四十七話 キッチンカーにようこそ5
四十七話 キッチンカーにようこそ5
周囲を取り囲まれ、忍を人質に捕られている月夜たちは絶体絶命のピンチと思われた。エビデンスは忍の首にクナイを当て残酷な笑みを浮かべていた。
「情けないものだな 人質を助けようと追ってきたのはいいが、返り討ちにあうとは 」
しかし、月夜は慌てる素振りもなく悠々とエビデンスを見つめている。カトリーヌもつぶらな瞳でエビデンスを見つめていた。
「君は大きな勘違いをしている 僕たちは忍くんを助けにきたわけではないよ 君を殺しに来たのさ 忍くんは一流の忍者だ、心配する必要はない 三流の君には分からないだろうがね 」
月夜は淡々とした口調で言うが、その瞳は恐ろしく冷たい光を放っていた。
「あなたのような人間を世に放っておく訳にはいきませんね 私のお友達の為にも害ある者はここで始末させてもらいますよ 」
カトリーヌもつぶらな瞳で恐ろしい事を言う。この追い込まれていると思われる状況で、自分を始末するつもりでいる二人にエビデンスは恐怖を感じていた。
・・・どういう事だ この”くノ一”はコイツらの仲間だろう なぜ平然としていられる ・・・
エビデンスは逆に自分が追い詰められた気持ちになり、頭を振る。
・・・いけない 追い詰められているのは、あいつらだ 何を弱気になっている ・・・
エビデンスは自分を鼓舞するため大声を出す。
「口だけは達者なようだな だが、この現状をどうやって打破する気だ 私も貴様ごときにいつまでも付き合ってはいられない もう終わりにさせてもらうぞ 殺れっ! 」
エビデンスの号令で周囲を囲んでいる忍者たちが一斉に”千本”を射つ。四方八方から襲いくる”千本”に月夜たちが全身針ネズミにされたかと思われたが、黒いマントをバサッと振っただけで敵が放った”千本”は全て叩き落とされていた。当然ながら飛び道具対策は備えている。が、忍者たちも続けて時間差で第2撃を放つ。
バサッ、バサッ
しかし、それもあっさりと月夜に叩き落とされる。
「僕たちを狙うなら、少なくとも死角から無音の攻撃でなければ無駄ですよ 数が多ければいいというものでは有りません 」
「ぬうっ 」
忍者たちは忍刀を抜いて襲いかかろうとしたが、時すでに遅し。カトリーヌの糸で体を拘束されてしまっていた。
「何だこれは 」
周囲を囲んでいる忍者たちは驚愕するが、カトリーヌは冷静に答える。
「一番恐ろしいのは知らない技を仕掛けられること 一流の忍者は自分独自の忍術を編み出しているものでしょう その引き出しが多いほど戦いが有利になりますからね 敵に勝つには、相手の知らない技を先に放つ事 これが鉄則ですよ、皆さん 私のこの術は”不動金縛りの術”とは違います 簡単には動けませんよ 」
エビデンスは動けずにいる自分の部下たちを見ると、冷酷に笑う。
「仕方あるまい ならば私は退かせてもらおう お前たちが一歩でも動けば、この”くノ一”は殺す 」
「あなたの名前”エビデンス” 誰が名付けたのか知りませんが大笑いですね あなたは本当の忍者というものを、まるで分かっていない 任務の為なら命も捨てる 忍者に人質など無意味と教えられませんでしたか 」
「ふん、いくらでも強がりを言え 動けば本当にこの”くノ一”は殺す 」
「どうぞ、ご自由に 僕はあなたを殺します 」
月夜は忍刀を抜くと電光石火の動きでエビデンスに向かって投げた。エビデンスは忍の体を盾にして忍刀をかわすつもりで、忍の体の背後に隠れていた。
ドスゥッ!
忍刀は忍の胸に突き刺ささる。そこへ、さらに月夜が時間差で投げた”礫”が当たり、忍刀を押し込んでいく。
ズバッゥ!
忍刀は忍の体を貫通し、背後にいたエビデンスの体にも深く突き刺さる。
「ぐわっ…… 馬鹿な、仲間の体を貫いて私を倒すだと…… ふざけるなっ! 」
エビデンスはヨロヨロと歩き、”穏行の術”を使い気配を消す。胸を貫通された忍は地面に横たわりピクリとも動かなかった。月夜は、エビデンスの気配を探るが、さすがに穏行の術には長けているだけあり、その位置を特定する事は困難だった。
「手負いの状態で気が乱れないとは、少し見直しましたね 」
月夜が呟いた時だった。突然辺りに黒い煙が広がり夜の暗さになる。
ヒュッ!
「ぶぎゃっ 」
鋭い音がしたすぐ後にカトリーヌの小さな悲鳴が響く。まさかと、月夜が振り向くと真っ黒に塗られた槍が、カトリーヌの脳天から地面へ貫通していた。
・・・これは、黒煙の術 一瞬に視界を奪い、黒く塗られた忍具で敵を倒す技だ 僕より先に忍者たちを捕らえているカトリーヌくんを狙ったのか しかし、これはエビデンスではない あの男程度の能力ではカトリーヌくんを倒すなど不可能だ まさか、奴が来ているのか ・・・
月夜は黒い煙の中、五感を研ぎ澄ませる。僅かな気配でも見逃せば命取りになる。
ヒュッ
微かな音を捉え月夜は身をかわす。月夜のすぐ横の地面に黒塗りの槍が突き刺さっていた。さらに、自由になった忍者たちが”千本”を放ってくる。月夜はマントで”千本”を打ち落としていくが、あの黒塗りの槍はマントでは打ち落とす事は出来ない。忍刀は投げてしまった為、あとは”クナイ”しかない。月夜は右手で”クナイ”を持ち、黒塗りの槍に対抗するが、雨のように襲ってくる”千本”を打ち落としながら、間隙を縫って襲ってくる目視不可能な黒塗りの槍に手を焼いていた。
・・・このままでは、いずれ殺られる 一度退くのが正解か しかし、エビデンスをこのまま逃がすのも、あまり好ましくないな ・・・
月夜は孤軍奮闘しながら、忍とカトリーヌをチラッと見る。忍は胸に忍刀が突き刺さったまま地面に転がり動かない。カトリーヌも脳天から串刺しにされて動かなかった。黒煙は若干薄れてきたが、まだ自分の周囲ほんの数メートルしか視界はない。
ゴオォォーーン!!
黒煙の暗闇の中、鐘の音が鳴り響く。
ゴオォォーーン!!!
鐘の音は続けて鳴らされていた。敵はどうやら月夜の聴覚も奪う作戦のようだった。
「くっ 」
それまで耳で槍が飛んでくる微かな音を聞き取りかわしていた月夜だったが、聴覚も潰され徐々に追い詰められていった。
・・・これは間違いなくエビデンスではない 奴がいる ・・・
月夜は確信した。




