四十四話 キッチンカーにようこそ2
四十四話 キッチンカーにようこそ2
「どうして、それを…… 」
鷺坂は驚愕の表情で月夜を見つめる。
「いえ、もしかしたらと思っただけです 以前、おそらく四葉さんと思われる忍がサイレンスという忍を襲ったんです 偶然、僕もその場に居合わせたものですから でも、やはり関係があるのですね 」
「”世直し人”の正体を探ったのです 探っていくうちに、この人物は一人の人間ではないと分かりました 何人かの人間が誰かの指示で書き込みを行っているのです 同じ”世直し人”というアカウントを使って…… 四葉ちゃんと四葉ちゃんの知り合いの方も協力してくれて突き止めたんですよ。その人物の一人が株式会社サイレンスの野田という人物です。以前、地方のローカルロードレースに出場するというので四葉ちゃんと顔を拝みに行きましたよ 向こうもこちらに気が付いたようです 動揺していたと言っていましたよ なにしろ自分達が追い込んで自殺させたさくらの妹ですからね 匿名で自分の事がわかる筈がないと、たかをくくっていたのでしょう 」
・・・そうか、それがあのロードレースの時 ・・・
月夜は自分も参加したロードレースを思い出していた。
・・・あの時株式会社サイレンスから参加していたのは金田課長のグループだ 金田一家と伊織くんは除くとして他にもサイレンスの人間がいたのか ・・・
月夜が鷺坂と話している最中、睦美たちは四葉と話していた。
「四葉さんのサンドイッチ美味しいんだから、口コミで評判になれば、あんな奴らの妨害なんて目じゃないわよ やるわよ、寅之助、トビくん 」
「やるって、何を? 」
「あんたたちもSNSやってるでしょう フォロワーのみんなに協力してもらって四葉さんのキッチンカーを盛り上げるのよ 」
「でも、私に関わったら今度はあなたたちも標的になってしまいますよ ありがたいですけど、他の人に迷惑をかける訳にはいきません 」
四葉は睦美たちの協力を有難いと思いながらも、それを拒んでいた。その時……。
「四葉のクローバーさん 」
カトリーヌが四葉を呼んで、キッチンカーの陰に連れ出すと声を潜めて話し出した。
「あなた程の忍なら、もう分かっているかも知れませんが、私は人間ではありません その私がこうして人間の世界で暮らしていけるのは、あそこに居る人たちのおかげです あの人たちは、人を助けて自分に災難が降りかかっても迷惑なんて思いませんよ 人間は協力して生きていける それこそが人の強みだと思います 逆にいえば、他の人に思いやりのない人間は、私の中では人間とは思えません 他人に危害を加える人間は勿論ですが、自分の事しか考えない人間も同様ですね 人間の力は私のような人外に比べれば弱いです ですから、四葉さんも協力してくれる人は頼って良いと思いますよ 勿論、私も出来る事は協力します 」
四葉は目を丸くしてカトリーヌの話を聞いていたが、ふいに天を仰ぎ、その後カトリーヌのつぶらな瞳を見つめる。そして、ありがとうとカトリーヌに握手を求めた。
* * *
「いい、あんたたち 心ない妨害をされている四葉さんを援護するのよ ところで寅之助のフォロワーどれくらいいるの? 」
「インフルエンサー寅之助を舐めるなよ 30人だ 凄いだろう 」
「さ、30人? 三万人じゃなくて…… トビくんは? 」
「僕もそれくらいかな 」
「なんだよ 睦美は何人いるんだよ 」
「私は50人いるわよ 三人で百人程度じゃ心もとないわね 」
「いや、睦美さん そうでもないですよ 」
トビがいやに自信たっぷりに言うが、睦美と寅之助は顔を見合わせる。
「僕のフォロワーの中に本物のインフルエンサーがいるんですよ 彼女に協力してもらいます 」
「えーっ、凄いじゃない でも、その彼女に迷惑かからない? 」
「大丈夫ですよ 彼女はもう長いことネットをやっていて、いわゆるアンチなコメントにも慣れています もちろん批判には真摯に対応しますが、ただの誹謗中傷はスルーやブロックします それにもし万が一、彼女に物理的な嫌がらせをしてくるなら、僕もカトリーヌも黙っていません 僕にとっても大切なジュモー仲間ですからね 」
「よーし、それでは作戦開始 」
睦美が号令すると同時に皆スマートフォンを操作しだした。しばらくすると睦美が勝ち誇ったように寅之助とトビにスマートフォンの画面を見せる。
「睦美様、了解 睦美姫、かしこまりました 女王様、お任せ下さい…… なにこれ? 」
画面を読み上げた寅之助が呟く。トビも見てはいけないものを見てしまったような表情をしている。睦美は自分のフォロワーたちが快く依頼を引き受けてくれた事を見せたかったようだが、それは違う疑惑を産んでいた。
・・・いったい、あいつはSNSで何をしてるんだ ・・・
寅之助とトビは睦美の闇を見たようでガタガタと震えていたが、後ろから覗き込んでいた四葉とカトリーヌは爆笑していた。
「なぜか想像出来てしまい可笑しいです 」
もうカトリーヌは本当に腹を抱えて地面を転がり笑っていた。四葉も険しい表情がなくなり、楽しそうに笑っている。それを見た鷺坂の表情も柔らかくなっていた。
「あの、サンドイッチ、頂けますか 」
四葉の赤いキッチンカーにお客様がやって来ていた。SNSの凄いところは、その即効性がある。良いことも悪いことも、あっという間に全世界に拡がる。”世直し人”のような悪意ある発信も拡がるのが早いが、その逆の善意ある発信も拡がるのが早い。使い方によっては凶器にもなるが、守ってくれる盾にもなる。四葉は急いでキッチンカーに入るとサンドイッチを作り始めた。いつの間にか四葉のキッチンカーにも、他のキッチンカーのように行列が出来始めていた。睦美たちもお客様の誘導やメニューを見せオーダーを取ったりと四葉の手伝いに忙しくなっていた。




