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五十一話 不穏な気配


 五十一話 不穏な気配



 睦美の家でカトリーヌの復活パーティーが盛大に行われていた。バーベキューコンロが何台も置かれ、肉や野菜が大量に焼かれている。もちろん、冷えたビールも用意されていた。楽しいひとときだった。月夜と忍、それに伊織も、普段は粗食であるが、この時とばかりに肉を食べまくっている。睦美の実家である服部家は周囲を森で囲まれた中にある一軒家である。その為、周囲の住民に迷惑をかける事なく、こうしてバーベキューを楽しむ事が出来るのだ。これが住宅街の中であれば煙や騒音で苦情がくるのはもちろん、周囲から目立ってしまってはいけない忍の者にとってはやってはならない事であった。


「いやあ、こうしてお肉をたくさん頂いてしまって恐縮です 」


 月夜が、睦美の両親に頭を下げると睦美がいやいやと顔の前で手を振る。


「うちの親は関係ないから…… これ全部、私持ちですよ 」


「えっ 」


 月夜と忍、それに伊織も驚いて睦美の顔を見つめる。


「当然でしょ 私のお友達の復活パーティーですからね 自分で出さないと意味ないですよ 」


「いや、睦美くん でも、お肉もビールもかなりあるよ 相当な散財では…… 」


「私を誰だと思っているのですか、チーフ 服部家の子孫、服部睦美ですよ ふふっ、見くびってもらっては困ります 私にとってこの程度の事、なんでもありません 」


 睦美は鼻の穴をぷくっと膨らませてどや顔で言う。月夜たちは、ははぁーと平服するより他なかった。確かに世が世なら服部家の自宅に招かれる事など有り得ない事だったのある。


「おーい、睦美 こっちの肉、もうないぞ 早く持って来てくれ 」


 そんな事には一切構わず寅之助がお肉を催促する。寅之助の周りにはトビとカトリーヌ、牡丹がいて、みんな楽しそうに話しながら肉や野菜を頬張りビールを飲んでいい調子になっている。


「こら、とら 酔って牡丹ちゃんに絡んだりしたら成敗するからね 」


 睦美がお肉を運びながら寅之助をジロッと睨むが、すでに良い調子の寅之助は睦美から肉を奪い取るとすかさず焼き始めていた。


「牡丹ちゃん、すぐ焼けるからね 」


 でろーんと鼻の下を伸ばしている寅之助に睦美の顔がピクピクと強張っていた。見かねた伊織が、また寅之助を羽交い締めにする。


「はい、どうぞ 睦美さん 」


「ホントに貴様という奴は…… 」


 再び睦美の怒りの踵落としが寅之助の脳天に炸裂した。寅之助は見事にノックダウンされ、トビや牡丹はそれを呆れた顔で見ていたが、カトリーヌは羨ましそうに言う。


「本当にお二人は仲が良くて羨ましいですね 私もそんな技を披露する相手が欲しいですよ 」


「えっ、いや カトリーヌさんにやられたら不味いでしょう 」


 カトリーヌの正体を知っている睦美は、それは止めておきましょうよと止めようとするが、カトリーヌは誰かの姿が頭に浮かんだようで、ぐふふっと不気味に笑っていた。


・・・今度、あいつの脳天にぶちこんであげましょう 奴なら大丈夫だろうし それにしてもまさか、私がこんな楽しい気持ちになるなんて信じられない事ですね これも、トビ様や睦美さんや皆さんのおかげですね ・・・


 カトリーヌはトビや卯月に助けられ、こうして今の仲間たちと知り合えた事がなにより嬉しかった。ここにいる仲間の為ならなんでもやる。そんな思いに耽っていると、足下からボコッと小さな何かが顔を出した。


・・・何でしょう 小動物のようですね ・・・


 カトリーヌは電光石火の動きで地面に顔を出している小動物を掴みあげる。


「ぴゅー、ぴゅー 」


「フ、フーコ 」


 カトリーヌにつまみ上げられ鳴いている小動物を見て伊織が声を上げる。


「あっ、ごめんなさい それ私の忍リスのフーコです 」


「そうですか 美味しそうなので戴こうと思ったのですが ゴールデンカ○イではリスはご馳走と言っていましたので…… 失礼しました 」


 カトリーヌがフーコを地面に置くと、フーコは怯えたようにぴゅーぴゅーと鳴きながら伊織の下に走って来た。


「フーコ、大丈夫だよ ここにいる人たちはみんな好い人ですからね 」


 伊織はフーコを抱き上げて頭を撫でている。フーコも落ち着いたようで黒い真ん丸な瞳で伊織を見つめていた。


「忍リスですか 伊織くんは動物使いでもあるのですね、素晴らしい さすが、風魔家の忍の方は違いますね 」


「でも、伊織さん リスというには尻尾がふさふさしてないですね 」


 月夜と忍がフーコと伊織を見比べながら言うと、また睦美が鼻の穴を膨らませて解説する。


「チーフも忍さんも勉強不足ですよ 伊織さんのリスはジリスなんです 地面から出てきたでしょう 木の上が生活圏のリスと違って地面に穴を掘って生活するんですよ ねえ、伊織さん、私も撫で撫でして良いですか 」


 睦美が触りたくて仕方がないというようにフーコに迫るが、フーコは伊織の腕からジャンプすると睦美の胸に飛び付いていた。


「うわっ、可愛いっ 」


 自分にがしがしとしがみついているフーコの姿に睦美が歓声を上げるが、伊織は驚いていた。


「私以外の人にフーコがしがみつくなんて始めてです 睦美さん、よほどフーコに気に入られたんですね 」


「睦美くんは人間にも動物にも好かれるんだね 」


「それもこれも睦美さんの人柄ですね 」


 月夜と忍がうんうんと頷いていると、フーコはがしがしと睦美の体をよじ登り、肩の上にちょんと座り、真ん丸の黒い瞳で周りを見回していた。そして、ハッと何か思い出したように睦美の体をかけ降りると、今度は伊織の肩に乗り、伊織の耳に向かってぴゅーぴゅーと鳴いていた。


「えっ…… 」


 フーコの鳴き声を聞いていた伊織の表情が厳しくなってきた。そして、睦美を振り向く。


「睦美さん、私たち以外にまだ招待されている方はいますか? 」


「ううん、牡丹ちゃんが来たからもういないよ ああ、そうだ カトリーヌさん、誰かお知り合いを呼んでいますか この前、スーパーでお話しされていた方とか 」


「いえ、私は呼んでいませんよ 」


 カトリーヌはあっさりと答えるが、そのつぶらな瞳はフーコ同様周囲を見回していた。


・・・確かに気を付けて探ると人のような気配がありますね でもこの朧気な気配は本当に人間なのでしょうか 人だとすると先日のサイレンス以上の忍なのは確かですね ・・・


 カトリーヌは静かに気配を消して探りに行こうとする。せっかくの自分の為のパーティーを変な輩に邪魔されたくないという思いからだった。しかし、月夜と忍、そして伊織に気付かれ止められてしまう。


「カトリーヌくん、君が主役なんだから僕に任せてくれよ 」


「そうですよ、トビくんたちと楽しんでいて下さい 」


 が、その月夜と忍も伊織に止められる。


「二人も楽しんで下さいよ フーコがもう一度確認に行ってくれます フーコは、超一流の忍リスですからね 」


 伊織が自慢した瞬間フーコの姿はもう消えていた。その速さにはカトリーヌも驚嘆していた。


・・・おやおや、私の複眼でも追えないとは…… 先程は私に害意はないと気付き、わざと捕まってみせたのですね なかなか可愛いじゃないですか ・・・


 カトリーヌも思わず微笑んでいた。




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