21 魔法使い①
俺はユウに投げ飛ばされたのだということをその時にようやく理解した。
そして、ユウがもう助からないことも…理解した。
自分自身が生き延びたことに対する安堵の感覚なんて無かった。あれだけ守りたかった命が消えゆく瞬間を、見届けなければいけない事実に耐えられなかった。
逃げたかった。目を閉じてうずくまりたかった。それなのにただ茫然としてユウの姿を見つめていた。
「だ…誰か、あいつを…助けてくれ…」
誰かに向けて言うのでもなく、か細く震えた声で神にでも祈るようにそんな言葉が口から溢れた。
誰にもそんなことできないと思ったから。
あぁ…あれだけ頑張ったのに、結局―――
「もちろんだぜ!メイ君!!」
突然耳元で声が炸裂した。同時に、すぐ左を誰かが風のように走り抜ける。
反射的に左を見る。誰もいない。
そこにいたはずの人影はもう跡形もなく消えていた。
「うつ伏せになって頭を守れ少年!!破片が飛ぶぞ!!」
「…!?あ、はい…!!」
「よっしゃ!!いくぜえええ!!!」
遠く、ユウのいる方から微かに会話が聞こえて前を向き直したその時。
バガァァァァァン!!!!
空気を裂くような音が聞こえると同時に、ユウに迫っていた隕石は花火みたいに空中で砕け散った。
「…!?」
次の瞬間、とてつもない突風が全身に叩きつけられる。あまりの風圧に体が持っていかれそうになり、満身創痍の肉体で吹き飛ばされないように必死に踏ん張った。
息が詰まり、目も開けていられない。思わず腕で顔を覆う。
しばらくこの状態でじっとしていたが、風の勢いが少し弱まったところで薄眼を開けた。状況が確認したかった。
確保した微かな視界に飛び込んできたのは、前から津波のように押し寄せてくる白い砂塵。
「…マジか…!」
咄嗟に目を瞑り、呼吸も止める。直後、ゴウッという音と共に体が砂塵に呑み込まれた。
露出している手と首、耳に無数の砂粒がぶつかり、痛い。まるでやすりをかけられているかのようだ。
地面にはカラカラと小石が勢いよく転がっている。時折靴にぶつかってくるのがわかった。裸足だったら相当の傷を負っていただろう。
視界は封じられ、呼吸もできず、体は削られ続けている。
一体、あと何秒これを耐えればいい?まだ息に余裕はある。だが、それもいずれ限界が来る。
袖で口を覆えば何とか空気を吸えるか?…クソ、どうすれば…。
しかし、どうやらその心配は杞憂に終わったらしい。息が限界に近づく前に、気づけば砂塵は薄れていた。体に叩きつけられる砂粒が急に減って、それでわかった。
もう一度薄目を開けて周囲を見る。やはり砂塵は大体晴れたようだ。
一応袖で口を覆いながら、大きく息を吸い込む。酸素を取り込んで、息を吐き出しながら澄み切った視界で粉々になった隕石が降り注いだ場所を見る。
そこは…ユウのいた場所だ。
今は濃い砂塵が立ち込めて、その奥がどうなっているのかはわからない。
ただ、きっとそうであることだけを願った。
ユウは生きていると。
すると、濃い砂塵の奥から黒い影がゆっくりとこちらに向かって近づいてきた。
それは次第に輪郭をはっきりさせ、砂塵を切り裂いて姿を現す。
銀髪のセンターパートにギャンベゾンを着た男…
ジャベリーだった。
そしてジャベリーは、ユウを抱えていた。ユウはぐったりとしていたが、確かにその目は俺のことを見つめていた。
…よかった…生きてた。
途端に全身の力が抜けそうになった。一瞬倒れそうになるも、なんとか立ち続ける。ここでへたり込んだらかっこつかない。
…にしても、本当によかった。頑張ったかいあったじゃん。隕石が来たときはどうなるかと思ったけど、結局なんとかなっちゃったし。てか、隕石が破裂したあれはジャベリーがやったのか?だとしたらやばいな、あいつ。
安心とか、達成感とかを味わいつつ、感傷に浸っていると、気づけばユウを抱えたジャベリーは目の前にまで来ていた。
「よ!元気してた?」
「あぁ、元気元気。てか…ジャベリーがやったの?あれは…」
「ん?隕石のこと?」
「それ以外ないでしょ」
「ああ!ならそうだよ!俺がやった、あれは」
「…お前、バケモンだな」
ありがとう、と言いたかったのについ本音が漏れてしまう。
「ははは!いい褒め言葉を使うね!」
「いや、褒め半分、ドン引き半分だよ」
「素直じゃないな~!でも、なんにせよメイ君も生きて…て…」
そこでジャベリーの口が急に止まる。俺の方を見て何やら深刻そうな顔をしていた。
…?一体どうした。
そういえば、ユウも生還を果たした割には物凄く静かだ。よく見ると青ざめた表情で俺のことを見ている。
いや、違う。
厳密に言えば二人とも見ているのは俺の左腕の方だ。一体何が起き…
そうして自分の腕を確認した時、背筋が凍った。
俺の左腕はまるで自分のものではないようにぶら下がり、肩の丸みが完全に消えていた。ひじから先は不自然にプラプラと振り子のように揺れ―――
「あ˝あ˝あ˝あ˝……!!!!!」
自分の体の異常に気づいたその瞬間、突如として左腕が燃えるような激痛に襲われた。




