六十話 風の忍者
六十話 風の忍者
睦美は目三鬼を、家の裏にある入ったら二度と出られないと教えられてきた黄泉の国へ続くという洞穴へ誘導していた。そして、睦美は洞穴の中に逃げ込んだと見せかけて、入り口の手前で素早く身を隠していた。睦美を追いかけていた目三鬼は、そのまま洞穴の中に突進していく。目三鬼が、完全に洞穴の中に入ったのを確認した睦美は、入り口の陰から姿を現しガッツポーズをとっていた。
「やったぁ、二度と出てくるな そのまま黄泉の国へ行ってしまえ 」
睦美が勝鬨を上げていると、洞穴から目三鬼がニュッと顔を出してきた。そこにいたのかという顔でニヤリと笑っている。
「えっ、えっ…… 」
睦美は、またも両親に嘘をつかれていた事を思い知っていた。
・・酷いよぅ、みんな嘘じゃない 父さんも母さんも最低っ ・・
睦美の”真実の瞳”も、自分の肉親の事に関しては曇ってしまうようだった。いや、おそらく睦美の、両親を疑いたくないという気持ちから、”真実の瞳”で見る事を封印していたのではないかと思われる。いずれにしろ、目三鬼が洞穴から難なく出てきたのは間違いなかった。睦美は、また走って逃げ出すが、さすがに体力が限界で息が切れてきていた。
・・もう、無理…… でも、みんなに諦めるなと言っておいて、私が諦められないよ ・・
睦美は転びそうになりながら、足を動かし必死に走っていたが、目三鬼はしつこく追い付いてくる。しかし、もう目三鬼の手が睦美に届く程の距離にまで迫って来ていた。カトリーヌは、目一鬼を抑えるのに精一杯で、月夜と忍も鬼を抑えるのに全力を尽くしている。伊織と吉影、綾子が睦美の元へ駆けつけようとするが、鬼が睦美に追い付く方が早いのは明らかだった。
「睦美っ…… 」
「睦美さーんっ…… 」
伊織たちが睦美の名を呼び手裏剣と”卍”を投げるが、目三鬼は片手でそれを払い睦美を捕まえようとする。
「!!!!!! 」
睦美が鬼に捕まる、誰もがそう思った時一陣の風が横を吹き抜けていた。次の瞬間、目三鬼は睦美の姿を見失っていた。目三鬼が、三つの目でギョロギョロと睦美を探すと、遥かに遠い位置に睦美はいた。まるで、ワープしたような睦美の横には、セーラー服に褌姿の女性が立っている。
「四葉ちゃん、ありがとう 来てくれて…… 」
「それは恩人の睦美さんから、助けてなんてメールきたら、何を置いても来ますよ それよりも、睦美さん なんて相手と戦っているんですか びっくりですよ 」
四葉は、睦美を軽く脇に抱えると伊織たちの前に睦美を降ろす。そして、目三鬼に向かっていった。
「忍術 ”野分” そして、”千本” 」
目三鬼に周囲に突風が吹き荒れる。その突風に無数の千本が紛れていた。目三鬼の全身に千本が突き刺さる。四葉の特大の攻撃だ。さすがの目三鬼もがっくりと膝をついている。
「風忍術…… そなた、三田村家の者か 」
吉影も綾子も驚いていた。
「ええ、睦美さんには大変お世話になりました 三田村四葉といいます 」
「やはり、風のくノ一でしたか ロードレースの時にお見かけしました 私は風魔伊織 これは心強いですね あなたのおかげでチャンスが生まれました 一気にかたをつけましょう 」
伊織も戦闘に加わり、風魔忍軍も後に続く。それまでは優勢だった目三鬼が、四葉が加わった事で劣勢に追い込まれていく。
「風魔忍術 ”卍嵐” 」
伊織の手から卍手裏剣が無数に射ち出される。それに加えて四葉の千本も同時に目三鬼を襲う。目三鬼は防御に徹しているが、そのダメージは蓄積されていく。だんだんと目三鬼の動きが鈍くなってきていた。
「凄ぇ、さすが四葉ちゃんだ 俺、惚れちゃいそう 」
「伊織さんも凄いですよ さすが風魔のくノ一ですね 」
寅之助とトビも二人の攻撃に手を振って声援を送っている。睦美も牡丹も吉影、綾子も、この二人なら目三鬼を倒せるのではと期待していたが、目三鬼も最古の鬼といわれる本来の鬼の力を持つ鬼である。一時、伊織と四葉の攻撃で劣勢に追い込まれたかと思われたが、底力を発揮し戦況を盛り返してきていた。
「あの三つある目が厄介ですね 視界が広く、こちらの攻撃を見逃さない 致命傷になりそうな箇所は必ず防いでいますよ 」
「飛び道具では倒せないようですね 伊織さん、”たんじん”は使えますか? 」
「もちろん、OKですよ 」
「それでは、”たんじんの術”で敵の動きを止めて下さい その後、私が鬼の目を潰します 」
「わかった 」
伊織はすぐに両手で火薬袋をそれぞれ握る。そして、高速で目三鬼の足元に火薬を撒いていくと点火した。目三鬼の足が爆風に包まれる。目三鬼は、この程度爆発ではダメージを受けないが、一瞬動きが止まる。そこを、四葉は見逃さなかった。
「忍術 ”百分身” 」
そこにいる全員が目を疑っていた。四葉が百人もいるように見えるのだ。
・・四葉ちゃんは強いって聞いてたけど、本当に凄い 私の瞳でも、どれが四葉ちゃんの本体なのか、見分けがつかないよ ・・
睦美の”真実の瞳”でさえ見分けがつかないのだ。目三鬼の三つの目でも四葉の本体が見分けられる筈がなかった。
グシャッ
目三鬼の左の目に四葉の忍刀が突き刺さっていた。四葉は更に目三鬼にダメージを与えようと、忍刀で鬼の目玉を抉るが、今度はその一瞬の隙に目三鬼の拳が四葉の体を捉えていた。
「がはぁぁぁっ 」
四葉の体は軽々と吹き飛ばされ地面に叩きつけられる。そこへ、目三鬼の足が四葉を踏み潰そうと襲いかかるが、すんでの所で伊織が四葉を救い出していた。
「ごめんなさい 不覚をとりました 」
「何言ってるんですか これで鬼に死角が出来ましたよ 後は私に任せて下さい 」
伊織は、四葉を睦美たちの前に横たえ目三鬼に向かって再び飛び出していく。そして、四葉が潰した目三鬼の左目の死角から攻撃を仕掛ける。
「伊織さん、気をつけて下さい それは太古の鬼、どんな能力を持っているのか私でも分かりません 」
カトリーヌが伊織に向かって叫んだ瞬間だった。目三鬼が口を大きく開け、炎を吐く。そして、自分の体を回転させると炎が巨大な炎柱のように鬼の体を覆っていた。
「うわあぁぁぁっ 」
伊織の体も炎に包まれ、伊織は地面に転がり火を消そうとするが、一向に消える気配がない。
「水術 ”ナイアガラ” 」
忍が、咄嗟に水属性の術を使用し、大量の水を呼ぶと伊織の体に滝のように水をかける。そして、そのまま水で押し流し、伊織を目三鬼の前から避難させていた。
・・四葉くんと伊織くんがやられた しばらくは戦えないだろう かなり、苦しい状況だけど…… ・・
月夜は睦美を見る。睦美は、この状況でも自分たちの勝利を信じているようで、迷いのない真っ直ぐな瞳をしている。そして、その瞳は唐沢牡丹を真っ直ぐに見ていた。




