四十九話 キッチンカーにようこそ7
四十九話 キッチンカーにようこそ7
月夜たちが戻ってみると四葉のキッチンカーがお客様で賑わっていた。寅之助とトビが上手くお客様を誘導し、キッチンカーの中では睦美が手際よくサンドイッチを作っている。どうやら、もうすっかりコツを掴んだようだ。
「睦美さん、凄い それに、寅之助くんとトビくんもありがとう 」
四葉は嬉しそうに睦美たちにお礼を言い、自分も急いで着替えるとサンドイッチを作り始めた。赤い四葉のキッチンカーの前にはお客様が並び、前に置いてあるテーブルでは親子連れが美味しそうにサンドイッチを頬張っている。もともと四葉のサンドイッチはパンにもバターにも具材にも拘り、かなりレベルの高いものであった。妨害さえなければ人気になって当然の味であるのだ。
ようやくお客様の列が途切れ睦美が一息つこうと思っていたら寅之助とトビが注文してきた。
「動いたらまたお腹が空いてね 」
「僕もまた食べたくなっちゃいました 」
睦美が仕方ないなと、何にするのちゃんとお金は払ってよと言うと寅之助とトビは違う違うと両手を振る。
「睦美じゃなくて四葉ちゃんに作って貰いたいんだよ 」
「睦美さん、鈍いですよ 察して下さいよ 」
「いっ…… 」
睦美は思わず絶句したが、素直に四葉にその場を譲る。
「何にしますか、お客さん 」
四葉も微笑みながら二人に尋ねると、寅之助とトビはキッチンカーの前の看板に大きく写真入りで”お薦め”と紹介されているサンドイッチを指差す。
「このBLTサンド、ください 」
「僕も同じものを 」
「ありがとうございます 」
四葉は嬉しそうにサンドイッチを作り始める。ベーコンをカリカリに焼き、バターを塗ったパンの上におき、その上に軽く粗挽き胡椒をふったトマトのスライスをのせ、そして、その上にシャキシャキのレタスをのせ、それを粒マスタードを塗ったパンで挟めば完成だ。四葉はスッとサンドイッチを切り、お皿に乗せると二人の前に置いた。
「お待たせしました 」
二人は待ちかねたようにサンドイッチを頬張る。
「さすがお薦めだけあって美味しいわ 」
「カリカリのベーコンにトマトとレタスがぴったりですね バターとマスタードのお陰でパンがトマトとレタスの水分で湿っていないのもいいです 」
絶賛する寅之助とトビを見ている睦美の前にも四葉はサンドイッチをトンと置いた。
「睦美さんもどうぞ 」
「えっ、ありがとう 」
睦美もサンドイッチを頬張る。
・・・美味しい ・・・
睦美は手が止まらなくなりガツガツとサンドイッチを頬張っていた。
「睦美、ハムスターみたいだぞ 」
口の中一杯にサンドイッチを頬張る睦美の、その姿を見て寅之助が茶化していた。確かに睦美のその姿は、頬袋にご飯を溜め込むハムスターの姿にそっくりで、四葉は爆笑していた。
「ありがとうございます 四葉ちゃんのあんな嬉しそうな顔、久しぶりに見ました 」
鷺坂が月夜たちに深く頭を下げていた。
「お礼には及びませんよ みんな本当に良い部下、いえ仲間たちです あいつらも四葉くんの笑顔が見たい それだけで頑張っていたと思いますから、あの四葉くんの顔を見ればあいつらの想いも達成されたのは間違いないです 」
鷺坂は改めて思った。もっと早くこの人たちと出会えていたら……。
・・・さくら…… 僕も、四葉ちゃんも頑張っているよ ・・・
鷺坂は青い空を見上げる。さくらと二人でよく見上げて夢を語った青い空は変わらずに広がっていた。
* * *
・・・どうやら、サイレンスと一悶着あったようですね 痛み分けといったところでしょうか サイレンス以外の者が倒され、かたやこちら側も”くノ一”とからくり人形が手傷を負ったようです ・・・
・・・なるほど さすがに一流同士 勝負はつきませんでしたか ・・・
・・・助っ人が現れ、サイレンスが追い込まれていましたが、抜け目ありませんな 自分が不利と悟りすぐに逃走しました ・・・
・・・助っ人? ・・・
・・・ええ、風の忍術を行使するかなり強力な忍者ですな あなたでも勝つのは至難の技かと思われます ・・・
・・・そんな者も仲間にいるのですか 恐ろしい人たちですね ・・・
・・・それでは私は引き続き監視をおこないます ・・・
・・・ええ、ご苦労様 お願いします ・・・
連絡を聞き終えた人物は腕を組んで考えに耽る。古来より闇の中で暗躍する”サイレンス”。最近、そのサイレンスに敵対する勢力が現れ何度か戦闘を繰り返しているという。
・・・彼らなら、きっと成し遂げてくれるでしょう ・・・
その人物は冷えたトマトジュースを飲み干すとニヤリと笑った。
* * *
トビはカトリーヌを見てショックを受けていた。カトリーヌは脳天に穴が空き、顔もひび割れてしまっている。
「申し訳ございません、トビ様 油断してしまいました 」
「いや、ごめん トビくん 僕も相手がエビデンスだけと侮っていたんだ 僕の油断が招いた事なんだよ 」
「ええ、もともと人質にとられた私が悪いんです ここは連帯責任という事でカトリーヌさんをあまり責めないで下さい 」
月夜と忍がカトリーヌを庇うように言うが、もともとトビは怒ってはいなかった。人を助ける為に戦って負った傷だ。名誉の負傷といえる。それについて怒る事などない。むしろ、カトリーヌがそこまで人間の為に動いている事が誇らしかった。トビがショックを受けたのは単純に自分の造った会心の出来のドールの顔が無惨にひび割れてしまった事だった。
「大丈夫よ、トビくん 私も修復手伝うわ 家も近いしね ブリュのような顔にしてあげるね 」
睦美がトビの肩に手を乗せて言うが、トビはキッと振り向き睦美を睨む。
「睦美さん、ありがとう でも、ブリュではなくジュモーです カトリーヌの顔はジュモー 」
が、負けずに睦美も言い返す。
「カトリーヌさんもたまにはイメチェンしたいわよ いい、トビくん、聞きなさい 顔が変われば運命も人生も変わる ブリュの涼やかな目元で気品のある美しさ、その近寄り難い雰囲気は、それこそカトリーヌさんに相応しいと思いませんか 思いますよね 」
断定する睦美の気迫に押されながらトビも負けずに言い返す。
「このあどけない表情こそ純真無垢なカトリーヌに相応しいと僕は思いますけどね 」
自分の為に言い合いしている二人をオロオロしながら見ているカトリーヌに二人がキッと目を向ける。
「ならば、カトリーヌさん本人に選んでもらいましょう 」
「そうですね カトリーヌ、ジュモーとブリュ、どちらがいいか、遠慮しないで答えてくれないか 」
「うっ…… 」
カトリーヌはトビに対する”信頼”と睦美に対する”友情”の板挟みになっていた。それは今までのどんな戦闘よりも遥かにカトリーヌを悩ませていた。そんなカトリーヌに二人はさらに詰め寄る。
「さあ、選んで下さい カトリーヌさん 」
「カトリーヌ、良いんだよ 好きな方を選ぶと良い 」
「うっ、ううっ…… 」
カトリーヌは二人の顔を交互に見比べていたが、突然ジャンプすると姿を消した。
「逃げたね 」
「逃げましたね 」
成り行きを見ていた月夜と忍がポツリと呟いた。




