なんですか?自分には到底できそうにもないのですが」


 「残念ながら俺にもできない。全ての魔法使い(ソーサラー)がそうだろう」


 「なら…」


 「だがロゼは原初の魔法使い(プライマルソーサラー)だ。俺達とは格が違う」


 「しかし!ロゼが魔力孔の診断を受けたのは本人が六歳の頃ですよ?隊長の言い分が正しいなら、その時からすでに魔力孔を完全に閉じることができていたということになります!わずか六歳でここまで魔力孔の扱いに長けているなんて…そんなことがあり得るのでしょうか?…それに、普通こんなこと思いついてもやりますか?」


 「あの女は普通じゃない。六歳のときに両親を殺そうとしたという情報もある」


 「それ…関係ありますかね?」


 「無いとも言い切れんだろう。それに、魔力孔が瞳にしかないというのも可笑しい。魔力孔は基本的に掌には存在する。瞳や足に通っている人間でさえ、例外なく掌にも魔力孔がある。可能性が無いとは言わないが、瞳にしか魔力孔がない人間が生まれる確率は限りなく低い。魔法使いの数が少ないとはいえ、前例もないほどだ。ましてやそれが原初の魔法使い(プライマルソーサラー)であるなど…」


 「…それは、そうですけど…」


 「信じられないか?…そうだな。実際、今まで言ったことは全て推察の域を出ない。信じるか信じないかは好きに選ぶといい。だが一つだけ忠告しておこう」


 「…はい」


 「この世界で最も恐ろしいのは、得体の知れない魔法使い(ソーサラー)だ」


 

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