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四十六話 キッチンカーにようこそ4


 四十六話 キッチンカーにようこそ4



「何、撮影してやがる 」


 男の一人がトビのスマートフォンを奪おうとするが、トビは巧みにかわしながら撮影を続ける。


「この赤いキッチンカー、可愛いですね サンドイッチを販売しているようです それにこんな強面の方も買いに来ているようで、よほど美味しいのでしょうね 」


 トビは、男たちもスマートフォンで撮影しながら、さらに続ける。男たちも、現状がライブ配信されているかと思うと無茶な事は出来ずに、顔を隠すようにして退散していった。


「トビくん、さすが 揉め事を起こさないで解決したね 」


 ハラハラしながら見ていた睦美が、よくやったというようにガッツポーズをする。寅之助もトビとハイタッチをしたが、トビは大きく息を吐くと、椅子に座り込んでいた。


「上手くいって良かった 四葉さん、もう僕らも関わりになっているから今度はこのキッチンカーを紹介しても良いですよね 」


 力尽きたように言うトビを見て四葉は驚いた顔をしていた。


「どうして皆さんはそこまでしてくれるんですか 」


 四葉は戸惑っていたが、逆に睦美たちも戸惑っていた。


「どうしてって 頑張っている人、困っている人に協力するのは当たり前でしょう 」


 睦美が呆れたように言い、寅之助もトビもウンウンと頷く。


「でもそれで揉め事に巻き込まれるかもしれないんですよ 」


「揉め事に巻き込まれるからって、それを見て見ぬ振りは私には出来ない そんな事をしてしまったら私は私を一生許せなくなるから 私は幼い時から両親に困っている人を助けられるようになりなさいと育てられてきたから それに、さくらさんが亡くなっているんですよ 相手がどんなに社会的に高い地位の人でも、人が亡くなるような事をする人は、私は人として認めません もちろん、それを擁護する人も同じです その人もそれを容認しているという事ですから許せません 大体、謝罪もないってどういう事ですか 道義的責任が分からないって、自分は人間ではないと言っているのと同じですよ 」


 途中からエキサイトしてきた睦美に寅之助が慌てる。


「お、おい、睦美 誰の事いってるんだ まあ、それより四葉ちゃんも俺たちの事を信頼してくれよ 耐えてるだけじゃ良い方向に向かないと思うぞ 」


「そうですよ お節介かもしれないけど 困っている時は遠慮しないで助けを求めて良いと思いますよ 僕も以前は引き籠りだったけど、今はこうして睦美さんや寅之助くんと楽しい毎日を送っているしね 」


「でも、その楽しい毎日が壊れてしまうかもしれませんよ 私に関わったばかりに、その毎日が失くなっても良いんですか 」


「勿論ですよ 四葉ちゃんも私たちの事を見くびらないで下さい 私たちも当然、その覚悟はありますよ 」


「人間は一人で生きていく事は出来ないからさ 四葉ちゃんの力に俺たちはなりたい 」


「一人では出来ない事も、仲間が集まれば可能になりますからね 」


 四葉は睦美たちの言葉に信じられないという表情を浮かべていたが、そこへ鷺坂がやって来る。


「藤林さんが拐われた 高坂さんとカトリーヌさんが追っていったけど心配だ 四葉ちゃんも力を貸してくれないか さくらが言ってたけど、四葉ちゃん強いんだよね 」


「…… でもキッチンカーを営業しないと あまり売上が悪いと次回から選抜してもらえなくなるから 」


「心配しないで四葉ちゃん キッチンカーは私たちが代わりに売るから とら、トビくん、いいよね? 」


「当たり前だろう 」


「当然ですよ 」


 それでも決めかねている四葉の肩を鷺坂が叩く。


「四葉ちゃん、人に頼るのも良いもんだよ それに、藤林さんは僕の代わりに捕まったんだ 僕では助けられないから四葉ちゃん、代わりに頼むよ 」


 鷺坂の熱心な要望に四葉は決心したようにキッチンカーの中に入ると暫くして出てきたが、その姿に寅之助とトビが目を丸くする。睦美はロードレース大会の時に伊織から雑談の中で聞いていたので驚かなかったが、四葉はそのロードレース大会の時と同じ、セーラー服に褌姿だった。


「二人はこれを追っていったよ 」


 鷺坂が拾ってきた小さな玉を四葉に見せる。


・・・虹彩玉 やはり、あの人たちは一流の忍者なんだ ・・・


 玉を見た瞬間、四葉の姿は風のように消えていた。その動きは、高速の動きでも捉える事が出来る睦美の眼でさえ追う事が出来なかった。


・・・凄い 前にチーフが言っていたけど風の忍術って私の眼でも見ることが出来ないんだ ・・・


 睦美は初めての経験で驚いていたが、すぐに動き出す。四葉のキッチンカーに入り、食材の場所や量、調理器具を確認する。


「私がサンドイッチ作るから、あんたたちお客様を集めてっ 」


 四葉の姿に驚いていた寅之助とトビも、我に返ったように動き出す。


「さあ、バンバン売るわよ 」


 睦美の威勢のいい声が響いていた。


「任せろっ 」


「了解っ 」


 寅之助とトビも威勢よく答える。キッチンカーの前からお客様がいなくなった時の四葉の悲しそうな顔が三人の脳裏に焼き付いている。四葉を笑顔にさせるため全力を尽くす。その気持ちが、三人の顔に現れていた。鷺坂は思う。さくらが生きている時に、この人たちと出会えていたら違う未来があったのではと……。



 * * *



 月夜とカトリーヌは、滝の手前でエビデンスに追い付いていた。エビデンスは、追い付いてきた月夜たちに驚いている。


「私の穏形を見抜く者がいるとは驚きだ 少し認識を新たにしないといけないな 」


 それでもエビデンスは落ち着き払っていた。どうやらまだ月夜たちを低く見ているようだった。


「面倒な奴らだな 私が自分で殺すつもりだったが、もうさっさとここで始末するか 」


 ピューッ!


 エビデンスが指笛を吹くと、月夜たちの周りに数十人の忍び装束の男が現れた。忍はエビデンスに押さえられ首に”クナイ”を当てられている。


「少しでも動けば、この”くノ一”の首にクナイを突き刺す 」


 エビデンスは高笑いしながら言う。


「白土三平氏のワタリでも最後に勝つのは数の多い方だ 個人の力など知れたもの 貴様らもここで朽ち果てるがよい 」


 人質を捕られ、何重にも囲まれてしまった月夜たちは絶体絶命のピンチだと思われた。



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