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四十八話 キッチンカーにようこそ6


 四十八話 キッチンカーにようこそ6



 月夜は確信した。


・・・間違いなく奴がいる サイレンスだ エビデンスはサイレンスを低く見ているようだが、その実力はサイレンスの方が遥かに上だと感じる ・・・


 エビデンスをサイレンスが助けに来たのは間違いない。神出鬼没のサイレンスを倒す千載一遇のチャンスではあるが、今の状態では分が悪い。忍もカトリーヌも倒れている。月夜も正直、今は肌に触れる空気の振動で敵の放ってくる忍具の位置を掴む触覚に集中しているので、それ以外に手が回らない状態だった。


・・・まったく コイツら楽しんでるな ・・・


 月夜は舌打ちしながら”千本”や黒塗りの槍をかわしたり叩き落としていたが、それに混じって黒い球体も月夜目掛けて投げられる。


・・・くそっ 全部避けるのは無理か ・・・


 月夜は”千本”はマントで叩き落とし、黒塗りの槍を”クナイ”で叩き折り、黒い球体を切り裂いた。その瞬間。


ブワッ


 切り裂いた球体から液体が飛び散った。その液体が月夜の体に降りかかる。


「くっ 」


 液体を浴びてしまった月夜は、空気の振動を感じる触覚も封じられる。


・・・やはり不用意に切り裂いたのは悪手だったようだ ・・・


 五感のうち残るのは嗅覚と味覚。月夜は微かな匂いを嗅ぎ分けようとするが、それもエビデンスを忍刀で突き刺した時の血の臭いが強烈で、全てがその臭いに紛れていた。


「あぁ、楽しかったけど、そろそろ終わりですかね 」


 残念そうな呟きが漏れた。そして、月夜に向かって無数の”千本”と、その中に混じって黒塗りの槍が高速で飛んでくる。月夜は”千本”をマントで叩き落とすが、黒塗りの槍を見失っていた。


「くっ 」


 月夜は即座に行動不能に追い込まれる急所だけは守ろうとするが、どこから飛んでくるのか見失っている黒塗りの槍から身を守る事は不可能だった。が、月夜は敵はこの状態でも自分の死角から攻撃してくるに違いないと、死角の位置に”クナイ”をおく。


ギィーーン!!


 黒塗りの槍を弾く事に成功する。


・・・やはり、この五感をほとんど封じられた僕の状態でも死角を狙ってくるのは、サイレンスに間違いないない そのお陰で助かったが ・・・


 しかし、月夜は時間差で放たれた二本目の槍に気が付いていなかった。敵はわざと一本目を防御させ、月夜の油断を誘ったのだ。しかも、用意周到な事に、この黒塗りの槍は無音の槍だった。鐘の音に紛れるだけではなく無音。一の槍に続いて、二の槍。この二の槍は月夜の背後から首筋に向かって飛んできていた。このままでは月夜の首を貫通するのは確実だった。


バキャッ!!


 が、この二の槍も叩き落とされる。忍具”三日月”が槍を叩き落としていた。


「もう少し楽しみたかったですけれど、仕方ないですね 」


 なんと胸に忍刀が貫通したまま忍が立ち上がって、返ってきた”三日月”を受け取っていた。そして、突き刺さった忍刀を顔をしかめながらスッと抜く。


「楽しみ過ぎですよ、忍くん 」


 月夜が文句を言うが、忍は逆に月夜を睨みつける。


「私の胸を刺しておいて何を言うのですか お仕事とはいえショックでした それにもし、あのエビデンスという男が一流の忍者で私と同じ事が出来たら意味ないですよ だから、そのお返しです 」


 月夜や忍は修行によって内臓の位置を動かせる。月夜もかつて腹を刺された事があったが、忍は胸である。腹を刺されて致命傷を避けるより遥かに難易度が高いが、今回は月夜と忍、そのお互いの絶妙な連携でその離れ業を実現していた。


「悪かったよ まったく、忍くんは怖いな その怖さをサイレンスにも教えてあげないか 」


 休みなく雨のように降ってくる”千本”の攻撃を叩き落としながら月夜が言うが、勿論、忍もサイレンスが現れた事を認識していて、サイレンスの位置を探っていた。そして、”三日月”を投げる。”三日月”は不規則な軌道を描き高速で飛んでいく。その”三日月”の斬撃で周囲の忍者が次々に倒されていくが、サイレンスに手傷を負わす事はかなわなかった。


「危ない、危ない 私は君たちを非常に高く評価しているのだよ なので君たちを倒すのに手は抜かない 」


 黒煙の中、”空蝉の術”を使ったサイレンスの声が四方から聞こえてきた。残った忍者は変わらず雨のように”千本”を放ってくる。月夜たちは”千本”を叩き落としながら、縦横無尽に襲いかかってくる黒塗りの槍には忍が”三日月”で対応していた。


「そろそろ、終わりにしましょうか 私の特大の忍術でまとめて葬って差し上げます 」


 どうやらサイレンスは無駄に槍を投げていたわけではなく、その槍を使って印を結んでいたようだ。月夜は、母・水無月から聞いた話を思い出していた。サイレンスは陰陽師の血も引いている。


・・・不味いな、僕らでは想像もつかないような忍術を使ってくる可能性がある ・・・


 知らない忍術程恐ろしいものはない。どうしても対処が遅れたり、誤ったりする可能性がある。そして、それが致命傷となる事も珍しくなかった。月夜と忍に緊張が走った。


・・・最悪、カトリーヌくんは大丈夫だろう そこに賭けるしかないか ・・・


 最悪の事態も想定し、月夜は忍刀を構えた。忍も”三日月”を構えサイレンスの攻撃に備えている。


「忍術”野分(のわけ)” 」


 その時、サイレンスとは違う声が響いた。そして、強烈な突風が辺りを襲う。この突風で黒煙は飛ばされ視界が戻ってきた。何者かが超高速で動いているのは気配で感じ取れたが、その姿を目視する事は出来なかった。


「忍術”虎落笛(もがりぶえ)” 」


 続けて次の忍術が発動される。冷たい凍てつく風が吹き荒れ周囲を凍らせていく。月夜はカトリーヌに刺さっている槍を抜くと小脇に抱え、”虎落笛(もがりぶえ)”の有効範囲から飛び出す。忍もそれに続いていた。逃げ遅れた忍者は彫刻のように凍りついている。そして、地面には首をはねられたエビデンスの姿が転がっていた。


「凄い忍術ですね 」


「前に見た時はあの突風に”千本”が紛れていたからね 避ける事だけで精一杯だったけど、今度は更に凍らせる忍術とか、もう反則だろう、これ 」


「今回は色々見れて楽しかったです それにしても、あの忍び 私に槍を突き刺すなど相当な手練れですね 私の複眼は死角などないというのに 」


 カトリーヌがつぶらな瞳で驚きましたと話していると、一人のセーラー服に褌姿の”くノ一”がスッと姿を現した。


「また逃げられてしまいました 残念です 」


「いや、四葉くんが来てくれて助かったよ 普通なら自分の命よりも僕らにとどめを刺そうとする所を、あのサイレンスはそれをやめてあっさりと退いていくからね それが奴の恐ろしいところだな 」


「本当にそうですね 忍者なら殺す相手を仕留める事が最優先ですよ それなのに四葉さんが来るとあっさりと、しくじった仲間を始末して退きますからね サイレンスという忍びは普通の忍びとは違う気がします 」


 月夜と忍も改めてサイレンスの底知れぬ恐ろしさに気を引き締めていた。


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