五十七話 月夜の裏切り
かなり間が開いてしまい申し訳ありません。
忍が抜け忍になってしまった所からの続きです。
五十七話 月夜の裏切り
そして、三体目の鬼が現れ暴れ始める。
「これはまた厄介な術を…… フーコ、危ないから離れていてっ 」
伊織はフーコに声をかけ忍刀で鬼を迎え撃つ。
「フーコ、こっちに来い 」
寅之助とトビが、おいでおいでをしている。フーコは二人の下にスタタッと走っていった。
「伊織ちゃーん フーコは俺たちが守るから心配しないで 」
寅之助の言葉に伊織は微笑んだ。
「伊織様、あの藤林の忍者だけならまだしも鬼が三体も現れては不利でございます 鬼は言葉通り一騎当千 いかに服部忍軍の助勢がありましても、このままでは壊滅させられるでしょう ここは一旦退いて体勢を立て直された方がよろしいかと…… 」
「いいえ、それは駄目だわ ここで退いたら、この場のピンチは逃れられるでしょう でも、それこそ全国の忍びに我ら風魔がエンシェントに加担した事が知れ渡り、四六時中狙われるようになるわ それは避けなければならないでしょう 少なくともこちらの体勢を整えるまでの時間が欲しいです こんな古い悪習を我らの時代で終わりにする為に、同じ思いの仲間を増やす時間がどうしても必要ですからね だからこそ、ここにいる敵は殲滅します 私が見るところあの二人も一騎当千ですからね そして、もちろんこの私も…… 」
伊織は、月夜と忍に視線を送ると迫り来る鬼に向かって飛び出していく。
「伊織様に遅れるなっ 」
風魔忍軍も伊織に続いて、臆する事なく鬼に向かって飛び出して行った。吉影と綾子、服部忍軍も睦美と牡丹を守り鬼と戦っている。カトリーヌは、一人で最古の鬼、”目一鬼”を足止めしていた。ガバナンスは、余裕で戦況を見つめ笑みさえ浮かべている。そして、拮抗していた戦況が徐々に崩れてきていた。やはり、圧倒的力を誇る3体の鬼が風魔、服部、そして、十鬼神カトリーヌさえも後退させている。
・・トビ様と睦美さんに作ってもらったこの体、傷つけずに戦うのは、もう不可能です ・・
カトリーヌも覚悟を決めていた。体が壊れても仲間を守る。それが最大の優先事項だと心の底から思っていた。
・・このままでは、不味い ・・
伊織の頭の中に、このまま押しきられ無惨に敗北する自分たちの姿が浮かんでいた。月夜と忍も、敵忍者と戦いながらガバナンスを狙うが、さすがに藤林の忍者である。忍の忍術は、ほとんど予測されダメージを与えられない。そして、月夜も集中的に狙われ忍術をだす暇さえなかった。このままでは、そのうちに敵の津波のような攻撃に潰されてしまうだろう。
「本家の小娘もエンシェントとなったのだ 貴様もこのままだとエンシェントに手を貸した忍びだと認識されるぞ 貴様は一流の忍びのようだ このまま消すのは惜しいからな 」
ガバナンスが月夜に向かって声をかけていた。
「そうですよ、私はエンシェントになりました チーフ、あなたはどうなさいますか このまま私に関わると、あなたも狙われる事になりますよ 」
忍は、月夜の目を見つめていた。月夜も忍の目を見つめ返す。そして、悲しそうに目を逸らしていた。
「残念だよ、忍くん 君がエンシェントになるなんて…… 」
直後、月夜の忍刀が忍の体を貫いていた。
「えっ…… 」
睦美が、トビが、寅之助が、カトリーヌが、そして、伊織が、その場にいた全員が驚愕の声を上げていた。忍は、体を貫かれ、ゆっくりと地面に倒れていった。
「ふはは、そうだ よくやった 心臓を一突きか 一寸の狂いもない さすがだな ついでにもう一人のエンシェントも始末してみろ 貴様なら造作もないだろう 」
ガバナンスが高らかに笑いながら月夜に命じると月夜は、ザンと一瞬で牡丹の前に立っていた。そして、月夜は周囲の様子を確認すると、トビも寅之助も動けずにいた。月夜はその後冷たい瞳で牡丹を射すくめていた。牡丹は身動きも出来ず月夜を見つめている。伊織、カトリーヌ、吉影、綾子が月夜を止めようとするが、鬼に阻まれて出足が遅れた。伊織とカトリーヌが月夜の背後に重なった時、一歩早く月夜の忍刀が一閃されていた。
ザンッ
牡丹の首がはねられ、地面にポトリと落ち残った首から血が噴水のように噴き出していた。
「牡丹ちゃんっ!」
睦美が絶叫するが、牡丹の体はふらふらと一歩足を前に出すと、そのまま力尽きたように倒れていった。
「よし、そのエンシェントの首を持ってこい 」
ガバナンスが高らかに笑いながら月夜に命令する。伊織たちは凍りついたように固まり、牡丹の髪の毛を掴む月夜を見ていた。そして、月夜はガバナンスの前に飛び上がり浮遊の術を使う。これは、見えない糸の上に乗り空中に浮かんでいるように見える術である。
「その首を寄越せ これで私の任務も終わりだ 貴様の事は見逃してやろう だが、風魔と服部は滅ぼさせてもらう 」
月夜はガバナンスに向かって牡丹の首を放り投げていた。ガバナンスが手を伸ばし、牡丹の首を掴もうとする。その刹那……。
「高速”虹斬り” 」
シュパッッッ!
月夜の忍術が炸裂していた。ガバナンスは袈裟懸けにばっさりと斬られ血が噴き出している。
「馬鹿な…… 貴様、私を油断させる為に仲間の命を奪ったのか くくく、確かに一流の忍びだ 目的を達成する為には手段を選ばずか 見事だ だが私が倒れたとて終わりではない 貴様らはここで滅ぼされるのだ 」
「そうはいきませんよ、城戸 あなたの方こそ、ここで滅びるのです 」
「馬鹿な、なぜ本家の小娘が生きているのだ 心臓を一突きにされたはず 」
「忍くんはね、一流のくノ一ではないのですよ 超一流のくノ一です 僕に胸を貫かれた刹那、心臓の位置を動かしたのです 」
「なるほど、小娘とはいえ、さすが本家のくノ一というわけか 私の敗けだ だが、目的は果たした 命を失おうとも悔いはない 」
ガバナンスは、がっくりと膝をつくが、そこへ伊織もやって来た。
「残念だけど、牡丹ちゃんは生きてるわよ 」
ガバナンスは伊織の指差す方を見ると、唐沢牡丹が立ち上がってこちらを見ていた。ガバナンスは大きく目を見開き自分の持っている牡丹の首を見る。
「これは…… 傀儡…… あり得ない 私の前で変わり身の術など出来るわけがない 」
ガバナンスは信じられないという顔をするが、唐沢牡丹が生きているのは間違いなかった。
・・あの一瞬で私の目を欺くなど不可能だ いや、こいつはそれを可能にする忍者だとでもいうのか ・・
ガバナンスは、月夜を恐ろしい化け物でも見るような目で見ていた。




