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五十五話 風魔伊織


五十五話 風魔伊織



 伊織は地面に倒れている牡丹を見て、殺意に満ちた目をガバナンスに向ける。


「私の友人に随分酷い事をしてくれましたね あなたをこのまま帰すわけには参りません 覚悟して下さい 」


 伊織は忍刀を抜く。しかし、数の上でまだ遥かに有利なガバナンスには余裕がみえた。


「風魔一族の人間か 風魔一族もエンシェントに加担するのか エンシェントを庇うという事は、エンシェントと同義と見なされる それでも良いのかな、風魔の忍び 」


「エンシェント? そんな者が何処にいるのですか? 」


「くくく、お前のその足下に倒れているだろうが…… その女だよ お前が、そいつの首を獲ればエンシェントに加担した事を見逃してやる 」


 伊織は倒れている牡丹に駆け寄った。爆風で飛ばされ地面に叩きつけられた牡丹は酷い姿だった。牡丹は、伊織に気が付くとよろよろと体を起こし伊織の顔を見上げる。


「あなたはエンシェントなのですか? 」


 伊織の問いに牡丹は小さくだが、はっきりと頷いた。


・・・唐沢牡丹はエンシェント…… そういう事ですか 私の感じた違和感は、彼女が演じていた唐沢牡丹と時折見えてしまう本当の彼女とのギャップだったのですね…… 睦美さんの”真実の眼”でも見抜けない 当然ですね 二重人格でもない、一人の人間が仮面を被っていただけなのですから そして、エンシェントであると判明してしまった今ではは、彼女の首を獲る以外に選択の余地はないですね でも…… ・・・


 伊織は小さく忍び言葉を呟く。それは風魔一族でしか理解出来ない忍びの言葉。そして、伊織は忍刀を高く掲げた。睦美には、伊織がそのまま忍刀を振り下ろし牡丹の首をはねるかのように思えた。しかし、睦美も動くことが出来なかった。抜け忍は粛清する。それは忍びの世界では絶対的な掟だ。江戸から続く忍者筆頭の服部家に生まれ育った睦美には、それが嫌というほど良く分かっている。吉影も綾子も、やはり伊織を止められなかった。自分達は同罪と見られても致し方ないが、風魔一族を巻き込む訳にはいかない。


「さあ、早く首をはねろっ 」


 ガバナンスが伊織を急き立てる。牡丹は覚悟を決めたように目を瞑っていた。時が止まったかのように動く者はいなかった。この場の全員が伊織の忍刀の動きに注目していた。そして、伊織はガバナンスに顔を向けるとニヤリと笑った。いつの間にか伊織の周りには数十人の風魔の忍びの姿があった。


「よろしいのですな 」


 伊織の影の中から忍び言葉で声がする。


「私の覚悟は決まった 私は、私の信念を貫く 」


「わかりました、伊織様 我らは何時でもあなた様の手足 存分にお使い下さい 」


 伊織は忍刀をガバナンスに向け、牡丹を庇うように立ちはだかった。フーコは伊織の肩から降りて、牡丹の顔を舐めている。


「私は、私の友人を守る こんな悪しき風習は私が終わりにしてやる 」


 ガバナンスは信じられぬという顔をする。


「貴様、分かっているのか 全国の忍びから粛清の対象にされ、一族全て皆殺しにされるぞ 」


「お前こそ恐れなさい、ガバナンス 我ら風魔を敵に回した事がどれほどのものか思い知ると良い そして、私たちの心配は、いらぬ心配だ お前たちはここで皆殺しになるのですから 」


 伊織の言葉で風魔一族が一斉に動き出す。その強さは圧倒的だった。敵の忍びが次々に斬り倒されていく。


「よろしいのですか、風魔殿 一族を危険にさらす事になりますが 」


 吉影が心配そうに伊織に言うが、伊織は平気な顔でチラッと睦美の顔を見る。


「私はフーコも認めたあなたの娘さんを信じています そして、その睦美さんが信じている唐沢牡丹も信じます 」


 伊織は迷いない瞳で吉影を見つめる。吉影も綾子も感嘆して伊織を見ていた。


「なれば我が服部忍軍も風魔と共に戦いましょう 綾子、狼煙をあげなさい 」


 心得ているとばかりに綾子はすぐに狼煙をあげる。すると、あっという間にガバナンスを数十の忍びが取り囲んでいた。


「うぬ、服部と風魔か 面白い 一度やり合ってみたいと思っていたところだ 」


 ガバナンスは、それでも余裕で”三日月”を投げつけてきた。その予測不能な動きで数人の服部忍者が手傷を負ってしまう。


「まさか…… お前は藤林の者なのですかっ 」


 伊織が”三日月”を見て叫ぶ。


「どうした 風魔といえど藤林を敵に回すのは怖いか まあ無理もないがな 以前は伊賀の最大派閥は服部であったが、江戸以降落ちぶれた服部に対して藤林は成長した 今では藤林こそが最大の忍者集団であるのだ 」


 ガバナンスは、再び指笛を吹く。すると、数百の忍者が現れ、服部と風魔の忍者たちをぐるりと囲む。


「ふははっ、我らは数だけではないぞ 刮目せよ 」


 ガバナンスは印を結んで呪文を唱えていた。


「口寄せ ”目一鬼(まひとつおに)” 」


 ガバナンスの忍術で地中から一つ目の巨大な赤鬼が現れる。


「出雲国風土記に記されている最古の鬼”目一鬼(まひとつおに)”だ この鬼が貴様らを冥土に送ってくれるだろうよ 」


・・・あれは…… 私よりも古くから存在する(いにしえ)の鬼 鬼の真祖と云われる鬼を呼び起こすとは…… ・・・


 カトリーヌは、トビたちを守りながら一つ目鬼にも注意を払う。自分の方に来てくれればと願っていたが、鬼は伊織たちの方へ歩を進めていった。


・・・不味いですね あの鬼の戦闘力は未知数 早くこちらを片付けて駆けつけたいところですが…… ・・・


 しかし、カトリーヌにしても、この数の忍者を相手にするのは骨が折れる仕事であった。相手の忍者も一流といえる。なかなか一筋縄ではいかなかったのだ。



 * * *



「忍くん、悪いが少し鬼を引き付けておいてくれないか どうも睦美くんたちが心配だ 何か嫌な予感がする あまり時間をかけていられない 取って置きの忍術で決めてやる 」


「カトリーヌさんと伊織さんが向かいましたが…… そうですね、こんな鬼を口寄せする奴ですからね 分かりました、任せて下さい 」


 忍は着ていた服を脱ぎ捨てると、いつものレオタードにタイツの姿になる。そして、その動きが加速されていった。


「分身の術 」


 忍の体が残像で5人にも見える。鬼は、その忍に翻弄されていた。伊織が、鬼の片腕を斬り落としていったのも大きかった。鬼は残った腕で棍棒を振り回すが、そんな雑な動きが忍を捉えられる道理がなかった。忍は鬼の周囲を飛び回りながら、”くない”で攻撃を加える。鬼は、その度に傷を負っていくが、人間よりも遥かに早い回復力で瞬時に傷が塞がっていく。


「良いぞ、忍くん退いてくれっ 」


 月夜の準備が整い、忍が飛び退いた瞬間、月夜の忍術が炸裂した。


「忍術 ”朧月夜” 」


 途端に鬼の周囲が(もや)に包まれ、鬼もその(もや)に溶けたように薄くなっていく。そして、靄が散った後には、もう鬼の姿はなかった。忍は初めて見る忍術に驚き声も出なかった。


・・・これがチーフの闇の忍術…… ・・・


 忍が、月夜を見ると地面に膝を着いていた。体力は相当ある月夜にしては珍しい事である。忍は、すぐに月夜に兵糧丸を与えると、月夜は礼を言い、早く服部家に戻ろうと忍を促した。


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