五十八話 最古の鬼
五十八話 最古の鬼
ガバナンスは信じられなかった。自分の見ている前で”変わり身の術”など出来るはずがなかった。
・・この男は、それを可能にする化け物だというのか いやそんな事はあり得ない 長年、藤林で修行をつんだ私の目を欺くなど…… そんな事はあり得ないのだ ・・
「安心して下さいよ いくら僕や唐沢くんでも、あなたの見ている前で”変わり身の術”など出来ません それが可能になったのは僕の仲間たちが協力してくれたからです 」
「協力だと、それこそ信じられん あの刹那にどうやって協力したというのだ 」
「この傀儡は、もうかなり前にトビくんが作成していたものです 僕らは唐沢くんが最初に狙われたカラオケボックスの時から、彼女には何か秘密があると思っていました でも、その秘密を彼女は話してくれません 当然ですね、その時は彼女も僕らを全面的に信頼していたわけではありませんから それでも、僕らの仲間の睦美くんが彼女を信じていましたからね 僕らも睦美くんが信じているならと彼女を信じたわけですよ そして、いざという時の為、彼女の傀儡を作っておいてもらったんです それが今回役立ちました こんな精巧な傀儡、すぐには作成出来ませんからね トビくんがコツコツ作成してくれた成果です あなた程の忍びでも騙す事が出来ました そして、僕が首をはねる一瞬で本人と傀儡が入れ替わったのですよ あの一瞬、覚えていますか そう、カトリーヌくんと伊織くんが、あなたの視界を遮ったのです いくら、あなたでも視界を遮られては成す術もないでしょう あなたは、まんまと騙されたわけです さて、あなたには到底理解出来ないでしょうが、なぜ僕たちが咄嗟に連携出来たのか それは僕らがお互いを信じ合える仲間だったからですよ カトリーヌくんと伊織くんは、あの瞬間、僕が必ず何かをすると思ったのです それで僕の背後にまわり、あなたの視界を塞いだのですよ あなたが一流の忍びであるほど信じられないでしょうね 忍びは”個”の力が全てですから だけど僕らは違う 仲間を信じる あなたを倒すには、あなたの油断をつく以外なかった それをアイコンタクトで伊織くんが僕たちに送ってきた そして、忍くんと僕がお互いのやくわりを決めた そして、僕が唐沢くんの前に立った時、トビくんも察してくれた そこで用意していた傀儡と入れ替わったんだ その後は見た通りですよ あなたは僕に斬られ、今こうして死を待っている状態だ 僕たちは、これだけ心を通じ合わせる事が出来るんだ あなたには理解出来ないだろうが、これから僕たちは新しい世界を作っていくつもりですよ エンシェント、抜け忍なんか関係ない世界です ここにいる僕たちみんなで必ずつくる もう、唐沢くんも、藤林を抜けた忍くんも逃げ隠れする必要がなくなるんだ 」
月夜の言葉をガバナンスは、鼻で笑っていた。
「ふん、それがお前らの理想か そんな甘い考えなど誰が賛同すると思う それに、それは貴様らが生きてこの状況を抜けられた場合の話だろう 最後に一つ良いことを教えてやろう 貴様らは私が死ねば”口寄せ”が解除されると思っているだろう それは違うぞ 私が死んでも”口寄せ”は解除されない それどころか私の制御を外れた鬼は、今まで以上に破壊をし尽くすだろうよ くははっ 先に逝って貴様らの来るのを楽しみに待っているとしよう 」
ガバナンスは一息に喋ると、口から大量の血を吐き出し事切れていた。そして、確かにガバナンスに呼び出された3体の鬼は、消える事なく今まで以上に暴れ始めた。もう、敵も味方も関係なくただ殺戮し、破壊するために動いていた。
「城戸の奴、とんでもない事してしまいました 皆さん、申し訳ありません 」
忍が、同じ藤林の忍者として責任を感じたようで皆に頭を下げるが、もはや服部家の屋敷も破壊され、服部忍軍、風魔忍軍、そして、鬼とは味方であった筈のガバナンスが率いていた藤林忍軍も壊滅状態になっていた。
「忍くんが頭を下げる必要はないさ でも、この鬼どもを止めないと、睦美くんの家だけでなく日本中が破壊されかねない 全員で1体に攻撃を集中して各個撃破していこう カトリーヌくん、一番与し易い鬼はどの鬼だと思う 」
「おそらく、三番目に現れた鬼でしょう 目一鬼、目三鬼に比べればですが…… いずれにしろここに現れたのは最古の鬼 私のように後から誕生した鬼は、鬼本来の力は薄まっています この鬼たちは間違いなく最強の鬼です 果たして全員でかかっても倒せるかどうか 」
カトリーヌは珍しく不安に囚われていた。純粋な鬼である。地獄の獄卒として産まれた、その力も、体力も全てが鬼の頂点に立つ最古の鬼なのである。
・・この鬼たちには、現在では最強と言われる大嶽丸でも力及ばないでしょう 私がなんとか突破口を作らないと…… ・・
カトリーヌは覚悟を決めた。自分の命を犠牲にしても、ここにいるトビを始め仲間の命は必ず守る。自分が鬼の1体を道連れにして自爆する。そうすれば1体は倒せるだろう。残り2体。
・・私事に巻き込みたくありませんでしたが致し方ないですね あいつら二人に援軍を頼みましょう 最悪、あいつらにも自爆して貰えば、鬼は片付きますからね 命を失いかねない状況ですから気は重いですが、私の最後の頼みとしてきいてもらいましょう ・・
カトリーヌは、もう決心した。大嶽丸と橋姫を呼び、片をつける。現状、最善の策はそれ以外ない。カトリーヌは、つぶらな瞳で戦っているみんなを見る。今までの思い出が溢れてきた。そして、1体の鬼に向かって飛び出そうとした。その時……。
「大丈夫ですよ、カトリーヌさん 私たち一人の力は弱くても、これだけのみんなの力があれば、必ず勝てます 私は応援する事しか出来ませんが、信じています、みんなの力を…… だから、カトリーヌさんも信じて下さい 」
睦美の瞳がカトリーヌのつぶらな瞳を真っ直ぐに見つめている。
・・睦美さんの”真実の瞳” 月夜さんが言っていた。睦美さんは、まるで先を見越したかのように仕事も遊びも計画を立てていくと…… もしや睦美さんの真実の瞳は、真実を見抜くだけではないのかも知れない 予測…… そう、未来も見えるとしたら…… ・・
カトリーヌは、自分を見つめる睦美の瞳を見つめ返す。そして、その真っ直ぐな瞳を信じてみようと考えていた。




