23 古代遺物
◆◆林(研究所周辺)◆◆
―――はぁッ、はぁッ…」
「大丈夫ですか、隊長」
黒いマントを羽織った四人の人間が木々の中に集まっている。マントについたフードを深くかぶり、その顔色をうかがうことはできない。
周辺には注射器が散乱し、四人のうちの一人が息を乱しながら片膝をついて地面を見つめていた。
「なんとか…な。死ぬ覚悟をしていたが、意外と人間の体は頑丈なものだ。まだ生きていられるとは」
「しかし…その様子では魔力孔はもう…」
「ああ、右手は使い物にならんな。だが左は残っている。十分だろう」
乱れた息を整えた黒いマントの一人が立ち上がる。
「行動は終わった。撤退する」
そうして彼らはその場から去ろうとした。…一人を除いて。
「冗談でしょ?本気で言ってます?隊長」
先程まで黙っていたフードを被った細身の者が口を開く。
「意見があるなら聞こう。だが手短にしろ」
「俺なら今、ロゼを殺せます。そして今がその最大のチャンスです。撤退より俺の支援をするべきだ」
「なぜお前はロゼを殺れると確信している?」
「あの女の着けているチョーカーですよ。昔見たことがある。あれは目から魔法が使えなくなる古代遺物です」
「それで?」
「それで…って。資料に公開されている通り、ロゼは瞳にしか魔力孔が無いんですよ?瞳からしか魔法が使えない。つまりあれを着けてるロゼは今魔法が使えない。その”今”が原初の魔法使いを殺せるまたとないチャンスでしょう?」
「…話にならんな。撤退する」
「撤退はありえない!!今ロゼの首を取ればどれだけ戦争が優位になるかわからないのか!?」
「黙れ。二度は言わせるな、撤退する」
「…そうか。じゃ、あんたらはさっさと逃げ帰れよ。俺はロゼを殺しに行く」
「勝手にしろ。行くぞ」
すると黒いマントを羽織った三人は瞬く間に去り、一人だけがその場に残された。
「…グラトアニアで最高峰の魔法使いが、マナ補給剤を使ってようやくつくり出せた隙なんだぞ……無駄にしてたまるか…」
その目に静かな殺意を宿しながら、やがて最後の一人も暗闇に溶けるように消えていった。
◆◆主人公◆◆
「え…これ魔法で止めてるの…?」
空中で停止した隕石を見て呟く。
これをロゼがやってるの?ロゼって感情を操る魔法以外も使えたっけ…というかそもそも魔法使えなかった気も…。
「魔法じゃなくて古代遺物を使って止めてるよ」
「なにそれ!?」
古代遺物!?なんだそれは!?響きが…かっこいい!!
「あ、メイ君知らないの?」
「知らない!!なんなの古代遺物って!!」
「いつ誰が創ったのかわからない、魔法みたいな力を持ったモノのこと…かな?」
「おお…!!」
「さらに言うと、現代の技術では絶対に作れないモノでもある」
「か…かっこいい…!」
「そうでしょ~?俺も最初は憧れてたんだけどね…」
「え、何その不穏な感じ」
「これがあんまりいいもんでもないんだよ。大体の古代遺物は使うとデメリットがあるんだよね。それもえげつないのが」
「まじ…?」
「例えば、はめると手から雷が出せるグローブの古代遺物は使うたびにグローブにはめた手が壊死していったり、頭に巻き付けると透明人間になれるバンダナの古代遺物は20秒以上使ったら死んだりとかさ…」
「ちょっと待って、死ぬ!?死ぬの!?バンダナのやつ!?」
「うん、実際それで何十人も死んだらしいよ」
「な…えぇ…」
デメリット重すぎだろ。
「デメリットが全くないやつもちょっとはあるんだよ?なんでも切れる剣の古代遺物とか、絶対に破壊されない盾の古代遺物とか。でもこういうやつって希少すぎて基本使わせて貰えないんだよね」
「…なんか故事成語ができそうだね」
「…?なにそれ?」
やべ、この世界にはない言葉を使ってしまった。気まずい。話題を変えないと。
「というかさ!ロゼもその古代遺物を今使ってるんだよね?」
「え?うん」
「大丈夫なの?なんか今の話を聞く限りだとロゼが心配になってくるんだけど」
「…大丈夫ではあるけど、一歩間違えるとやばいね」
「やばいの!?」
じゃあ即刻辞めさせてほしいんだけど…!!
「一体どういう古代遺物を使ってるの!?」
「う~ん…俺も詳しくは知らないんだけど、こう、範囲内の物体の動きを停止させるみたいな…。そしてその範囲は込めるマナの量によって変わるみたいな…?」
「そっちじゃない!!僕が聞きたいのはデメリットの方!!」
「おっと、ごめんごめん。デメリットは確か…使いすぎると記憶が無くなる…みたいな感じだったかな…。人によって変わるんだけど、20~40分を超えて続けて使用するとごそっと記憶が消える…って話を聞いた気がする」
「あ~。…なんかそれなら大丈夫そうだね」
あんまりデメリットきつくないじゃん。…いや、実用範囲内って感じか。
「でしょ?この古代遺物…名前が星の揺り籠って言うんだけど、国が危険性の低いものって認めてるやつなんだよね。だから安心していいと思うよ」
「へぇ~」
古代遺物って国が認めたりするんだ。かっけえ…。
「よし!じゃあ立ち話もここら辺にして、そろそろ避難しようか!」
「あ、うん」
そういえば今って結構やばい状況だったな。…無駄話をしてしまった。
「でもジャベリー、どこに避難するの?」
「どこってそりゃ地下シェルターでしょ」
「いけるの?ユウと逃げてた時はハッチが開けれなかったんだけど…」
「あ~、揺れがあったからね~。でもあの程度なら力の強い魔法使いは余裕で開けれちゃうよ」
「そうなんだ…」
「そうそう。じゃあ、シェルターの入り口に行こうか!ここの入り口は他とは違う特殊な作りになってるから楽しみにしててね?」
ちょっとずつジャベリーのテンションがいつものに戻ってきているな。やかましくなってきた。
…てか、移動するなら俺もやらないといけないことがあるな。抱き着いてるこのくっつき虫をなんとかしないと。
「ユウ、そろそろ離れてくれ。歩くから」
「…嫌だ」
「え~?この状態じゃ歩きづらいよ。手とかなら繋いであげるからさ、離れてくれない?」
「…わかった」
するとあっさりとユウが離れる。もっと駄々をこねるものかと思っていたので拍子抜けした気分だ。
「じゃあ出発しようか!!ついてきてね~?」
俺達のやり取りが終わったのを見て、意気揚々とジャベリーが歩き始めた。その後ろに俺とユウが続く。
「メイ!手!」
「え?あぁ、ごめんごめん」
歩き始めて少ししてそんなことを言われ、ユウと手を繋ぐ。
「メイの手冷たいね」
「そうかなぁ?ユウの手があったかいだけだと思うけど」
「氷みたいだよ。氷」
「そっか。確かに人間も大半は水分でできてるし、冷たければ氷みたいなもんだよな」
そして俺たちは他愛のない会話をしながらしばらく歩いた。
―――あ、そうだ!」
あれから少しして。ジャベリーが急に足を止める。俺達も数歩歩いてから立ち止まった。
「どうしたの?ジャベリー」
「メイ君に伝えそびれてたことがあった!」
「何?」
「メイ君が生きててよかったよ」
…?
「…それだけ?」
「うん!それだけ」
…足止めてまで言うことかよ、それ。
「僕も!僕もメイが生きててよかった!!」
ユウまで参加してるし。
返答に困る。こういう時なんて言うのが正解なんだろう。ありがとう、とでも言えばいいのかな。もしくはジャベリーとユウも生きてて良かったよ、とか?
よくわからないけど、とりあえず、ありがとうとでも言っておくか。
「………」
あれ、何も言えてない。もう一回言うか。
「……」
…言葉が、出ない…え、なんでだ?喉がうまく動かせない…
というか目頭も熱い…
え、俺、泣いてる?
咄嗟に目じりを拭う。拭った手に付着した水分を見てようやく、自分が泣いていることに気づいた。
「え?ど、どうしたの…メイ?大丈夫?どこか痛いの?」
俺の涙に気づいたユウがいち早く心配してくれている。
「だ、大丈夫…ごめん、本当に…大丈夫、だから…」
咄嗟にそうは言ったものの、言葉とは裏腹に涙は止まってくれない。
なんで泣いてるんだよ俺…なんで?こんな姿見せたくないのに…。
「…少しだけ休憩しようか。時間はまだあるから」
気遣ってくれているジャベリーの一言がなぜか胸に突き刺さる。
その痛みの理由も涙の訳もわからないまま、俺はただその場に立ち尽くすしかなかった。




