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五十六話 藤林 忍


五十六話 藤林 忍



 目一鬼は、まず数の多い服部と風魔の忍者に襲いかかっていた。鬼の祖先とも云えるこの鬼は、当然ながら鬼本来の力を持っている。強者揃いの服部と風魔の忍者と云えども、そうそうこの鬼を倒す事は出来なかった。それどころか、鬼の攻撃で負傷を負う者が続出していた。


「あのガバナンスという者、古の三忍の一人といわれる自来也様の力を超えているというのか 」


 吉影は、口寄せで巨大なガマガエルを呼び出した有名な忍者を思い出していたが、ガバナンスは巨大カエルどころではない太古の鬼を呼び出していた。


「自来也だと そんな過去の遺物など私の足元にも及ばんわ 忍術も進化しているのだ 私の力を思い知るがいい 」


 ガバナンスは印を結ぶと、また口寄せを発動する。すると今度は目が三つある鬼が現れた。


・・・目三つ鬼…… いけない、また未知数の鬼が現れました このまま口寄せされたら守り切れません ・・・


 カトリーヌは、あのガバナンスという忍びに狙いをつける。


・・・元凶であるあの忍びを倒せば、口寄せされた鬼も消える筈…… ですが、ここを離れてはトビ様が…… ・・・


 カトリーヌにとってトビは全てである。自分の命に代えても守るべき存在。それが、トビであった。


・・・トビ様をここから逃がせれば、あとは…… ・・・


 カトリーヌは、トビを抱えて敵の包囲網を突破し逃走するのが最善策と考えた。敵の狙いは、どうやら戦っている伊織たちを見る。そして、倒れた牡丹とそれを介抱している睦美。


・・・違う、トビ様だけじゃない ここにいるみんなが私の大切なお友達 私を異質の者と知りながら対等に接してくれるトビ様や卯月様と同じ大事な人たち ・・・


 カトリーヌは、その時気が付いた。倒れている牡丹とそこにいる睦美の死角から飛んでくる”三日月”を……。


「睦美さん、危ないっ 」


 カトリーヌは叫ぶが睦美は周りの喧騒で気付かない。カトリーヌは蜘蛛の糸を投げ、”三日月”を捕捉しようとするが、それよりも”三日月”の方が早かった。


・・・駄目っ、間に合わない 睦美さんっ ・・・


 カトリーヌは睦美の首がとばされたと思ったが、”三日月”が睦美の首をはねる寸前、もう一つの”三日月”が睦美の首を狙う”三日月”を弾いていた。


・・・こ、これは三日月…… ・・・


 ガバナンスは驚いたように、もう一つの三日月を投げた人物に目を向ける。そこには、ガバナンスを睨みつける忍の姿があった。


「ガバナンスは、あなただったのですね 城戸 これは一体どういう事ですか 」


 忍はガバナンスを睨みつけたまま問い詰める。


「これは本家のお嬢さま 私は仕事でエンシェント狩りに出向いただけですよ お嬢さまは引っ込んでいて下さいますか 」


「そういう訳にはいきませんよ、城戸 ここにいるのは私の友人たち 手を出す事は許しません 」


「まったく本家の小娘はまるで分かっていないですね 私はエンシェントを狩りに来たと申したでしょう それを邪魔するなら、あなたも、そして本家も対象になりますよ 」


「ここにはエンシェントなんていませんよ あなたこそ何度言わせるのですか 」


「ホントに世間知らずのお嬢さまですね そこに倒れている女に訊いてみると良いでしょう 」


 ガバナンスは嘲笑うように忍に言い、牡丹を指差していた。月夜と忍も、牡丹に目を向けるとすぐに牡丹の前に立った。牡丹と睦美は、月夜と忍を見上げる。二人は、牡丹と睦美の瞳を見て瞬時に理解した。そして、ガバナンスと戦っている風魔と服部の忍者たちも見る。


・・・そうか、彼らは…… そして、伊織くんも…… ・・・


 月夜が忍の顔を見ると、忍も月夜の顔を見ていた。


「どうですか、お嬢さま 納得したなら退いてもらえますか 」


 ガバナンスは、早く退けというように忍に告げるが、忍は牡丹の前から動かなかった。


「藤林の本家のお嬢さまが何をしているのですか 早く退いて貰えますか 私は風魔と服部も始末しなければならないので忙しいのですよ 」


 ガバナンスはイライラしたように言うが、それでも忍は動かなかった。そして、ガバナンスに向かって強い視線を向ける。


「本家の私がここには友人しかいないと言っているのが分かりませんか、城戸 分家のあなたこそ早く退きなさい 」


「あなたも聞き分けがないですね これ以上、私の邪魔をすると、あなたも本家も全国の忍びから粛清の対象になりますよ ふふ、まあ私はそれでも構いませんけどね 」


「私は友人を守る為ならば、粛清の対象になる事など厭わないですが、それに家の者を巻き込むつもりはありません 」


「はっ、何を言っているのです 」


 ガバナンスは忍の言っている意味が分からずにいたが、それは睦美も同様だった。睦美の家も忍びの家系である。エンシェントを庇えば自分は勿論、その一族も粛清の対象になってしまう。いくら、名門の藤林と云えど四六時中休みなく襲ってくる全国の忍びが相手では厳しい結果になるだろう。睦美は、それが分かっているから忍が言っている意味が分からなかった。


「自分は粛清されても、本家は巻き込まない 何を言っているのか分かりませんが、そんな理屈が通る訳がないでしょう いい加減にしませんと、本家のお嬢さまと云えど容赦しませんよ 」


「こんな簡単な事も分からないのですか、城戸 私の為に家を巻き込まない、簡単でしょう、私は藤林を抜けます 」


「はっ? 」


 愕然とするガバナンスに対して、言ってしまったかという顔をして忍を見る月夜がいた。


「ば、バカな…… 本家のお嬢さまが抜け忍、エンシェントになるというのですか もう、取り返しがつきませんよ あなたには、これから帰るところもなくなる その女のように人の目を逃れ、怯えて暮らす事になる 」


「そうですね、昔ならそうでしょう ですが、今この現状はどうですか 私が見る限り、風魔の皆さんや服部の皆さんはエンシェント狩りをしているのではなく、あなたと敵対しているように見えますが…… 」


 忍は臆する事なくガバナンスを睨み付けていた。


「くくく、良いでしょう それならば遠慮なく、お嬢さま、あなたの首を獲る事が出来ます 私は嬉しいですよ 本家の鼻持ちならない小娘を始末する事が出来るのですから 」


 ガバナンスは印を結び呪文を唱え、3体目の鬼を口寄せしていた。


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