最終話 口寄せ
最終話です。
月光ソナタは、これで完結となります。
太古の鬼との戦いも、決着がつきます。牡丹の運命は……。
最終話 口寄せ
伊織と四葉がダメージを受け、戦線離脱してしまった。服部忍軍も風魔忍軍も壊滅状態である。吉影、綾子も、爆風に飛ばされた牡丹も満身創痍であった。まともに動いて戦えるのは、月夜と忍、そして、カトリーヌのみである。対する鬼も3体であるが、それは並の鬼ではない。太古から呼び出された鬼の真祖といわれる鬼たちである。如何に月夜たちであっても、この鬼たちを抑えるのは不可能と言わざるを得なかった。
「四葉ちゃん、動いたらダメだ 」
寅之助とトビが四葉を介抱しているが、地面に叩きつけられた四葉のダメージがかなり大きかった。
「ピイッ、ピイッ 」
「ありがとう、フーコ 私は大丈夫だから 」
伊織の顔を心配そうにペロペロ舐めるフーコに伊織は微笑みかけるが、立ち上がろうとして、また崩れ落ちていた。
「無理してはいけません 」
綾子と吉影が伊織に駆け寄り、伊織を支えていた。そして、綾子は薬を伊織に塗っていた。
・・このままではいけない なにか突破口はないのか ・・
月夜は、この状況に危機感を覚えるが、睦美はそれでも何かを信じるような瞳で牡丹を見つめている。
・・睦美くんの、あの瞳は1ミリも諦めていない あの睦美くんの事だ 何かがあるんだ ・・
月夜は、太古の鬼と戦いながら他の様子を見る。忍もカトリーヌも必死に鬼を食い止めていた。
「牡丹ちゃん、私は牡丹ちゃんの過去に何があったか、そして、なぜエンシェントになったのか知らない でも、私は牡丹ちゃんを信じている 牡丹ちゃんは友達を絶対に裏切らない 」
睦美は牡丹を真っ直ぐに見つめていた。そして、牡丹も睦美を見つめる。
「師匠…… 」
牡丹は、睦美に向かって頷いた。そして、印契を結ぶと小さく呟き始めた。その途端、空間に黒い穴が開き、それが広がっていく。その穴から、鬼よりも遥かに禍々しい気配が溢れ出てきた。
「これは、いったい…… 」
月夜も忍もカトリーヌも、その場にいる全ての者が体を動かせず、その穴に目を奪われていた。そして、それは3体の鬼も同様であった。全ての者が、凍りついたように動きを止めていた。
「口寄せ ”八俣遠呂知” 」
牡丹が印を切ると同時に、それは現れた。八つの頭を持つ神話の時代"八俣遠呂知“と呼ばれた竜。その八俣遠呂知は鬼に襲いかかっていく。鬼も抵抗するが、それはもう人間と蟻の戦いのようであった。鬼は、八俣遠呂知の八つの頭に食い千切られながら、穴の中に引き摺り込まれ八俣遠呂知諸と共に消えていった。月夜たちは、その様子を唖然として見ていた。そして、我に返ったように牡丹に目を向ける。牡丹は、一度ニコリと微笑むと、いきなり短刀を取り出し自分の胸に突き刺した。かに見えたが、それは月夜と忍、カトリーヌに止められていた。
「私は、封印していたこの技を使ってしまいました もう、生きている事は許されません このまま死なせて下さい 」
「何、言ってるの牡丹ちゃん 私たちの命の恩人を死なせる訳にはいかないでしょう 」
睦美は、さらに続ける。
「ここにいる人たちだけじゃない 牡丹ちゃんは、この世界の人を救ったんだよ もし、過去に何があったとしても、許されるに決まっているじゃない 」
それでも牡丹は短刀に力を込めたままだった。
「これは、私が”妹”を殺した技です くノ一になるための最終試験 それが妹との殺し合いでした 生き残った方が”くノ一”になれる よくある話です 幼い頃から”くノ一”になるために修行をしてきた私たちにとって、それは至極当たり前の事で、当然のように戦いました 妹は強かった このままでは殺される そう思った私は、朧や空蝉を使い逃げに徹して時間を作りました そして、口寄せを使ったのです 妹は、八俣遠呂知に四肢を食い千切られて地面に転がっていました 私は勝ったと思い、妹に近付いて行きました 近付くにつれ妹の悲惨な状態が目に入ってきたのです 妹は、痛い痛いと胴体だけになった体でのたうち回っていました 私が妹を抱き上げても、妹は私と分からず悲鳴を上げ逃げようとしていました 必死に、まるで芋虫のように地面を頃がって…… そして、妹の最後の言葉が、お姉ちゃん、死にたくないでした 私は、妹と一緒に修行していた日々を思い出しました それは、お互いに競いあって楽しい日々でした でも、その結果が、妹を殺す事だなんて私には耐えられなかった 妹を自分の手で殺してしまってから私は、忍びの世界の異常さに気がついたのです そして、私は忍びを抜けました 」
牡丹は、ここで歯に仕込んでおいた自害用の毒を噛み砕こうとした。が、それも一瞬早く抜き取られていた。四葉だった。
「危ないね、こんな物使ったらいけないよ あなたは死ぬ必要なんてないよ 」
「それで、あなたはエンシェントになったのですか ならば、妹さんの為にもあなたは死んではいけない そんな悪習、これから消していく為に、私に力を貸して下さい 我らが風魔と一緒に、改革を進めていきましょう 」
伊織も牡丹に声をかけていた。
「唐沢くん、君はこんなに凄い術が使えるんだ それは君が、それだけ頑張った事の証明だろう 妹さんの事は残念だけど、その妹さんに勝った君が、すぐに死んでしまっては妹さんもがっかりするだろう だから、君はその分も生きないと 君が犯した罪は僕らも一緒に背負うから、こんな悪習がなくなるように、みんなで協力していかないか 」
月夜は、牡丹に話しかけながら、短刀を牡丹の手から取ると遠くに投げ捨てていた。
* * *
誠と愛は自転車で、ある公園のイベント会場に来ていた。ここで、キッチンカーが並んでいるエリアに、知り合いが来ている筈であった。二人は自転車から降りて歩いて探し回ったが、知り合いの姿はなかなか見つからなかった。
「おーい、愛ちゃーん こっちーーっ 」
元気な声が聞こえる。
「あっ、あそこみたい 」
二人は自転車を押して二台並んだ赤いキッチンカー目指して走っていった。そこには、誠と愛の知った顔の面々が集まっていた。
「睦美さん、皆さん、お久しぶりです 」
誠と愛が声を揃えて言う。そして、そこで自己紹介が済むと唐沢牡丹が感無量そうに呟く。
「”愛と誠”ですか それは、絶対に幸せになって貰わないと…… 」
月夜も、その呟きを聞いてウンウンと頷いている。
「さあ、それじゃ今日は私の作るサンドイッチと、キッチンカーデビューを飾る牡丹ちゃんのフルーツドリンクを飲んでいってね 」
「おいおい、僕のホットサンドもよろしく頼みますよ 」
睦美の大声の後に隣に並んでいるキッチンカーの鷺坂が声を上げる。牡丹は派遣の仕事を辞め、四葉のもとキッチンカーを出店していた。まだ、牡丹を狙ってくる輩がいるかも知れない。なので、四葉が私が守ると名乗り出てくれたのだ。この二人なら不覚をとる事はそうそうないだろう。あの口寄せは今度こそ本当に二度と使いませんという牡丹であるが、月夜も一目置く四葉と一緒であれば安心である。四葉は、自分のキッチンカーの為に考えていたフルーツジュースを牡丹に伝授していた。パイナップルやマンゴー等のジュースを炭酸や乳飲料で割ったドリンクだ。四葉が海外のドリンクを参考にしたようだ。四葉は牡丹に亡くなった姉さくらの面影を重ね、牡丹は四葉に妹の面影を重ねていた。二人は、まるで本当の姉妹のように見えていた。
その時、一瞬不穏な空気が流れた。忍、カトリーヌ、伊織たちが動き出そうとするが月夜が止めていた。
「大丈夫、僕が行ってくるよ 」
そう言うと月夜の姿は消えていた。
* * *
「わざと気配を漏らして誘ってくるとは、どういう用件ですか? 」
「少し、話を訊きたかったのでね 」
月夜の前には、ごく普通の会社員に見えるスーツ姿の男がいた。
「話? 僕の方には別にありませんが…… サイレンス 」
「先日、あのガバナンスが倒されました 最強の口寄せを行使するガバナンスを倒したのは、あなたたちでしょう しかも、それがエンシェントであるという その上、風魔一族と服部一族が旧来の悪習を打ち破ると宣言した 忍びの世界は大混乱ですよ これから停まっていた刻が動き出していくでしょうね そこで、私はどちらの波に乗るか見極めに来たのです そして、改めて思いました やはり、新しい波の勢いには抗えないと もともと私は忍びの掟など興味ありませんでしたからね ですので、私はあなた方の波に乗ります 」
「あなたがですか? 僕はあなたを許せませんよ 」
「いや、あなたなら理解出来るでしょう 私とあなたが対立しているのは、仕事上での話 仕事である以上私はこれからも人々を騙して恐怖に陥れていくでしょう ですが、忍びの掟などない方が良い その点では、あなた方の味方という事です こう見えて私は約束は守ります 仕事は今まで通り続けますが、あなた方の味方という事です もし、あなたのお仲間がピンチの時には私も力になりましょう 」
サイレンスは、ニヤリと微笑むと風のように消えていった。残された月夜は、サイレンスの言葉を噛み締めるように深く考えていた。
・・僕たち忍者は影から普通の人の幸せを守る為に存在する だから、それを壊すつもりなら、僕らがそれを排除するまでだ ・・
月夜が戻ってみると四葉たちのキッチンカーは繁盛していた。四葉や牡丹も笑顔で動いている。睦美もサンドイッチを作り続け、鷺坂も負けずにホットサンドを売っていた。伊織は、誠にストライダを借りて見事に転倒していた。一流のくノ一である私があり得ないと苦笑いする伊織を見て、愛と誠も爆笑している。キッチンカーに買いに来たお客様にも笑顔が溢れていた。月夜は思う。この、みんなの笑顔こそが、幸せの象徴なのだと……。そして、この世界を守る為に頑張っていこうと心に誓うのだった。
* * *
「月夜と忍さん、早く一緒になってくれないかねぇ 」
「そんなに焦る事はないさ、母さん あいつら、まだやりたい事があるんじゃないか 」
「ミーーッ 」
炎月と水無月と三毛猫ミーが、畳の上で平和に話していた。そこに暖かい日差しが当たっている。絵に描いたような普通の家族の幸せそうな風景であった……。
……了。
最後までお読み下さり、ありがとうございます。長い間、お付き合い頂き感謝の言葉しかありません。
自分の力不足で、書き足りない部分は多々ありますが、一旦ここで終了します。
感想頂ければ嬉しいです。
よろしくお願いいたします。




