六話 謎の自動販売機3
六話 謎の自動販売機3
月夜と忍は山中の自動販売機の前で腕を組み、あれこれと考察していた。
「問題は…… 誰が、何の為に だな 」
「それと、どうして”ここ”なのか ですね 」
「まあ、自販機は場所と電源があれば設置出来るからな それに一般の人に害があるわけではないから、ゆっくり調べるとするか 」
「ほおぉっ チーフらしくないですね もしかしたら私たちの窺い知れない悪意が潜んでいるかも知れないのに…… 」
いや、これは一本取られたと月夜は自分の額をピシっと叩く。
「さすが忍くんだ 抜け目なく細部まで観察する、その姿勢に脱帽する 」
「あはっ いえ、そんな…… 」
忍は月夜に褒められ何故か赤面してしまう自分に驚いていた。今が夜で幸いだった。いくら月夜が夜でも目が訊くと云っても、顔色までは分からないだろう。
「それで、どうしますか このままここで張り込みますか? 」
「それが王道だろうけど、他に手がないかな? 」
「それなら、私の知り合いに追跡が得意なものがいますので協力してもらいましょうか 自販機から匂いを辿れば持ち主に行きつく筈です 」
「そんな者がいるのか 忍くんの知り合いなら間違いないだろう ぜひお願いしてくれ 」
「分かりました それでは…… そうですね、三十分ほどお待ちください 」
忍は、パッと服を脱ぎ現代の”くノ一”の装束になると夜の闇に姿を消した。月夜は驚いた表情になると、まったくと舌打ちする。
「脱いだ服はきちんと畳みなさい 」
月夜は忍の脱ぎ散らかした服を綺麗に畳むと風呂敷で包んだ。そして、逃げ出した睦美と寅之助の安否を確認する為、彼らの逃げた方向へ木の上を飛び追跡する。
二人は無事、山道を抜けたところで泣きながら抱き合って震えていた。
「うわぁー…… 怖いよぉ 怖いよぉ…… 」
「睦美 泣くな 俺も怖い…… 」
「あんたも泣いてるじゃない…… 」
・・・よしよし これでこの二人も多少仲良くなってくれれば言う事ない ・・・
二人とも大人だし大丈夫だろうと月夜が自動販売機の場所の木の上に戻るとすぐに忍も戻ってきた。
「私の知り合いの追跡のプロ”ハナ”さんです 」
「ん それで、そのハナさんは何処に? 」
月夜は辺りを見渡すが人の気配を感じない。忍の知り合いなので気配を消すのはお手の物だろうと思うが、それにしても一切気配がないというのは驚きだった。
「ハナなら、もう追跡の準備の為、自販機の前にいます 」
忍に言われ月夜は自販機に目を向けるが、そこに人の姿はなく一匹の犬が居るだけだった。しかし、よく見ると月夜はその犬に見覚えがあった。あの犬は橋の袂で忍くんと話していた犬……。まさか、忍犬……。
「凄いな、忍くん 君は忍犬も使えるのか 」
「ハナに追跡できないものはありません 」
忍は胸を逸らして自信たっぷりに言うと、月夜にそろそろ動きますよと目で合図する。そして、ハナは山道ではなく山の中の茂みに向かって走り出した。
「この山に入っていくという事は、相手も忍びの者か? 」
「普通の人でないのは間違いないですね 」
二人はハナの後を木の上から追い掛ける。ハナは山の中を迷いなく走っていき、しばらくすると一軒の洒落た民家の前で歩を止めた。
ピンク色のこじゃれた建物は部屋に本物の暖炉があるらしく屋根から煙突が突き出ていた。およそこんな山の中に似つかわしくない可愛い建物だった。
「忍くん これが藁ぶきの古民家だったら納得だが この可愛い建物、逆に怖くないか? 」
「チーフ それは偏見ですよ こんな可愛いお宅に住んでいるのは可愛い方に決まっています 」
忍は自信たっぷりに断定する。しかし、こんなところでふわふわの服を着た女子が出て来たら、やはり怖いよなと月夜は考えた。
二人は建物に近付き、窓から室内を覗き見る。小さな常夜灯のみが点いた室内で何かがごそごそと動いていた。
「誰か居るようだな 」
「ええ そのようですね 」
二人は、中に人が居るならと玄関にまわり、呼び鈴を押した。その途端、室内の人の気配が消えシーンと静まり返る。
「何か 怪しいですね 」
忍が小声で言い、月夜も頷く。二人は、もう一度呼び鈴を押してみたが何の反応もなく気配も感じなくなった。二人は玄関から離れると今度は屋根に飛び乗った。そして、忍び込める場所を探す。
「あの大きな煙突から行くか あの天窓から行くか だな 」
月夜が忍の顔を見ると、何故か夢見るような顔をしていた。
「ここは当然、煙突ですよ 天窓からなんて泥棒みたいです 」
いや結局忍び込むのは泥棒みたいなものなんだけど、その夢見る顔は何なんだ、月夜はたまに忍が理解不能になる。忍は、さあ行きましょうと率先して煙突に入っていった。が、忍の機嫌が良かったのはそこまでで、煙突に入った瞬間煤だらけになり忽ち機嫌が悪くなった。
「煙突掃除もしない、この家の主は殺していいですか? 」
そして、忍は呪いの言葉を吐き始めた。煙突の中で二人、ぴたりとくっ付いている状態で耳元に延々と呪詛の言葉を呟かれ、さすがに月夜も殺意が芽生えてくるのを必死に抑え込んでいた。
なんとか無事室内に侵入した二人はリビングに置いてある豪華なソファの陰に身を潜めた。そして、そこから周りの気配を伺うが、人らしき気配がない。すると、二人が侵入した暖炉でトンという小さな音がしたかと思うとハナが忍の元に走って来る。
「ここは、”ハナ”の”鼻”で探しましょう 」
忍の言葉に月夜は、上手いこと言うという感じでグッドと指を突き出した。




