八話 謎の自動販売機5
八話 謎の自動販売機5
月夜は床に転がったまま動かない。忍は、まず手前の男を始末する手順を考えるが、うまい考えが浮かばなかった。後ろの変態さんを犠牲にすれば難なく倒せるけどと忍は思案するが、それをやると後で月夜に叱られそうで二の足を踏んでいた。まあ、ここは私一人ではなくて、さぼらないできちんと動いて貰おうと忍は考える。
「そこの変態女 ゆっくり殺してやるから、待ってな 」
忍び装束の男が、忍に向かって下卑た笑いをする。
「まったく…… エセ忍者には本物の忍者の恐ろしさは解らないでしょうね そうですよね、チーフ 」
忍は敵に不敵に笑い返しながら、足元の月夜に何時までもさぼるなと含みを込めて言い放つ。その忍の足元から、やれやれというように月夜がむくりと起き上がった。
「後ろの奴が本当に刺すとは思わなかった 僕の不徳の致すところだ 」
「チーフ 危機感が足りないんじゃないですか 」
「すまん、忍くん 耳が痛い 」
何事もないように話す二人を見て、忍び装束の二人は口を開けたまま硬直する。
「ふざけるな 腹に忍刀を突き刺されて平気なわけないだろっ 」
忍び装束の男の一人が怒鳴る。
「本物の忍者は厳しい修行で内臓や血管の位置を動かせるという事もご存じないですか 」
忍の言葉に忍び装束の男たちは口を開けたまま言葉が出なかった。
「あなたたちのようなエセ忍者に本物の恐ろしさを教えてあげます 忍刀・三日月、これは私の得意な忍具です 」
忍は鎌の刃を二つ付けたような三日月型の忍刀を取り出す。月夜も、”くない”を取り出すと指でくるくると回しタイミングを計っていた。
「忍術・暗闇 」
月夜が一本のくないを投げると、バッと辺りに暗闇が拡がる。
「なんだ 何も見えない 」
忍び装束の男たちは慌てて忍刀を闇雲に振り回すが、それが月夜と忍に当たる筈がなかった。
「これくらいで見えなくなるとは…… この人たちは忍者ではなく”パンピー”ですかね、忍くん 」
「いえ、くそ野郎ですよ チーフ 」
忍が、心底汚らわしい者のように言い放つ。
「馬鹿はそっちだ そこだっ!! 」
忍び装束の男が、忍の声のする処へ忍刀を突き刺した。その途端、ヒッという声と共に大きな音がして何かが床に転がった。
「へへつ ざまあみろ変態女 」
忍び装束の男が勝ち誇ったように声を上げるが、それを別の声が遮った。
「あーっ 僕のお人形がぁーっ 」
部屋の隅に避難していた変態男である。彼が悲鳴を上げていた。
・・・ほおっ ・・・
月夜は感心したように微笑むと、忍に合図する。
「忍くん、彼のコレクションがこれ以上壊されないように、もう終わりにしよう 」
「はい チーフ 」
忍が答えると、またも忍び装束の男が声のした辺りを忍刀で切り裂くが、何度忍刀で斬りかかっても空を斬るばかりだった。
「こんなに簡単に”空蝉”にかかる人も珍しいですね 」
今度は、忍の嘲笑する声が、まるで忍が何人も居るかのように辺り一面から聞こえる。
「何なんだ、これはっ 」
忍び装束の男が声をあげ四方八方を忍刀で切り裂くが、暗闇の中でも目が見える月夜と忍は難なく避けると、くないと忍刀・三日月を男たち目掛けて投げつける。
「ひいぃぃぃっ 」
男たちの悲鳴が響き、暗闇が消えた後にはくないで手足を壁に固定された男と、首を三日月で壁に固定された男の姿があった。
「さて…… このまま殺してもいいけど、君たちの目的と何者なのか教えてくれれば逃がしてあげるよ 」
忍が小さな声で、本当に殺す気ですかと肘で小突いてくる。当然だろ、”忍び”は非情でなければならないと月夜が小声で答えると忍がガーンとショックを受けていた。が、捕らえられた二人はあっさりと口を割る。
「助けて下さい 俺たちはバイトなんです 」
「バイト? 」
「はい この家にある毒薬を持ち帰ればバイト代が貰えるんです 」
忍び装束の男の一人が泣きながら言うと、もう一人も、邪魔する者がいたら殺していいって指示されましたと泣きながら言う。
「その指示した者の名前は? 」
「”サイレンス”と言っていました 」
外人なのかと月夜が驚くと、忍が呆れたように違うと思いますよとため息交じりに言う。月夜は、忍に呆れられバツが悪いのか、捕らえた二人にもう帰ってよろしいと簡単に開放する。二人は頭を下げ泣きながら帰っていった。
「さて、変態くん 君はあの暗闇の中でも目が見えていたようだけど 」
月夜の問いに変態男は、へっと不思議そうな顔をする。
「普通に見えると思いますが、何か…… 」
やはりな忍くん、こんな山の中に住んでいる事と云い、そうではないかと思ったんだと月夜の瞳がきらりと光る。
「どうだ、変態くん 君、うちの会社に入らないか? 」
変態男は驚いたように月夜の顔を見返す。
「今回の事で君は変な奴に目を点けられてしまったようだ そこで、うちの会社に入社してくれれば君を守る事が出来る 変態仲間の忍くんも居るしどうだろう? 」
「そうですよ 一人が気楽なのは解るけど、お友達がいるのも楽しいですよ お人形なら睦美さんが好きだし話が合うと思いますよ 」
月夜と忍に熱心に勧められ、変態男も気持ちが少し動いたようだった。
「でも、僕は学歴も経験もないし年齢だって若くもない 前に一度就活した事あったけど全部断られたし…… 」
「心配するな、変態くん うちの会社なら大丈夫 僕に任せろ 」
月夜が胸を張り、忍もうんうんと大きく頷いた。変態男は、じゃあお願いしていいですかと小さな声で言う。本当は普通に就職したかったんですと付け加えた。なかなか素直で宜しいと月夜は、変態男に右手を差し出した。変態男もおずおずと右手を出し二人は固く握手する。
「よし、決まりだ ところで、君の名前は? 」
「僕は”加藤トビ”といいます 」
月夜は飛び上がらんばかりに喜んだ。”飛び加藤” やっぱり君も一流じゃないか、月夜はこの出会いを感謝し忍と抱き合った。




