24 従属
―――ごめん。もう大丈夫。行こう」
「本当に…?」
「本当だよ。多分さっきまで色々あったから、その反動がちょっと来ただけだと思う」
「メイがそう言うのなら、信じるけど…」
「ジャベリー、早く歩いて」
「…わかった。でも、もしまた何かあったらすぐに言ってね?」
「はいはい」
そうして立ち止まっていた俺たち三人はシェルターへと向かう。気まずい空気が流れているせいか会話は無い。だが別に悪い気はしなかった。左手に握られたユウの掌の温かさがあったから。
歩いている傍らに、暇なのであたりを見回した。周囲には誰もいない。前方には短めの行列をなして人が並んでいる。多分この行列の先にシェルターの入り口があるんだろう。
ふと空を見上げれば、そこには空を飛んでいる人間が数人いた。多分魔法使いだろう。そいつらは空中に停止した隕石を両手で押し出し、下に人がいない落下しても安全な場所に隕石を移動させていた。
空が飛べる魔法使いもいるんだな。いや、もしかすると古代遺物を使っているのか?…まあどっちでもいいか。
先程確認した行列の最後尾に並ぶ。またもや周囲を観察していると、かなり遠くの方でロゼを発見した。周囲を護衛するように三人の男が固めているので、あまりその姿ははっきりとは見えない。
なにやら目を瞑り、首にかけたペンダントを両手で握っている。そして祈るようにその手を額の前へと持ち上げていた。
あのペンダントが隕石を止めている古代遺物…星の揺り籠なのだろう。
原初の魔法使いと呼ばれる者が、祈るようにして古代遺物を使用するその様があまりにも美しくて、俺はしばらくロゼから目を離すことができなかった。
見惚れていたんだと思う。
―――その瞬間だった。
音もなく、細い何かがロゼのすぐ近くを横切る。
それはロゼの護衛をしていた男の頭部に当たり、男は崩れ落ちるように倒れた。
吹き出る赤色に視線を奪われ、何かの正体が判明する。
頭部に突き刺さるあれは……槍……。
「敵襲!!敵襲ー!!」
どこからともなく怒号が響く。その声が、状況を掴めないままでいた俺を我に返らせた。
「ジャベリー!!早くロゼのところへ行って!!」
「どうして!?まさかロゼの方に攻撃があったの!?」
「そう!!護衛みたいな人が一人死んだ!!多分ロゼが狙われてる!!だから早く!!」
「いや…ごめん…そうだとしても、俺はここを離れられない…!」
「なんで!?」
「ロゼ以外も殺す気かもしれないからだ!特に、メイ君が死ぬのはまずい!」
「はぁ!?理由は!?」
「あとでわかる!とにかく俺はここに残る!!」
そう言い切るジャベリーの目は真剣だ。
だからこそ歯がゆい。俺を守ってくれるのは嬉しいが、俺にとって唯一戦力として信頼できる人間がロゼのもとへ向かわないのは怖い。残った護衛二人に、ロゼを守れるのかが不安でならない。
「メイ…僕達大丈夫かな…?」
「大丈夫っていいたいけど…でも、もう正直ここからは何が起こるか予測がつかない…」
「こ、殺される…?僕ら…」
「いや、少なくともお前は死んでも守る」
不安と焦燥、緊張が高まる中、視界の端にそいつは姿を現した。
黒いマントを羽織り、フードを深くかぶった細身の人間。片手に槍を持ち、常軌を逸した速度で一直線にロゼへと迫る。
迎え撃つように護衛の男の一人が魔法を使う構えを取る。
すると直後、細身の人間は走りながら足を踏み込み、腕をしならせながら槍を放つ。弾丸のように放たれたその槍はいともたやすく構えを取った護衛の男の胸を貫いた。
細身の人間は槍を投げた反動を前へと流すように走ると、先程までよりも更に速度を上げる。その右手に、淡い光が瞬いたかと思うと、次の瞬間には槍が握られていた。
…やめろ。
最後に残った護衛の男は一瞬呆然としていた。あまりにもあっさりと二人死んだからだろう。
…やめてくれ。
そしてその永遠に思えるような一瞬で護衛の男を横切り、細身の人間はロゼの目の前にまで到達した。
…嫌だ。
細身の人間は流れるように槍を構え、その切っ先をロゼに―――
「やめろ…!!!」
反射的に下に目を逸らした。この先の光景を見ることができなかった。
このままずっと、もう何も見ないでいたかった。
しかし、しばらくしてあることに気づく。
…雰囲気がおかしい。ジャベリーも、ユウも、それ以外の人間も一言もしゃべらない。どうしたんだ?
ジャベリーの顔を覗き見る。怪訝な表情をしていた。
意味が分からなかった。一体あの後何が起きればその表情になるのだろう。
その理由が知りたくて、俺もロゼの方を見た。
ロゼの額に当たる直前で槍の切っ先が止まっている。そして微動だにしない細身の人間へと、ロゼは手をかざしていた。




